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第2章勇者と聖剣編

27美味しい話には裏がある

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 ユーライアという王子様のごとく美形旅人とぶつかり、セナはなぜか2人で港町を回ることになった。本当なら今頃は、アディとデートしていたのに。
 ユーライアは金髪の派手な容姿で目立つので、浅葱色の質の良いフード付きマントをかぶっている。どこぞの貴族の子息がお忍びで遊びに来たのだろうか。

「ユーライアさんって、どこかの貴族?」
「まぁそんなところだ。お忍びなので、あまり詳しくは言えないけどね。セナ君は、この付近の住人か?」
「えっと、まぁ、そうです」
「歳はいくつなんだい?」
「20歳です」
「私と3つ違いか」
「23歳ですか。若いのに旅とかいいですね。剣も持ってるみたいだし」
「護身用だけどね」

 ユーライアはこれまた質の良さげな革のホルダーに剣らしき物を腰に携えていた。剣自体は布に包まれているので見た目はわからないが。
 するとユーライアが手を伸ばして、セナの髪を一房掴んで眺めた。

「セナ君の黒髪は美しいが、この所々白髪が混じっているのは自毛かい?」
「え、あぁ、なんか赤ん坊の頃からメッシュみたく白くて。若白髪かな」
「なるほど」

 するとセナの一房の白髪の部分に、ユーライアは口付けた。

「なっ、なんですか・・・」
「君の一部も可愛いらしいなと思って」
「可愛いって・・・あの、男としてはあまり嬉しくない褒め方なんですけど」
「それに可愛いが、よく見れば端正な顔立ちの男前だ。目元のホクロも魅力的だね」

 ユーライアは顔を寄せてきたので、セナは思わず両手でユーライアの顔面を防いでしまった。どこかの傲慢ロマンチスト魔王と同じ雰囲気がしたので、つい。

「あ、すみません」
「・・・いや、あまり見るのも失礼だったね。申し訳ない。そうだ、お腹は空かないかな?ぶつかった詫びに何か馳走しよう」
「え、あの、俺・・・同行人のとこに戻らないと」
「心配しなくても、町の中に居れば会えるさ。さぁ、店を探そうか」
「あっ!ちょっと!」

 手を繋がれて強引に引っ張られて行くセナは、近くの酒場に連れ込まれた。
 店はなかなか繁盛しているようで、適当に注文した料理も美味しい。今度来たらまた食べようとセナは満足した。

「ご馳走様です。俺、そろそろ本当に戻らないと」
「残念だ。私もそろそろ船に戻らないといけないな」
「船で来たんですか?」
「あぁ、私の所有する船でね。よければ見送りに来てくれないか?それくらいの時間はあるだろう?」
「・・・まぁ、いいですよ」

 せっかく奢ってくれた相手を無下にもできずにセナは見送りするために、船着場まで行ってしまう。ユーライアの事は信用はしていないが、人目の多い船着場で何かあるとは思わなかったからだ。
 ユーライアの船は、大きな帆船だった。滑らかな船体に白のマストが天使のような雰囲気を持つ優美さがある。船首には弓を持つ翼のある天使が飾られていた。さすが貴族の舟だなと感心した。

「綺麗な船ですね、天使みたいだ」
「ありがとう。君に褒められてエレスタエルも喜んでいるよ」
「エレスタエル?」
「私の船の名前で、風の守護天使だ」
「へぇ」
「無事に航海出来るのもエレスタエルの加護あってこそなんだよ。よければ船内も案内しよう」
「う、うーん・・・気にはなるけど」
「大丈夫、まだ出港まで時間もあるし少しだけだ。ね?」
「少しだけなら」

 ユーライアは自慢のエレスタエル号をよほど紹介したいのか、人の良さげな美形の笑顔を振り撒く。根負けしてセナは船内に足を踏み入れた。
 映画に出てきそうな船内は、乗組員が出港の準備に勤しんでいた。甲板の上にも部屋があるらしく、中も案内される。ベッドも完備されちょっとしたワンルームのように住めそな感じだ。

「ここは私の船長室なんだ」
「なんか住めそう」
「よければ今度一緒に航海しようか」
「船旅かぁ。いつかしてみたいな」
「じゃあ、今からしようか」
「え?あッ、な、なんですか!?」

 正面から抱きすくめられたので、身動ぐがまったく振りほどけない。それどころか身体の力が抜けて、立っていられなくなった。

「な、なんで・・・」
「酒場で入れた薬がようやく効いたかな?ふふ、大丈夫だよ。楽しい船旅を2人でしようね」
「・・・ぁ・・・・アディ・・」

 セナはそのまま、眠るように意識がそこで切れた。
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