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第10章「沈黙の祭り」
第10章「沈黙の祭り」その8
しおりを挟む「ええ。いいわよ」
少しの間も置かずに承諾した。
鞄を肩にさげた平木は、教室を出ていこうとしている。
意外なまでにすんなりいって安心したが、少し拍子抜けした。
平木と帰るのは久々な気がする。
彼女の背中は以前よりも、たくましくて美しく見えた。
「…」
「…」
「いや、僕の非力さのおかげさ」
沈黙が続く帰り道、僕は話をするきっかけを作った。
街灯が点いた路地は思ったよりも暗くて、
何か出るんじゃないかと思うほど、不気味に感じた。
修理に出したばかりの自転車を押して、僕は平木の隣をただただ歩いている。
「どういうこと?」
目が合うと、平木に可愛いという言葉は似合わない気がした。
その大きな目は眼鏡のレンズ越しでも綺麗な望月のように見える。
「僕が西山や新田のような一軍なら、あんな姑息なやり方じゃなくて、
もっとシンプルな方法でクラスをまとめることができただろうになぁって」
「相変わらず、自分に対しては卑屈ね」
卑屈は自分にしか当てはまらない言葉だと思うが。
「なぁ、平木」
「そういえば、自分にしてあげられるのはこれくらいだ、っていってだじゃん」
「あぁ、部屋に乗り込んできたときね」
「お前が誘ったんだろ」
「話を続けて」
「僕はそんなことないと思うよ。今こうして、僕を、クラスを助けてくれた。
君が塗り方を教えてくれなかったら、クラスの男子は手伝うこともなかった。
それはすごいことだよ」
平木はただ黙っている。
でも、不思議と気まずさは感じなかった。
それは、彼女が言葉を思いつかなかったからじゃないと思ったからだ。
「大切な人は、手が届くくらいの隣にいるだけで嬉しいもんだよ」
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