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第2章勇者と聖剣編

38まだ1日しか経っていない

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 時は遡り、セナとロビが旅立った後の魔王城の様子である。魔王アディは狼姿のまま、いつまでも西の塔からセナが去った方向を向いていた。まだ1日しか経っていないというのに。
 見兼ねた側近にして吸血鬼のジゼも日差しの中、日傘で頑張って西の塔へと赴く。

「魔王様、本当によろしいのですか?セナはもう帰って来ないかもしれませんよ」
「ジゼにしては珍しく人間に執着しているな」
「セナは私の大事な教え子なので」
「ふむ」

 ジゼもセナに対して特別な感情があるようだが、セナがその気はなさそうなので今まで放置していた。そのせいでジゼも、セナを美味しく頂いたようだが。

「む・・・」
「・・・これは・・神力?」

 やや強めの風が吹き抜けた時、妙な胸騒ぎがした。港町の方から魔力とは違う力が流れ込んで来たからだ。
 魔族の地で神力を使う者は居ない。以前、クラリシス王国の騎士がセナを連れ去ろうとしていた気の力に似ていた。天使の力である。

「グルルルル・・・凝りもせず神族め」
「魔王様、私が参りましょうか」
「よい。俺が行ったほうが早いだろう」
「・・・セナに絶対罵倒されるのが目に見えていますが」
「昨日はセナも名残惜しく俺を見ていた。きっと決心が揺らいでいるからだ。セナは俺を待っているに決まっている」


「いいや、俺様を待ってるんだ」


 ふと後ろを向くと、リドレイが仁王立ちしていた。美味しいところは持っていかせまいといった所だろうか。

「なんかまたヤバそうな気配がするな」
「港の船にいた天使だろう」
「あのオバさんもしつこいなぁ」
「騎士に命令されているとはいえ、神族が大人しく人間に従属しているとは思えぬがな」
「何であろうと、セナに危害を加える奴は全部敵だ」
「お前も、神族の端くれだろう」
「竜族は自由に生きたいのさ。自分の意志のない神族はもう飽きた」
「なるほど」
「さて、動かないなら俺様は先に行くぜ」

 詳しい理由はわからないが、竜族は元々神族であったようだ。先代魔王も竜族でリドレイの父親でもあった。
 リドレイは竜化すると、強靭な翼をはためかせてあっと言う間に港町への方向へと飛んで行った。そんなリドレイを見て、ジゼは呆れる。

「まったく、あの脳筋の馬鹿者には困ったものです。闇雲に動かず、ここは策を練る所でしょうに」
「フッ、時には感情だけで動く事も必要なのさ。さて、俺も先を越されぬよう行くか」
「魔王様、お気を付けて」
「うむ」

 狼化したアディは、勢い良く塔から飛び降りると壁を走って地面へと着地した。そのまま風のように走り出すと、リドレイと同じようにセナの居るであろう港町を目指すのだった。
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