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22.楽園は地下に
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洞窟……——もとい金鉱の内部は岩石の転がる荒れた長い下り坂となった。
足場は悪い。広く暗く湿ってはいるが、なぜだか奥からあたたかな風がふいてくる。
「気を付けろ中尉」
「ああ、さっきからどうも」
仲がいいんだなとペルルが笑う。
彼女の笑い声にのって、なにかやわらかな花のにおいが流れてくる。
このむこうは気候がちがうのか……まさかとは思うが、地獄の業火まで真っ逆さまにつながっているのだろうか。
「温泉があるんだよ、だからいま時期花がさいてる」
ペルルは見透かすようにいった。
しかし、このあたりに火山やまして噴煙など見たおぼえがない。
それをたずねると源泉はずっと山奥で地下をとおって流れてきているという。ここは支流の末端にすぎないと。
地底には花々のさきみだれる楽園があるのか……そう考えたところで、ふと気にかかることがあった。
「ペルルはシノムの城で暮らしてるわけではないだろ。ならば一体どこに屋敷がある?」
「ここだよ」
正確には屋敷はない。しかしここで暮らしていると彼女はいう。
女が一人で、こんな洞穴で? そうたずねるとペルルはふりかえり口もとを歪めた。
「私が女だと?」
「……まさか違うのか?」
「どう思う?」
「からかってるんだろう……」
確かめてみるかと黄金の瞳が笑った。
ヒンスはしばし逡巡した。シノムはなぜかほどほどから黙っている。
手をひくほそく白い指が急に冷たく感じられる気がする。
「金を見にいくか? それとも地底の楽園を? ……もしくは私の体を確かめるか?」
ヒンスは原罪を問われる気分になってきた。
暗闇の中、あたたかな花のにおいと渦を巻く黄金の虹彩がだんだんと冷静な判断を喪失させていく。
確実なのは眼前に危険な誘惑だけが存在しているということだけだ。
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