幸せの歌

あい

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戸惑い

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 今まではずっと反対されてきたし、自分の夢を認めてもらえないものだと思い込んでいた。しかし、今回そうではなく、親として心配していたからこそ強く言っていたのかもしれないと思うことができた。自分の実力だけで有名になって親を見返してやろうと思って頑張っていた部分もあったため、こう素直に認めてもらえると逆に戸惑ってしまう。あの音楽事務所の人も私が歌舞伎役者の娘だと知った時の方が食いつきが良かったため、より一層悩んでしまう。考えても答えは決まらず、気分転換に外に出る。足は自然とあの人と出会った公園に向かっていた。やはり、そこにあの人はいなかった。1人、ベンチに座り考える。ぼーっと考えていると突然頬っぺたに冷たい物が当たり「うえっ。」と変な声が出てしまう。頬っぺたに当たった物を確認しようと顔を向けると、なんとあの人が笑いながらこちらを見ていた。私が言葉も出ずにその人を見つめていると、

「ごめん、ごめん。驚かせすぎたかな?何が良いかわからなかったから、取り合えず喉に良さそうなルイボスティーにしてみた。飲める?」

と冷えたルイボスティーを渡してくれた。自然にそれを受け取ってしまった。どうしてここに?等聞こうと思い言葉にしようとするよりも早くあの人が先に話し出した。

「元気ないんじゃない?どうしたの?Kotoさん。」

Kotoというのは私の動画投稿をしているハンドルネームなのだ。どうして分かったのかと思い口をパクパクしていると、

「やっぱり正解だった?歌上手すぎてとても驚いた。自信ないって前言ってたから、どれだけ下手なんだろう思ってたから倍驚いた。ほら、俺今時間沢山あるから、動画観る時間が増えたんだけど、ランキングを総なめにする人が居たから興味持って観てみたら、感動してしまった。その人の歌が上手すぎて、心に響いて。今まで投稿してたのも、時間あったから全部観ちゃったよ。そしたら、ある動画の中に俺のサイン入りのキーホルダーを見つけて。もう、驚きっぱなし。もしかして、あの公園で会った子じゃないかなって思って。それで、今までカバー曲ばっかり歌ってたのが、今回初めて自作の曲を歌っていることに気付いて、もう1度聞き直したら、俺に向けての曲なのかなー?って思ったんだけど、合ってる?」

と。あの人に観てもらえてて嬉しかったのだが、ここまでばれていると恥ずかしさがまさってしまう。

「合ってる。」

と伝えるも、急に夢が叶ってしまい、驚きが頭を占めてしまい、それ以上何も言えないでいると、彼は話を続ける。

「やっぱり?めっちゃ嬉しかった。ありがとう。聴いていたら元気がでた。喉を傷めてしまったのは、全力で頑張った結果だったし、自分のケア不足だったと思うし、後悔はしていないつもりだった。だけど、治って声優に戻ったとしても、皆俺の事を忘れてしまっているんじゃないかと思って心配だった。そんな時にあの曲を聴いて、待っててくれる人が最低でも1人は居るんだなって思ったら元気をもらえた。本当にありがとう。
で、そんな俺に元気をくれた恩人が何をそんなに暗いかをしているのか聞いても良い?もしかして俺のせい?」

そりゃあ、応援している人が喉を傷めて休業したことは悲しくはあったが全く違うことだと伝えた。この人にであれば、話してしまっても大丈夫だろうと思い全て話すことにした。実は動画投稿をみた有名事務所の人から連絡があり、そこからプロデビューしてみないかと声をかけてくれたこと。それ自体は凄く嬉しいのだが、実は私は有名歌舞伎役者の娘であること。その話題性も売り出そうと言われていることを話した。彼は自分でも知っているほどの有名歌舞伎役者の娘である事に驚いていた。そして、女性は歌舞伎役者になれないということを知らないようで、両親に歌舞伎役者になれと反対されているのかと尋ねてきた。少し長くなるが時間は大丈夫か確認し大丈夫とのことなので、今までの事を私は語りだした。

「昔ね、私歌舞伎役者になりたかったの。でも知ってた?歌舞伎役者って女性はなりたくてもなれないの。それは江戸時代からの決まりだから、誰も変える事ができないことなの。子供の時は舞台に出してもらうことも出来たんだけど、ある日事実を教えられた。諦めなくちゃって思ったけど、大好きだったからなかなか諦められなかった。で、現実をなかなか受け止められずに1時期少しぐれて、引きこもりになったの。親は私の気持ちを分かってくれないし、私の夢を全て反対する存在なんだって思ってた。そんな時にたまたま観たアニメであなたの声に出会って、あなたのセリフに励まされたの。本当に最初は漠然と、私は歌が好きだから歌手になってあの人に会いたい。誰かに元気を与えられる存在になりたいって思った。親に言ったらまた諦めろって言われると思って、こっそり動画投稿を始めたの。自分の力だけで有名になって、親を見返したいという気持ちがどこかにあったと思う。でも、両親も私の動画投稿を知ってて、応援してくれるようになった今どこにむかったら良いのか見失ってしまった。」

と、ぐちゃぐちゃした自分の頭の中の事を全て吐き出した。

「そっか。最終的には君が好きに思うようにしたらいいと思うけど、俺の意見としては、親の力でも何でも使えるものは、使えばいいじゃん。運も実力のうちっていうし、君がその有名歌舞伎役者の娘に産まれたのも運があったんだと思うよ。それを自分の誰かに元気を与えられる存在になりたいっていう目標の為に使えるなら使ったら良いのにって思う。俺は君の曲のおかげで元気が出たよ?色んな人に元気を与えたいんでしょ?知名度がある方が、きっと色々な人達にも聞いてもらう機会があるとは思うよ。まぁ、最終的に決めるのは君だから良く考えればいいよ。」

と、頭をポンッポンッとしてくれた。

「そうだよね!私家の名前を使ってでもデビューしたい!いや、デビューするよ!」

「うん。頑張って。俺も負けないから。」

「喉が治ってからね。」

悩みが晴れたことで、思い切り笑うことが出来た。有名になった事だし連絡先を交換するかと問われたが、プロデビューして、もっと有名になってからにしたいと伝え、了解を得る。ここで失敗してしまえば、憧れのあの人と会える事はもうないかもしれない。しかし、あの人と同じプロという立場になってから出会いたいと思ったのだ。
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