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3話 服を買いに行く
7.かぐや姫とは
しおりを挟む「あずき、バイバイして」
「ヒャ……」
眠そうなあずきはほとんど目を閉じまま、走り出した電車の窓越しのあつしへぱたぱた手を振る。
無表情なあつしがニヤつくのが僕には分かる。
電車を見送りあずきの手を引いて歩き出した。
しかし赤い靴を履いた足元はフラフラで、あっちに行ったりこっちに行ったりおぼつかない。
仕方なく抱き上げて2枚のSu○caをタッチして改札を潜った。
意外に重くなってしまったショッパーががさごそ音を立てる。
あずきの方が軽いくらいだ……でもしばらくはセンス悪くない服を着せてやれそうで安心した。
街灯もまばらな住宅街へあずきを抱いたまま歩み出す。
はじめて彼女を見つけた日も、そういえばこの道を歩いていた。
あの日、雨に濡れてくたびれた小さな冷たいぬいぐるみだと思ったのに。
……——今腕の中にいるあずきは暖かくて可愛い女の子だ。それがとても不思議な気持ちにさせる。
今日はあの日みたいに雨は降ってない。天気の良い空に白くて大きな弓月の橋が掛かってる。
そういえば昔話にかぐや姫というのがいて、確か月から来たのだという。
竹藪で拾われた彼女は人間界の男どもの間を散々引っ掻き回したあげく、気が済んだら月へ帰ってしまった。
たいそう不思議な女の子だけど、男は大体そう言うのが好きだ。
「あずきはどっから来たんだろうね」
「……ヒャン」
目を閉じたままのあずきが、小さな鳴き声で相槌をうってくれた。
かぐや姫は一説に実は宇宙人だともいう。そんな創作SFをいつかどこかで見たような気がする。
「……ありがとうな、今日」
「べついいけど。あとで撮った写真載せとくから」
分かったと言って熱士との通話を終えた。
先ほど店で撮ったあずきの写真を彼のアカウントに載せるらしい。
恵奈さんも一眼で撮影していて、それもその内ショップのアカウントに載せるそうだ。店で見せてもらったけど綺麗に撮れてたと思う。
目の前に本人がいるけど画像がアップされたらまた見たい。
彼女はもう犬に戻ってしまったし……。
あずきは部屋に着く頃にはいつの間にか犬に戻ってたから、そのままケージのクッションの上に寝かせておいた。
小さな寝息が聞こえる。眠ってるのはどう見ても小さな赤茶色の豆柴だ。何であずきは犬で人なんだろう……?
冷蔵庫から適当に出したチューハイのせいで思考がだんだん拡散していく。
でも今日は彼女の存在を熱士と共有したことで、その現実味が少し増した気がしてる。
SNS上で他の人間にも認識されたら、あずきという不思議な犬の女の子の輪郭はよけい鮮明に浮かび上がるだろう。
不思議な子だ……最近僕はこの子のことをよく考えてる。
fin.
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