fの幻話

ちゃあき

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28.異変

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「フィオナ、俺に手紙を出せ」

「どうして? 目の前にいるのに……」


 ヒンスは目の前のフィオナに何をどう説明していいか分からなかった。

 自分は彼女の知るヒンスではないこと。
 しかしおそらく危機を知りさえすれば、彼女の知る彼は間違いなくここへ助けにくることをどう伝えればよいのか。


「俺はきみが好きだった。でも今はどうしてもきみを連れて帰れない。しかし必ず助けに来ると約束できる。なぜなら一度来たことがある……その時は俺は必要なかったんだけど」

「ふふ……なに? これって夢なの?」


 おかしな夢だけどいい夢ねとフィオナは笑う。

 夢じゃないとフィオナを抱き寄せた。
 夫婦の寝室で身体を抱いたフィオナよりずっと細くて冷たい。自分の世界のシノムに感謝した。


「好きだよフィオナ。必ず迎えにくるから手紙を書いて」

「私もよ。わかったわ」


 だんだんと彼女の存在が希薄になる。
 入ったドアが自分を呼んでいる。この次元が余分なものを吐き出そうとしている。

 彼女が自分を信じてくれることをヒンスは願った。

 経験則からそれは必ず実を結ぶと痛いほどわかっているからだ。


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