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永遠なる魂

107.魔族の契り

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 ガッという音と共に後頭部を痛打する。

「あぐっ」

 痛がる少女にリドは全く躊躇せず馬乗りになると、力任せに彼女の頬を押さえつけた。

「本当は何が望みだ?」
「カッ……あ、あん、たに仕えに」
「フハハハッ。嘘をつけ。俺を殺しに来たのだろう?」

 頰を押さえつける指に更に力を入れる。

「あうっ……」

 苦痛に歪む少女の顔を嬉しそうに眺め、笑う。

「女、お前の名は」
「わ、私は ―――」


 ◆◇◆◇

 アリス。

 18年前、既にリドによって奴隷の国となっていたラクニールで生まれる。

 都市、いや国全体がスラムと化しており、彼女の家も他と同じく非常に貧しかったが、アリスは幼い頃から並外れて明るい性格をしていた。

 一方でかつての英雄、今は憎き凶王のリド=マルストを彷彿とさせる程の剣術の才能を見せた。

 剣の稽古では負けた事は無く、無法者を撃退した事も数知れず。

 何の施設もなく、学校とも呼べない程の広場で剣に打ち込む彼女に目を止めた者がいた。

 旅の剣士フェルマだ。

 彼はリドに剣を教えた者であり、悪魔を育てた後悔を引きずっていた。

 アリスは彼によって鍛えられ、フェルマ曰く『若き日のリドを超える程の腕前』と評される双剣使いとなる。

 一方でその彼女と貧しさを分かち合いながら、少し歳の離れた兄妹の様に幼い頃から親しく育ってきたヘイネとドーアンというふたりの若者がいた。

 彼らは深く愛し合い、やがて結婚する。

 アリスは器用に革製のネックレスを作り、ふたりに手渡して祝福した。

 ところがその翌日。

 ふたりの行方がわからなくなった。

 彼らの住まいにはこれから食べようとしていたかのように具の無いスープがふたつ置かれていたままだった。

 嫌な予感がし、彼らを探し回るがその足取りは掴めない。

 だが数週間が経ち少し離れた村で、リルディアの印を上腕に付けた政務官の様な男と複数の兵士達が2人を連れ去ったと手掛かりを得る。

『リルディア……英雄リドが作った国、か。祖国をこんなスラムにして何が英雄なんだか』

 既に両親も亡くなっていたアリスは単身、ヘイネとドーアンを救う為に元は魔界であったスルークの王都、ヴァルハンへ向かう決意をする。

 村人からは止められるが彼女の決意は固い。


 今はスルークとなっている地域との旧国境で師フェルマと再び出会い、

『お前の道に希望があらんことを。願わくばリド=マルストに死を』

 と託される。


 だがまだこの時、アリスはそこまでは考えていなかった。

 とにかく無事にふたりを助け出す事だけを考えていた。

 ところが……

 スルークに入ってすぐの草原で死羽虫がたかる死体を見つけた。

 複数人に取り囲まれ、剣で刺されたと思われる傷がある。

 その死体がつけていた皮のネックレスからそれがヘイネの夫、ドーアンだと知り、彼女は絶叫した。

『リド……マルスト……絶対、絶対私が殺してやる』

 と。

 ◆◇◆◇


「フェルマに剣を習ったな? 奴に俺を殺せと言われたか?」

 狂気に歪んだ瞳でアリスを見下ろすリドが低い声で言う。

「そんな人、知らない」
「庇っても無駄だ。お前の剣筋でわかる」
「……」
「貴様は負けたことがないな? 生まれて初めての敗戦が即、死につながる気分はどうだ?」

 全てを見抜く様な赤い瞳に、アリスの顔には初めて怯えが色濃く見え始めた。

 その様子を眺めていたリドは、やがて喉の奥で愉しそうに笑うと、

「子供は俺の好みではないが気が変わった。殺したい相手の俺をその体で受け入れろ。なら側においてやろう」

 と言った。

 何を言っているのかわからないといった顔付きのアリスは、

「受け入れ……? どういう、意味?」

 と聞き返した。
 それがまたリドには愉快でならない。

「お前は本当に剣しかしてこなかったのだな。抱かせろと言っている。そうであれば配下として置いてやろう」
「っ……い、嫌っ!」

 体を捩って何とかリドから離れようとするが馬乗りになられている為、体格の差で全く動かない。

「ククク。嫌なら無理矢理犯すまで。その後フェルマを殺し、お前の故郷の村人を殺し、ラクニールの税は倍にするとしよう」
「そんなっ! それじゃあどっちにしても私は……」
「なんだ。それくらいの覚悟も無しに覇王に楯突いたのか? 誰にもやめろと言われなかったのか?」

 リドの言葉にラクニール出発前に自分を止めた村人達の言葉が重なる。

「フフ。さてどうする? 素直に俺に抱かれて配下になるか、無理矢理犯された上、故郷の者どもを亡き者にするか」
「う……うう……だ、かれ、ます」
「そうか。俺としてはどちらでも良かったが……ああ、そうだ。配下になった後、俺を裏切っても同じ事だ。わかったか?」

 返事をせず、こくりと頷いた。

 リドは自らの指の腹を噛み、血を滴らせると、突然それをアリスの口に突っ込んだ。

「ウプッ……な、なにを!」
「俺の指をしゃぶれ。血を吸い出して飲め!」

 最初はその行為の意味がわからず、気持ち悪がり、手足をばたつかせ、首を振っていたアリスだったが、またも両頬を押さえつけられると観念した様にその指から流れ出る血をゴクリと飲み込んだ。

「これで契約は終わりだ」
「け、契約?」
「『魔族の契り』というヤツらしいぞ? 俺を裏切ると自動的にお前は死に、フェルマや故郷の人間も死ぬ」
「なっ……」

 それはまさしく死の宣告だった。

 元より彼女に素直にリドの配下になる意図などなく、隙を見て殺そうとしていただけなのだ。

「どうした? 配下になりたかったのだろう? なぜ青褪める」
「う……う……」
「ククク。隙あらば寝首を掻いてやろう、といった所か。これでそんな事は出来なくなったがな。素直に俺の下で働くがいい。主に娼婦としてだがな」

 言い終えると同時にリドはアリスの胸に剣を突き立てた。

「ヒッ」

 殺されると思ったのか、アリスが息を呑む。
 だがニタリと笑うリドはそうはせず、鎧と服だけを器用に切り裂いた。

 ハラリと前が肌け、目を丸くしたアリスが両手で隠す。

「ちょ……何を!?」
「抱かせろと言ったであろう。手をどけよ」
「な、こ、ここで?」

 周囲には戦いを見守っていたリルディアの兵士達が大勢いる。

 心なしか、その目はニヤけている様にも見えた。

「い、嫌だよ、こんな所でなんて!」
「ダメだ。お前は今ここで全裸になり、俺に抱かれ、一生服従するのだ」
「……う……やだやだ、やだよぉ……」

 小さく頭を振り、呟く。

 すぐに涙が込み上げた。

「フェルマめ。こんな小娘に託す位なら自分で来ればよいものを」

 喋りながらアリスの服を剥ぐ。
 抵抗空しく、あっという間に彼女は衆人環視の下、裸に剥かれてしまった。

「いやぁ……」
「いい声だ。もっと泣け。羞ずかしがれ」
「うう……ぐぅ……この、変態!」
「それが王に対して言うことか。弁えよ」
「う、うう……」

 呻いている途中でアリスはかつて経験したことのない焼け付くような股間の痛みに襲われた。

 愉悦に歪むリドの顔を見て、それが何を意味するものなのかを理解する。

 リドの両腕を力一杯掴み、歯を食いしばって仰け反る様に顎を上げた。

「光栄に思え。覇王に抱いてもらえるのだからな」
「く、くう……」

 リドとアリスの結合部から一筋の血が流れ出す。

 アリスは唇を噛み締め、リドが満足するまでただ、耐えるしかなかった。











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