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15. ゲノム
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シューベルグ一族がおさめた土地は、広大で実りのうすい北の森林と金山だった。
身分をさずかり、金で人を雇ってそこを守っても一族は所詮非力なはみ出し者のよそ者だ。
財産を盗み土地を侵す狼藉者は後を立たず、祖先は困り果てた。
そこで……実態以上にその存在を大きくみせることを思いついた。元々狡賢い一族なのだとはシノムの談だ。
「この土地を治めるのは何か得体の知れない強力な魔物だと思わせればいい。
同じ名前の同じ男が……例えば千年その地を治めれば、それは人智を超えた立派な悪魔に違いない。
相手が悪魔と思えばそうそう手出しをする者もいないはずだ」
神より悪魔が怖い。それは慈悲がないからだ。
シューベルグ一族の特徴は黒い髪には珍しい緑の目だった。
その形質を出来るだけ変わらないよう受け継ぐ事を祖先は考えた。その代々の名を変えずに。
同じ人物が生き続けていると思わせるためだ。
はじめ、一族の中で子孫を残しさえすればそれはいとも容易い事だった。しかしいつしかそれは難しくなった。
「子どもが育たなくなった……もしくはその外面、内面、心理的なもののどこかに何か問題が起こったんでしょう?」
「その通りですよ、ラ・リドラム先生」
シノムはザラの言葉に頷いた。
ザラは先ほどその名はザラ・ラ・リドラムで、おそらくはアンネースの妹の甥であること……——そしてヒンスの従兄弟で、伯爵家に生まれた医師だと身分を明かしていた。
ヒンスはザラにどういう事なのか尋ねた。
「ヒトにはそれぞれが持ってる遺伝子というものがる。
それがそのヒトの容姿や能力の一端を決める……あくまで一端だ。
それには優勢と劣勢があって、優の方が勝って次世代へ受け継がれる。
勿論、優劣は受け継がれる優先順位に過ぎず、物の良し悪しや人間の貴賤に一切関係はない」
顕(はで)な方と潜(もぐ)る方に過ぎないとザラは言う。
それも大体確実ではなく、言われるのは俗説や一例に過ぎないことを前提に彼は語る。
概論はあれど奇跡や明かされない神秘はいつだってそこにある。
親と子は似るだろう。シューベルグの祖先はただそれだけの常識を頼りに近親婚を続けた。
多分それは従兄弟や叔父姪に限らず、もしかしたらもっと親しく……
親子孫まで似た容姿と黒髪が受け継がれるのは分かる、しかし緑の目は恐らくかなり難しい。
「あまり見た事がないだろ? 僕もシノム伯爵とあと数人と、それから……——フィオナ嬢しか見たことがない。そんなに綺麗な緑の目はね」
フィオナは珍しい緑の目に黒髪の令嬢だ。
ヒンスがはじめてシノムに会った時、すぐに親しみを覚えた理由はその容姿にもあった。
フィオナとシノムは縁もゆかりもない。けれどその見た目にどこか既視感の伴う夫婦だった。
黒髪の二人は澄んだ緑の目を見合わせた。
「花嫁を探すようになったんですね? ……一族と同じ黒い髪に緑の目の」
ザラはシノムへ向けそう言った。
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