仙人の弟子

一章

入隊試験（2）

　その食事を奢ってくれた彼。シルヴィオことシルと王城へ向かった。

　王城の召集所となっている場所に着くと、いかにも筋肉が自慢ですと言いたげな体の大きな男達が集っていた。大きな男達がワラワラと集まっていると暑苦しい事この上ない。アルとシルは受付を済ませ、空いているスペースに移動する。自ずと隅の方のスペースとなり、そこにはシルと同じように細く小さな男達がちょこんといたのだった。

　他の場所よりも、むさ苦しくもなく、ゆったりとしたスペースがあるのでそこで時間まで待つ事にした。アルはすることもないため空を見上げボーっとしていた。隣のシルは話しがしたいらしい。隣の聞いているのか、いないのかわからないアルを放っておき、周りに話しかけ始めた。大概の人達は目も合わせないようにしていたが、1人ターゲットを見つけたようで、気の弱そうな男の子に話し出した。

「ねえ、ねえ。君もここにいるってことは入隊試験を受けに来たんだよね。名前は？何歳？あまり強そうに見えないけど、魔力が凄いの？どうして来たの？」

と質問責めである。気弱そうな男の子は名前はカストというらしい。歳は17歳だそうだ。彼の両親がお国のために何か力にならなくてはいけないと言い、兄は跡継ぎのため次男のカストがこの場に来る事になったそうだ。カストは勉強は自信はあるが、体力も魔力も並以下だと笑っていた。

　人の家庭には色々とあるのは知っていたが、そんな親もいるんだな。皆大変なんだなーとアルは思いながら、また意識を空へと移した。


　シルとカストは歳が近いこともあり意外と話しが合うようで仲良くなったようだ。アルは空を見るのに飽きたようで、急に地面に横たわり昼寝をしている。こんな人が集まる喧騒の中で眠れるとは大物なのだろうかと2人は思った。弱そうだの、ひ弱だの散々なことを言っていたが、実際は1番ひ弱そうに見えるのはアルなのである。丸まって眠る姿は子猫のようだ。シルが護衛にといったが、実際は小さな子供がお腹を空かせて定食屋の前によだれを垂らしてたたずんでいたのだ。助けたくなってしまったのである。

　そうとも知らないアルは呑気に寝ており、そこだけ平和な空気感が漂っていた。


　時間になり、お偉いさんのような人が来て競技場へ移動するよう指示を出している。

　シルとカストはアルを起こし３人で競技場へ入っていった。

　順番は大体決まっているようで、受付でもらった番号が100番以内の人が最初に試験を受けるらしい。カストは280番らしく、次の組のようだ。シルとカストは537番と538番なのでもう少し時間があるようだ。

　３人で他の受験者の様子を伺う。流石腕が立つ物が集まっているらしく、次々と自分達ではあり得ない数値を叩き出していた。シルとカストは既にそれを見てビビってしまっていた。しかしここで落ちてしまうと、笑い者になってしまう。引くに引けない状況で顔色が少し悪くなっているようだ。

　「あの人形ってそんなに硬いのかな？あのお守りってそんなに重いのかな？」

　とワクワクしており、1人その場の雰囲気にあっていない様子だった。

　2人は子供なので無知なのだろうと微笑ましい気持ちでアルを見守っていた。