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口の悪い魔人達と俺様ノルト

039.セントリアに打つ布石(5) 俺はやってねー

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 警備砦 ――

「なんて頑固で頑丈な奴だ」
「こんな奴は初めてだ」

 地下の一室。

 小さな魔法トーチと椅子がひとつあるだけの無機質な部屋だ。

 今、ここには5人の警備兵がおり、部屋の中央に置かれた椅子の周りを取り囲んでいた。

 後ろ手で縛られてはいるものの、ふんぞり返ってその椅子に座っているのは言うまでもなくテスラだった。

 つまりここは取り調べ室という事なのだろう。

「いいか、これで最後だ。本当の事を言えよ?」
「わかった」
「シェバン……あの警備兵を殺したのはお前だな?」
「いーや」

 後ろでダンと大きな音で足を踏み鳴らす音が聞こえた。

「お前がやったって言ったよな!」
「覚えてねーな」
「やったんだろ?」
「やってねー」

 テスラの前で怒鳴りつけている男はハァハァと肩で息をしていたが、尋問されているテスラには疲労の色が全く見られない。

 男は手にした短い鉄の棒でテスラの顔面を思い切り叩く。

 ガッという衝撃音と共に一瞬打たれた方向へ顔が流れたテスラだったが、血が流れる訳でもなく、痣が出来る訳でもなく、痛がる素振りすら見せずに平然としていた。

「クッソ……なんて奴……そうだ、もう丸一日飯食ってねーんだ。飯食いたいだろ?」
「ん? 別に」
「くそう、こいつ一体なんなんだ!」

 一方的に警備隊側が憔悴している状況だった。

「ふぁぁぁ」
「あああ! お前今、あくびをしたな!?」
「誰が?」
「お前だよ!」

 そんなやり取りをしていた時だった。

 ズーン……と何かが爆発する様な音が上階から聞こえて来た。それと同時に部屋全体が震える。天井からはパラパラと小石や埃が落ちて来た。

「な、なんだ?」
「今、何か爆発しなかったか?」
「上か?」

 警備兵達が困惑していると、更に爆発音が響く。やがてそれに続いて悲鳴、怒号が聞こえてくる。

「ななな、なんなんだ一体」
「ふぁぁぁ」
「あ、またあくびをしたな!」
「誰が?」
「だからお前だよ!」

 テスラは面倒臭そうにその警備兵を睨み付けると、

「はぁ。いいのかテメーら、俺なんかに構ってて。上が騒がしそうだぜ?」
「ううう、くそ!」

 5人はテスラを睨みながらコソコソと小声で相談すると、上階に1人、確認に回そうと決めた。

「ヘッ。この機会にちょっとでも尋問が無くなると思ったんなら大間違いだぜ?」
「アテが外れたな? ハッハッハ!」
「あ? すまん。なんだって?」
「ききき、貴様ぁぁぁ!」

 完全にテスラにしてやられている男達をよそに、1人の兵士が扉を開けて階段を上り始めてすぐの事だった。

「グワッ」

 悍ましい悲鳴が聞こえたかと思った次の瞬間、その男は階段から転げ落ち、体ごとテスラ達のいる部屋の扉を突き破って戻って来た。

「うわっ!」
「なんだどうした」
「ウッ……お、お前、ビールズ、ビールズ!」

 つい今しがた、元気に階段を上って行った男の胸にポッカリと大きな穴が空いていた。

『私が先に行くわ。あんたはもう少し片付けてから来て』
『はいよ、セルメイダちゃん!』

 そんな会話がテスラの耳に届く。

 4人となった警備兵達はあまりの事に仲間の死体を前に右往左往するだけだった。

「おい」とテスラが警備隊に声を掛ける。

「ま、待て。いいい今は貴様どころじゃない」
「その死に方、昨日の奴、シェバンつったか? そいつと一緒だよな」
「そ、そういえば!」
「じゃあ犯人は俺じゃねーってわかったろ?」
「な、なるほど」

 じゃあもう解放しろ、そう言おうとしてやめた。
 いつの間にか室内に死霊レイスが沸き出ていたのだ。死霊レイス達は一瞬辺りを見回したかのような仕草を見せるとそれぞれ近い警備兵へと乗り憑った。

「手遅れか」

 他人事の様にバタバタと泡を噴きながら倒れていく警備兵達の最期を無表情に見届ける。

 その時カツン、カツンと階段から足音が聞こえ、やがてテスラの前へと姿を現したのは恐らく死霊レイスの召喚者なのだろう。

 髑髏の冠を被り、全身の肌の露出が多いセクシーな衣装にマントを羽織り、巨大な鎌を持った、一目で魔族とわかる女が入って来た。
 それは魔人化し、グリムリーパー本来の姿となったセルメイダだった。

 だがそれを見てもテスラは眉ひとつ動かさない。

「あんたが冤罪で捕まったという男かな? あの綺麗なの連れの」

(お嬢さん? 誰だ? アンナか?)

 そこの疑問は残ったものの、まず仲間からの救出には間違いないと踏み、

「あーそーだぜ」

 とぶっきらぼうに言った。

「そう。じゃあ助けてあげるわね」

 口では平然としつつも、グリムリーパーである自分の魔人化した姿を見ても全く怯えも恐れもしないこの男も尋常じゃない、そう思った。

 やがてドン、ドンと一際大きな足音が聞こえ、セルメイダの後ろに影が見えた。

 膨れ上がった筋肉、身体中に走る太い血管、肌は赤く背中には禍々しい翼が生えていた。

 セルメイダの時と違い、その姿を見たテスラの目が大きく見開かれる。

「さぁて、俺の身代わりで捕まっちまった、あの綺麗なお姉さんのお仲間はだぁれ……か……な」

 いうまでもなく、それはバルハムの魔人化した姿、アークデーモンとなった姿だった。

 途中まで機嫌良く喋っていた彼は、テスラの姿がその視界に入ったと同時に固まった。

「か、か、かかかか……」
「こいつぁ……なんてこった」

 愕然としているのはテスラも同じだった。

 セルメイダが怪訝な顔で2人を交互に見、数秒してバルハムに声を掛けようとした瞬間。

「テ、テテテ、テスラ様ぁぁぁぁぁ!」
「テメー、バルハムじゃねーか! 生きてたのかこのヤロー!」

 バルハムがテスラへと駆け寄り、テスラは後ろ手に縛られていたローブを瞬時に引き千切るとその大きな彼の体を抱き締めた。

 セルメイダはえっ? えっ? と驚いていたが、やがてその名前に覚えがある事に気付く。

(テスラ、テスラ……)

 何度か反芻して「あ――っっ!」と悲鳴を上げた。

「ま、魔界スルークの宰相様……魔神テスラ様、じゃん!」

 涙を流すバルハムと嬉しそうなテスラを見ながら、セルメイダは硬直した。










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