1 / 43
1話 豆柴の恩返し
1.落ちてた
しおりを挟む寒い小雨の深夜だった。
僕は駅からの短い帰路を急いでた。宅飲みしてた大学の友人の部屋から、隙を見て抜け出してきたのだ。
そのまま泊めてもらえばよかったけど、一人暮らしの家にインコを飼ってる。餌と水が心配だからそっとフェードアウトしてきてしまった。
ペットに本気過ぎるとよく言われる。でもここで本気を出さずして、どこへ心血を注ぐべきか僕には分からない。
「……あれっ」
ふと見ると、電信柱の影に赤茶色の小さなぬいぐるみが落ちてた。
ゴミ捨て場は一つ向こうの電柱だ。落とし物かそそっかしい近隣住民の仕業だろうか。
雨にぐっしょり濡れて、うつぶせになってるぬいぐるみは何だかさみしげで可哀そうだ。酔いもあり、しゃがみ込んで背中をつまむと思ったより柔らかくてむにゅりと伸びた。
……——かすかに温かい。よく見ると腹がすこしだけ膨らんだり萎んだりする。
僕はその塊を腕に抱えると、自宅へ向かう足を一層早めた。
□□□
クッションの上にバスタオルを敷き、赤茶色の塊を寝かせ電気ストーブを引き寄せた。
濡れた毛をふいて、なでてみたけど目を開けない。口元に手で水を持っていってやったら少し飲んだ。まだ生きる気力は残ってるようだ……とても小さいけど、確かにそれは生き物だった。
遠赤外線に照らされてるのは、赤茶色をした柴の子犬だ。
なんとか息をしてるけど、今にも止まってしまいそうなほどか細くて弱い。拾った時より呼吸が深くなった気がする。それがいいのか悪いのか今は分からない。
目を覚ました緑色のインコがカゴの中から興味深そうにこちらを伺ってる。動物の言葉が分かるなら、どうすればいいか彼に相談してみたい。
もしも話ができるなら、なぜあんな所に一匹で行き倒れてたのか、そして今何を望んでるのか聞いてみたい……。
もしも彼らと人間みたいに話ができたなら、
「……あのっ」
「ん?」
「あのっ、すみませんっ」
重たいのですが……と掌の下から声が聞こえる。
寝ぼけながらもごめんねと言って手をどける。すると、ありがとうございますと律儀にお礼を言われた。
昨日はいつの間にかソファを背もたれに寝てしまった。酔ってたし疲れてもいた。それに確か昨日は……——犬!
はっとして飛び起きた。そうだ、昨日は雨の中で行き倒れの子犬を拾ったんだ。今にも生き絶えそうなほど弱った子犬だった。
あの犬をなでながら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
しかし話ができるようになったという事は昨日より回復したんだろう。寝ぼけた頭にそんな明後日なことを考えながら、クッションの上に視線を移した。
「お、おはようございますっ」
そこにはふわふわした赤茶色の髪に黒目がちな瞳をした女の子がいた。
垂れた短い眉毛が困ったように顰められてる。でも元気よく挨拶してくれたし機嫌が悪いわけではなさそうだ。
だんだん酔いや眠気が醒めてきた……同時に背筋も寒くなってきた。確かに昨日は酔っ払ってた。だからってこんな間違いを犯すとは愚かにもほどがある。
子犬と女の子を間違えるなんて、いくらなんでもモウロクし過ぎだ。
いっそ死んだ方がいい。ここからの流れによっては社会的に死ぬ。緑のインコが冷めた目でこっちを見てる。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
異世界で、すでに人妻だったオレ
mm
ファンタジー
トラックに轢かれ、異世界に吹っ飛んで来たオレ。だが転生でも転移でもないような?
もう既に結婚して、息子もいるらしい。
そしてどうやらこの子を勇者に育て上げなければならないらしい。
え、ヤダ。
オレの大事な息子をそんな危ない目に合わせたくはない!
親バカな話にしようと思っています。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる