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1章 メリュジーナ侯爵家編
16 4本の剣
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結局昨晩は不審な人物は現れず、ロゼットの聞き間違いかもしれないという結論になった。先に起きたエオルが部屋から出ると、ケンさんが話しかけてきた。
『ふぅ・・・危なかったぞ』
「ケンさんの声って、オレにしか聞こえないんじゃなかったの?」
『ふむ、もしやあのイケメン女・・魔族か?我の声は魔族か、ある程度魔力を持つ者には聞こえるのだ』
「え、そうなの!じゃあ、ロゼットさんが居るときは喋らないほうがいいね。というか、一人で居た時に何喋ってたの?」
『うむ、我が王への親愛のポエムを考えていたのだ』
「ポエム・・・」
『あぁ、我が親愛なる魔王よ。御身の夜の濡れ羽色の髪は闇より深く、紫の毒の如き妖艶な瞳は心まで溶かし・・』
「も、もういい・・・」
なんという恥ずかしい詩だ。ケンさんはイオの前世である魔王への愛が痛すぎた。まだポエムを語っているケンさんを放置して、仕事へ向かうイオだった。
1階へ降りると、ヴェルジークと鉢合わせした。
「おはよう、イオ。昨晩は寝れたかな?」
「おはよう、ヴェルジーク。エオルくんとロゼットさんが近くに居たおかげで寝れたよ」
「本当は私が添い寝したかったのだが」
「うん、心配してくれてありがとう」
「イオ~!」
ヴェルジークはたまらずに、イオを抱きしめた。相変わらず愛情表現が大きすぎる。逞しい胸筋の中でもごもごしていると、後ろから誰かの声が聞こえた。
「ヴェル、それ以上絞めるとイオが窒息するぜ」
拘束を緩めたヴェルジークの腕の隙間から覗くと、フリエスが立っていた。
フリエスは聖騎士団の騎士で、赤毛の爽やかなイケメンだ。ヴェルジークとは仲がいい。
「フリエス!」
「よぉ、イオ。屋敷の生活はどうだ?ティオドールに絞られてないか?」
「うん、まぁ」
「イオは皆とすぐ打ち解けたぞ。あの人見知りなエオルが近付くくらいだからな。きっとイオが、可愛いからだ」
「可愛いはあんまり関係ないだろ」
「フリエス=ゾラ。いきなり屋敷を訪ねて来るのはやめなさい」
「あ、ティオドール」
いつの間にかティオドールがいて、フリエスを叱る。
「おはようございます、旦那様。朝食のご用意は済んでおります」
「ありがとう、ティオドール。フリエスも同席するか?」
「あ、ラッキー。朝食まだなんだよね」
ティオドールはちょっと眉間に皺を寄せたが、主人の計らいなのでフリエスの分まで朝食を用意した。ちゃっかりイオも同席している。何度も言うが普通は、使用人は主人と食卓を共にする事はあり得ない。
朝食を終えてから各々の努めが一段落すると、ティオドールが昨日の手合わせの件をイオに申し出て来た。イオはちょっと不安だったが、部屋にケンさんを取りに行くと無茶しないように言い聞かせてから中庭に戻って来た。中庭には軽装になったヴェルジークと、フリエスも剣を持ってウキウキしながら待っていた。
「え、ヴェルジークとフリエスもやるの?」
「俺も混ぜてよ~」
「無論だ。イオが怪我しないように」
「大丈夫かなぁ・・・」
「イオさん、まずは私から手合わせいきますよ」
「うっ・・・はい」
ティオドールはレイピアのような細めの剣を構える。イオは魔剣を両手で握り締めた。
「では、まずは小手調べから」
「うわっ!」
いきなり直線で滑るように剣を突き出してきたが、魔剣は刃の表面で受け止め弾き返す。ティオドールは回転して2撃目を横薙ぎに繰り出して来た。
魔剣は払うような動きで受け流すように、ティオドールの剣を滑らせると地面に叩き落とした。
「ふむ、なかなかやりますね。それにしても間近でみるとやはり美しい魔剣です」
「元々聖剣ですけどね・・・ふぅ」
魔剣が勝手に動いてくれてるとはいえ、剣がビュンビュン攻撃してくるのが見えるとさすがにイオは怖かった。冷や汗が出る。
するとフリエスが剣を構えて前に出てきた。
「じゃあ、二人がかりってのはどうだ?」
「多勢に無勢とは、騎士にあるまじき発言だな。フリエス」
「意外とイオって強いんだよ。本気出してないみたいだけど」
『バレたか』
「ケンさんっ!」
ケンさんが喋るのでまた誰かに聞かれないかとキョロキョロするが、ロゼットも居ないし幸いこの場の3人には聞こえないようだ。
「さてと、いくぜ!イオ」
「手加減してあげるのですよ、フリエス」
「うわぁっ!?うくっ、ッ!」
右からはフリエス、左からはティオドールが斬り込んで来た。魔剣は弧を描く様に切り払うと両者の剣を弾いた。そのまま横薙ぎの姿勢になったイオが、二人を攻撃しようとする魔剣に気付いて叫ぶが自分では制御出来ない。
「ケンさんっ、ダメだ!!!」
キイイイイン
甲高い音が響くと、いつの間にかヴェルジークが横薙ぎの魔剣を受け止めていた。イオの動きが止まる。
「手合わせはこれくらいにしよう」
「・・・・ヴェルジーク」
「いっ・・・つぅ。ただの切り払いなのに腕まで痺れた」
「このような失態を晒し、申し訳ありません。旦那様」
「いい。皆が怪我がなくて良かった」
「・・・・ごめんなさい」
「気にするな、イオ。元はと言えばティオドールのわがままだからな」
「大変失礼を致しました、イオさん。ですが貴方の剣術は型がまったくなっておりません。これではいざという時、旦那様まで巻き込んでしまいます。明日から剣術も覚えてもらいますからね」
「うっ・・はい」
イオは剣術をダメ出しされながら、ふと思った。かなり遠くに居たヴェルジークがあの僅かな時間で、ここまで移動したのはどうやったんだろうと。
『ふぅ・・・危なかったぞ』
「ケンさんの声って、オレにしか聞こえないんじゃなかったの?」
『ふむ、もしやあのイケメン女・・魔族か?我の声は魔族か、ある程度魔力を持つ者には聞こえるのだ』
「え、そうなの!じゃあ、ロゼットさんが居るときは喋らないほうがいいね。というか、一人で居た時に何喋ってたの?」
『うむ、我が王への親愛のポエムを考えていたのだ』
「ポエム・・・」
『あぁ、我が親愛なる魔王よ。御身の夜の濡れ羽色の髪は闇より深く、紫の毒の如き妖艶な瞳は心まで溶かし・・』
「も、もういい・・・」
なんという恥ずかしい詩だ。ケンさんはイオの前世である魔王への愛が痛すぎた。まだポエムを語っているケンさんを放置して、仕事へ向かうイオだった。
1階へ降りると、ヴェルジークと鉢合わせした。
「おはよう、イオ。昨晩は寝れたかな?」
「おはよう、ヴェルジーク。エオルくんとロゼットさんが近くに居たおかげで寝れたよ」
「本当は私が添い寝したかったのだが」
「うん、心配してくれてありがとう」
「イオ~!」
ヴェルジークはたまらずに、イオを抱きしめた。相変わらず愛情表現が大きすぎる。逞しい胸筋の中でもごもごしていると、後ろから誰かの声が聞こえた。
「ヴェル、それ以上絞めるとイオが窒息するぜ」
拘束を緩めたヴェルジークの腕の隙間から覗くと、フリエスが立っていた。
フリエスは聖騎士団の騎士で、赤毛の爽やかなイケメンだ。ヴェルジークとは仲がいい。
「フリエス!」
「よぉ、イオ。屋敷の生活はどうだ?ティオドールに絞られてないか?」
「うん、まぁ」
「イオは皆とすぐ打ち解けたぞ。あの人見知りなエオルが近付くくらいだからな。きっとイオが、可愛いからだ」
「可愛いはあんまり関係ないだろ」
「フリエス=ゾラ。いきなり屋敷を訪ねて来るのはやめなさい」
「あ、ティオドール」
いつの間にかティオドールがいて、フリエスを叱る。
「おはようございます、旦那様。朝食のご用意は済んでおります」
「ありがとう、ティオドール。フリエスも同席するか?」
「あ、ラッキー。朝食まだなんだよね」
ティオドールはちょっと眉間に皺を寄せたが、主人の計らいなのでフリエスの分まで朝食を用意した。ちゃっかりイオも同席している。何度も言うが普通は、使用人は主人と食卓を共にする事はあり得ない。
朝食を終えてから各々の努めが一段落すると、ティオドールが昨日の手合わせの件をイオに申し出て来た。イオはちょっと不安だったが、部屋にケンさんを取りに行くと無茶しないように言い聞かせてから中庭に戻って来た。中庭には軽装になったヴェルジークと、フリエスも剣を持ってウキウキしながら待っていた。
「え、ヴェルジークとフリエスもやるの?」
「俺も混ぜてよ~」
「無論だ。イオが怪我しないように」
「大丈夫かなぁ・・・」
「イオさん、まずは私から手合わせいきますよ」
「うっ・・・はい」
ティオドールはレイピアのような細めの剣を構える。イオは魔剣を両手で握り締めた。
「では、まずは小手調べから」
「うわっ!」
いきなり直線で滑るように剣を突き出してきたが、魔剣は刃の表面で受け止め弾き返す。ティオドールは回転して2撃目を横薙ぎに繰り出して来た。
魔剣は払うような動きで受け流すように、ティオドールの剣を滑らせると地面に叩き落とした。
「ふむ、なかなかやりますね。それにしても間近でみるとやはり美しい魔剣です」
「元々聖剣ですけどね・・・ふぅ」
魔剣が勝手に動いてくれてるとはいえ、剣がビュンビュン攻撃してくるのが見えるとさすがにイオは怖かった。冷や汗が出る。
するとフリエスが剣を構えて前に出てきた。
「じゃあ、二人がかりってのはどうだ?」
「多勢に無勢とは、騎士にあるまじき発言だな。フリエス」
「意外とイオって強いんだよ。本気出してないみたいだけど」
『バレたか』
「ケンさんっ!」
ケンさんが喋るのでまた誰かに聞かれないかとキョロキョロするが、ロゼットも居ないし幸いこの場の3人には聞こえないようだ。
「さてと、いくぜ!イオ」
「手加減してあげるのですよ、フリエス」
「うわぁっ!?うくっ、ッ!」
右からはフリエス、左からはティオドールが斬り込んで来た。魔剣は弧を描く様に切り払うと両者の剣を弾いた。そのまま横薙ぎの姿勢になったイオが、二人を攻撃しようとする魔剣に気付いて叫ぶが自分では制御出来ない。
「ケンさんっ、ダメだ!!!」
キイイイイン
甲高い音が響くと、いつの間にかヴェルジークが横薙ぎの魔剣を受け止めていた。イオの動きが止まる。
「手合わせはこれくらいにしよう」
「・・・・ヴェルジーク」
「いっ・・・つぅ。ただの切り払いなのに腕まで痺れた」
「このような失態を晒し、申し訳ありません。旦那様」
「いい。皆が怪我がなくて良かった」
「・・・・ごめんなさい」
「気にするな、イオ。元はと言えばティオドールのわがままだからな」
「大変失礼を致しました、イオさん。ですが貴方の剣術は型がまったくなっておりません。これではいざという時、旦那様まで巻き込んでしまいます。明日から剣術も覚えてもらいますからね」
「うっ・・はい」
イオは剣術をダメ出しされながら、ふと思った。かなり遠くに居たヴェルジークがあの僅かな時間で、ここまで移動したのはどうやったんだろうと。
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