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しおりを挟む「ナナ、あのね。私結婚したの」
私の親友、伯爵令嬢のカーリンは青い瞳を細めてそういった。
私も彼女におめでとうと伝えた。
カーリンが16歳で結婚することは、彼女の家に代々伝わるしきたりだと以前きいた。
とはいえカーリンもまだ私と同じ学生だ。
卒業までは形だけの夫婦として今まで通りの暮らしを続けるらしい。
「今日は夫のノアが屋敷をたずねてくるから、あなたにも紹介させてね」
「分かったわ。どんな人か楽しみ」
素敵な人なのとカーリンは愛らしい顔で笑う。
ゆたかな金髪にぱっちりした大きな碧眼、白くて細い身体、ピンク色の唇……富豪の伯爵家の一人娘カーリンは絵にかいたようなお姫さまだ。
一方の私には、半分は平民の母親の血が流れている。
黒い髪に黒い瞳、身体も痩せて肌も白いというより青白くて何だかみすぼらしい。
私の母は何も悪くない。でもその血の濃さを呪いたいときがある。
こんな私とも親しくしてくれるカーリンはまさに天使だと思う。幸せそうな彼女を見ていると、私も何だかうれしいのだ。
「カーリンお嬢さま、ノアさまがお見えになりました」
「こちらへお通しして」
姿をあらわしたのは想像とは違う人だった。
ノア・フェルド氏は由緒正しい子爵家の次男で、24歳の文官だそうだ。
私は堅物そうな人を想像していた。ここにはいないが、例えば私の兄のような。
「カーリンお嬢さま、ご機嫌うるわしゅう」
「お嬢さまはやめて! ノア」
カーリンはノアの姿を見つけると、ぱっと明るい顔になった。彼もカーリンに微笑みかける。
ノア・フェルドは思ったより表情が柔らかい人だ。そしてカーリンと同じ金髪に青い瞳で、想像よりずっと洗練された端正な顔をした人だった。
「紹介するわ、彼がノアよ。私の夫になった人……ノア、彼女が話してたナナよ。私の一番大切な親友」
『一番大切な親友』という言葉が素直にうれしい。
ただカーリンの親友の座にいるのが私のような女だったことに、ノア氏が失望しないか心配だった。
「はじめまして、ナナ・ハレノです。」
「ノアです、よろしく。カーリンはいつもあなたの話ばかりしてますよ。ところでハレノって、エミル・ハレノ伯爵の……お嬢さん?」
「妹です」
これは失礼しましたとノア氏は謝った。兄のエミルとは夜会などで顔見知り程度の知り合いらしい。
「伯爵も人が悪いよ。こんなに美しい妹君を隠してるんだから」
「ふふ、私はまだ世間のことにうといですから」
兄だってこんなみすぼらしい義妹の存在を世間に知られたくないのだ。だから16歳にもなって公の場へ出ることも許されない。
「ナナさんもいずれどこかへ嫁がれるでしょうけど、カーリンとは末長く友達でいてあげてくださいね」
ノア氏は優しい人だ。こんな私にも温かい言葉をかけてくれる。彼に肩を抱かれたカーリンも幸せそうだ。
ノア氏はカーリンの夫に相応しい素敵な人だと思う。
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