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キス
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あれからどうやって部屋まで戻ってきたのかよくおぼえていない。
頭がふわふわして、考えがまとまらない。
「姫さま…」
不安げに顔を覗いてくる律も、今はうっとおしい。
脇息に体を預けて静はぼんやり座っていた。
今は余計な口はきかないほうがいい。
アルノから話を聞いた時咄嗟に思ったのはそれだった。
すでに日が暮れて、昨夜のように庭は篝火で明るく灯されている。
部屋の中まで照らされて影が長い。
「姫さま、殿が」
律が言い終わる前にアルノが現れた。
淡黄色の狩衣に単は黒で、動きやすい軽装で静の前に座った。
「歩き疲れたでしょう。ごめんなさい」
あの後も総帥に説教されたのか、顔色の悪い静を心配そうに見つめる。
「…」
上体を少し浮かせて、静は何も言わず首を振った。
「これから参るのでございますか」
かわりに律が問いかける。
「うん」
「どこまで」
「知ってるかな。神泉苑て所」
「え…」
御所の近く、普段は使われない場所。
そんな所を使えるのか。どういうつてがあるのだろう。
「先に休んでいてください。なるべく早く帰ってきます」
アルノの言葉に、まぶたを動かして答えた。
篝火の強い光りに照らされたアルノの影がゆらりと動く。
静の左目のふたつのほくろが見えるように髪を梳いて、そこに軽く唇を重ねた。
「もう夫婦なのですから、いいでしょう?」
「いきなりずるいです…」
恥ずかしさで赤くなった顔を隠そうと扇を探したがさりげなく取り上げられてしまう。
うつむく静の髪をなでて、すっと部屋を出ていった。
「大人な方ですねえ…」
アルノがいなくなってからぽつりと律が呟く。
庭ではまるで出陣のような騒ぎだったが、その喧騒もだんだん遠のいて、やがて静寂が訪れた。
頭がふわふわして、考えがまとまらない。
「姫さま…」
不安げに顔を覗いてくる律も、今はうっとおしい。
脇息に体を預けて静はぼんやり座っていた。
今は余計な口はきかないほうがいい。
アルノから話を聞いた時咄嗟に思ったのはそれだった。
すでに日が暮れて、昨夜のように庭は篝火で明るく灯されている。
部屋の中まで照らされて影が長い。
「姫さま、殿が」
律が言い終わる前にアルノが現れた。
淡黄色の狩衣に単は黒で、動きやすい軽装で静の前に座った。
「歩き疲れたでしょう。ごめんなさい」
あの後も総帥に説教されたのか、顔色の悪い静を心配そうに見つめる。
「…」
上体を少し浮かせて、静は何も言わず首を振った。
「これから参るのでございますか」
かわりに律が問いかける。
「うん」
「どこまで」
「知ってるかな。神泉苑て所」
「え…」
御所の近く、普段は使われない場所。
そんな所を使えるのか。どういうつてがあるのだろう。
「先に休んでいてください。なるべく早く帰ってきます」
アルノの言葉に、まぶたを動かして答えた。
篝火の強い光りに照らされたアルノの影がゆらりと動く。
静の左目のふたつのほくろが見えるように髪を梳いて、そこに軽く唇を重ねた。
「もう夫婦なのですから、いいでしょう?」
「いきなりずるいです…」
恥ずかしさで赤くなった顔を隠そうと扇を探したがさりげなく取り上げられてしまう。
うつむく静の髪をなでて、すっと部屋を出ていった。
「大人な方ですねえ…」
アルノがいなくなってからぽつりと律が呟く。
庭ではまるで出陣のような騒ぎだったが、その喧騒もだんだん遠のいて、やがて静寂が訪れた。
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