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3話 服を買いに行く
1.電話をかけてくる犬
しおりを挟む「……もしもしっ」
「もしもし? どうしたの?」
風呂に入ってたらリビングから電話がかかってきた。
微笑ましくてすぐに出てあげる。元気の良い声がドアの向こうからも聞こえて、吹き出しそうになるのを我慢した。
電話のかけ方を教えてから、あずきはたまに家の中で電話をかけてくる。外にいる時の方が遠慮してるのかかえってかけてこない。
目の前にいるんだけど"電話をかける"という行為自体に、彼女にとって魅力的な何かがあるみたいだった。
「京さんお風呂ですかっ?」
「そうですよ」
「いつごろ出てくる予定ですかっ」
「そうだなぁ……ふふっ」
最後は我慢出来なくて笑ってしまった。
眠たかったのかピーは巣箱に篭ってしまったから、あずきは一人で遊んでるのに飽きたのだ。
もう出ますよと言って通話を切った。
髪を拭きながら風呂から出ると、あずきがタオルを広げて近付いてきた。僕がすでにタオルを持ってるのを見るとハッと方向転換して戸棚に帰っていく。
……以前タオルを忘れて持ってきてもらってから、活躍の機会を狙ってるらしい。
彼女は勤勉で微笑ましい犬だ。色んな事を知りたがり色んな事を覚える。
いつの間にか掃除と洗濯が出来るようになった。だからもうあずきにパンツを見られるのが恥ずかしくない。それがいいのか悪いのかわからないけど。
掃除については大きな掃除機を扱うのに苦労してたから、バイト代が入ったらハンディ掃除機を買ってあげようかな……などと考えてる。
火と包丁はまだ怖い。はじめて会った日以降も一人で料理をさせた事はない。
……——そんなこんなであずきは僕の生活に驚くほど自然に溶け込んだ。彼女との暮らしに何が必要か僕は近頃よく考えてる。
ほとんど不満を訴えない子だから余計そうなるのかも知れない。
(今度フルーツナイフか何か買ってみようかな。あ、ていうか……)
「あずき、新しい服買わない?」
「えっ」
あずきははじめて会った日から同じ服を着てるのだ。
犬の姿の時に干されてるのをたまに見るが、基本的に犬だと思ってたから、洗い替えのことをすっかり失念していた。
iPadで通販サイトのそれっぽいブランドのページを表示して、あずきを手招きソファに座らせた。気になるのがあったら、押したら見られるからねと言って髪を乾かしに行く。
横目で盗み見ると眉間に皺を寄せて唸ってるようだ。
彼女の眼鏡にかなう服はあるだろうか……というかどんな服が好きなんだろ。期待と少しの好奇心が湧いた。
「どう? 好きなのあった?」
「そうですね……」
何だか……——思ったよりあずきは浮かない顔だった。
好みのものがなかったんだろうか? 違うブランドを見せようかと考えてたら、神妙な面持ちでおずおずと口を開いた。
「あのっ……あずきは犬だからですね……」
「うん」
「だからっ、そのっ……人間の服の違いがあんまり……」
「なるほど」
あずきはどうやら人間の服の見分けがつかないようだ。
違いが分からないものを選べというのも酷な気がする。僕が選んでもいいけど、知らない内に変なのを着せてたらあずきのセンスもズレていきそうだ。
どうするべきだろう——……?
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