幸せの歌

あい

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始まり

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 そう、これは私が子供の時にまで話がさかのぼる。

 私の家は代々の歌舞伎の家系であった。小さな頃から周りに歌舞伎の世界が広がっており、私はおじい様やお父様のそれを見るのが大好きであった。そのため、練習にも参加もしたし、昔の映像だって何度も何度も繰り返し見た。そう、いつかあのキラキラした舞台に立ちたいと。いつかおじい様やお父様のように主演を演じるのだと信じていたから。

 子供の時は舞台にあげてもらうこともでき、天才だのなんだのともてはやされていた。

 しかし、年々成長する。そう、体も成長してしまうのだ。

 ある日、おじい様とお父様に呼ばれ告げられたのは、私にとっては耐えられない出来事だった。

 そう。歌舞伎役者は男性しかなれないのである。周りの役者さん達を見ていて薄々気付いていた。だが、弟よりも、自分の方がやる気も才能もある。しかも、この由緒ある家系の出だから、このまま出続けられるのではないかという考えもあった。

 しかし、実際私に言い渡されたのは残酷なものであった。


 「今後一切の舞台への立ち入りを禁止する」

 その言葉を聞いた時、何を言われているのかわからなかった。いや、わかりたくなかった。あふれ出る涙。何度も何度もおじい様、お父様に懇願した。どうしてだめなのか、どうして。私の方が弟より才能もやる気もあるじゃないか。あんなやつがあの舞台に居続ける事が出来るのにどうして私は女というだけでそれを禁じられないといけないのか。お願いだから私から、あの大好きな場所を奪わないでと。

 普段大好きで優しいおじい様とお父様の返事は否だった。2人の辛そうな顔を見てしまい、私が何を言っても無駄なのだということを悟った。

 そこからは、心の中に大きな穴が開いてしまったかのように無気力で。何かをする元気がなかった。何をしても無駄なのだと、一生懸命頑張ったって無駄なのだとわかってしまい、部屋に引きこもる日々が続いた。

 そんな無気力な日々を送る中で私は1つの楽しみを見つけた。それはアニメや漫画を観る事だ。そう、オタク活動というやつだ。その時は中学生であったため、中学校に通い帰ってきてすぐにアニメや漫画を観るという日々を送った。勉強の方はやる気がでず、成績はどんどん下がっていく一方であった。あからさまに成績が下がっても、先生はおろか両親でさえも何も言ってこなかったのである。逆にそれで意地になり、何がなんでも勉強しないと思ってしまったのだ。その時の私にできる最大限の反抗だったのだと思う。

 そんな堕落した生活を過ごしていたある日、運命のアニメに出会う。もともとは、見る予定がなかったアニメだった。私の好きなアニメのジャンルではなかったのだが、見たいアニメの直前に放映されていたし、ネットの評価もまずまずだったので、その日はなんとなく、テレビをつけて観ながら待つことにしたのだ。 
 アニメが始まり、気づくと見入ってしまっていた。そして、そのアニメのサブキャラが、
「後悔なんてしない。お前たちと出会えて、その皆を守るためにこの命を捧げられるなら俺の本望だ。逆に今何もしなければきっとこの先後悔し続けてしまう。だから、俺の最後のわがままを聞いてくれ。」
と言い敵に立ち向かっていったのだ。そのシーンを観ながら涙が訳もわからず溢れてしまっていたのだ。とめどなく。お母さまが夕食に呼びに来てくれたのだが、体調が悪いと嘘を言い、その日は泣き明かしたのであった。
次の日は泣き疲れていたこともあり、朝起きることが出来ず、学校は休んだ。ずる休みで休んだのはこの日が最初で最後だった。
 その日からあのアニメの事を調べまくった。あの私が大好きなキャラクターの声を担当していたのは、なんと高校生の声優さんで、ちゃんとした役をもらえたのは今回が初めてだということも知った。そうして、どうしても気になったので以前出演していたちょい役のものも調べた。やはり上手くはないのだが、この人の声を聞くと涙が溢れてくる。私にも諦めなくても良い事が何かあるのかもしれない。そう自然と思えてきた。
 来る日も来る日もこの人の声を聞き続けた。

 必死にこの人を追いかけているうちに、この人に会ってみたいと思うようになった。どうすればこの人に会えるのだろうか。考えた結果同じ声優さんになれば会えるのではないかと思った。しかし、演じるということはまだ抵抗があり、即断念した。次に考えたのは漫画家になる事だ。しかし、私は絵を描く才能を産まれる前に忘れてきたようだったので、その道も諦めざるをえない。そして私にも出来そうで、好きなことは何かと考えた結果歌う事が好きだと思い出したのだ。そう私はアニメ化された作品の主題歌を歌う歌手になれば、あの人と出会う機会もあるんじゃないかと思ったのである。それをきっかけに私は歌手になる事を目指すことにした。
 
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