金は天下で回らない

希京

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搾取~酒と性

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夜中に緊急搬送された美加は、昨夜のことはほとんど記憶にないという。
広めの個室で、未知は財布やカードなどを失ったものはないか探させたが、紛失物はなかった。

「飲みすぎですかね」
部屋にはスーツ姿の男がふたり、角川と、田中満流みつるが個室を訪れていた。姉の未知は姿を見せなかった。
「そんなに飲んだつもりはなかったけど…」
「おや、おぼえておいでで?」
「ごめんなさい…」

頭を抱えながら思い出そうとしているようだが、すでに記憶は脳の外だ。
「お姉さんは今度やったら病院に入院させると言ってます。どうです?自制できますか?」
「……」
美加は小さく頷くしかなかった。
「今日の午後には退院できます。それまで休んでいて下さい」
それだけ告げて、ふたりは病室を後にした。

戻ってこないと確信して、美加はかばんに手を伸ばしてスマホを取り出してミントに電話した。
『美加さん!大丈夫ですか!?』
ミントはすぐに電話に出た。
「ごめん、お店に迷惑かけてしまって…。改めて謝罪にうかがうと店長さんに伝えて」
『美加さんが無事ならよかった。変な酔い方してたから心配してたんです。僕でよかったら今度話聞きますよ!』
「…ありがと、じゃあ」
美加は通話を切る。

誰にも言うことができない。言えば人が離れていく。
『ヴァレリー』は私を受け入れてくれた。どうも区画が変わると情報の流れも変わるようで、ミントは「金子」を知らないと言った。
知っていて嘘を言ったのかもしれないが、あの店とミントは自分を排除しなかった。


美加の病室を出て、すぐには部屋を離れなかった。
スーツ姿の未知がドア寄りに、その向こうに角川と田中がしばらく中の様子を探る。

未知の予想どおり、人がいなくなったらすぐ美加はミントに連絡した。

ふう、と小さなため息をついて未知は珍しく苛立つ。
状況は中川から聞いていた。ミントは関係を固めて美加をかなり依存させている。少し前から付き合いが始まり、彼に金を使ってあっという間にカードの限度額がきた。

金子と名乗ると敬遠されがちになり、それに悩んでのやけ酒と、唯一優しくしてくれたのがあのミントとかいう青い髪の男。

己の推測が現実になったことを確認して金子はその場を離れた。角川と田中が後に続く。
「女を食い物にして行きているダニに貢ぐ美加が悪い」
普段言いそうにない言葉で未知は妹を批難した。
「ミントって男、かわいい顔してかなりやり手だって中川が言ってました。なんたって実体験済みですからね。あいつもハマらないといいけど」

角川が未知の決断を迫るように情報を絞る。
自分の妹と部下を手玉に取られて黙っている女でないことは角川がよく知っている。

「私は」
未知が歩みを止めた。

「いちばん大切に思っているのは仕事です。父の変わり、父との同一視、とにかく仕事をしていれば父と一緒にいる気がします。美加は、その男性が心の隙間を埋めてくれたのでしょう」
「…」
「美加を大事にしない男、美加を利用しようとする男は、美加が変わらない限りあらわれる」

「ではどうします?」
未知の背中に、今後どうするかを聞く。
「殺す」
それだけ呟いて未知はまた歩き出した。

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