豆柴彼女。

ちゃあき

文字の大きさ
上 下
10 / 43
2話 友達がくる

4. 遅刻

しおりを挟む
「京の家の動物って大人しいよな。インコも全然鳴かねぇし」

 ——ちなみに、後になってあずきがピーから聞いた事には、あつしははじめてこの家に来た日も京の目を盗んでピーをレタスで釣ろうと必死になったそうだ。

 どうしたのかと聞いたら、無視したと高潔なるインコは嘯いた。

「テンション高い時もあるよ? ねぇあずき」
「ヒャン!」

 京はあつしの隣に座り、近くにあったあずきのおもちゃを投げた。あずきは反射的にそれを取りに走った。戻ってくると京が褒めてくれる。うれしくて尻尾をふった。

「……やらして」
「いいよ」

 今度は興味なさげな(ふりをしてた)あつしがおもちゃを投げた。あずきはそれを本能で追ってキャッチする。
 持って帰ると彼もなでてくれる。悪い気はしないし、怖くもない。最初からこうしてくれれば良かったのにとあずきは思った。

 インコもこういうの出来るの? とあつしが聞くので、京がピーも部屋に放した。

 ピーは機嫌がいいと少しだけ相手をしてくれる。あずきを抱いておもちゃを投げてみると、今日はツンツンとくちばしで突いた後、細い脚で蹴飛ばし部屋の中の気に入った場所に飛んでいってしまった。

 何度かチャレンジする内にあずきが我慢できずに逃げ出した。ピーとおもちゃの取り合いをはじめてしまう。それが面白くて2人してずっとおもちゃを投げていた。




 ……豆柴とインコにおもちゃを投げてただけなのに、気が付くとなぜか2時間経ってたせいで2人は飲み会に遅刻した。

「行ってくるからね」
「ヒャン!」

 玄関を出ようとする二人にあずきは駆け寄って見送る。あつしはじっとあずきを見つめて、またスマホの画面に視線を移しスクロールした。

 あまり近付くとポケットに入れられそうな気がして、京の後ろに隠れる。

「……あつしすごい熱烈だったね」
「ヒャ!?」

 屈んで靴紐を結ぶ京が振り返って小声で囁いた。
 見てたのなら助けてくれれば良かったのにとあずきは思う。自然に眉間に皺が寄る。チワワよろしくプルプルしていたら、京が笑いを堪えるのがありありと分かる。

「じゃ何かあったら電話してね」

 リビングに置かれたiPadの使い方は、この間京に教えてもらった。だからあずきは電話と、平仮名だけだがメッセージの送受信もできるようになった。

「その犬電話できんの?」
「……あはは、冗談だよ」

 京が茶化すと、あつしはふぅんと興味なさげに返した。
 ドアがバタンと閉まる。遠ざかる二人の話し声を聞きながら、突然すさまじい疲労感をおぼえたあずきは横にパタリと倒れた。

 ピーが珍しくピョロピョロ鳴く。舎弟たる豆柴を労っているのだとあずきにも分かる。

 飼い主の友達は嵐のような人だった。
 ……——でも、決して悪い人じゃなかった。あずきはしばし心地良い疲れに瞼を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...