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口の悪い魔人達と俺様ノルト

011.お嬢様と旅のハーフエルフ

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 ロゼルタ達はそれで納得したものの、収まらないのはアンナだった。

「ちょっとこの人達、一体何なのよ……ネルソって、あの……ネルソ=ブ=ババロン……だったっけ、どこかの魔界の王様の事じゃ? 何か学校の授業で聞いた気がするわ」
「ネルソ=ヌ=ヴァロステ様だ馬鹿者が」

 テスラが口悪くアンナを罵る。

「む……う、うるさいわね! ちょっと間違えただけじゃない! ……て事は本当に?」

 ノルトの首元を両手で掴んで締め上げる。

「はい。そうみたいです。僕の中に4人の魔王がいるとかいないとか……」
「いたじゃないの!」

 アンナが力を込めて両手を前後にすると、ノルトの頭が前後にガクガクと揺れる。

「そ、そうですね」

 そう言うのが精一杯だった。
 ふとその動きを止め、寂しそうな顔付きになり、

「あの時は深く聞けなかったけど、もう一回聞くわ。どうして出て行っちゃったの?」
「それは、すみません」
「すみませんじゃないわ。理由を聞いてるの」

 肩口で束ねられた長い赤茶色の髪が揺れる。
 その目は心なしか、少し潤んでいる様にノルトには見えた。

「辛い事が、多過ぎて」

 正直にそう言った。

「辛い事……じゃあやっぱり、私の、せい?」
「いえ!」

 語気を強めてノルトが言うとアンナは少し驚いた様に体を引いた。

「違います、逆です。アンナお嬢様の優しさがあったから1年頑張れたんです。でもあの日、いつもの様に囲まれて暴力を受けていた僕に、これ以上僕があの家にいるとお嬢様に迷惑がかかると言われて」
「な……誰がそんな……って、いつもの様に? 暴力を、う、受けていた、ですって?」
「……はい」

 アンナは口を開けたまま固まってしまった。
 そんな事は考えもしなかった。
 それ程使用人達のノルト虐めは巧妙になされていたという事でもあった。

「でも珍しい事じゃないんです。僕はどこに行っても同じなんです。それでもここはアンナお嬢様がいてくれて本当に幸せでした」

 ノルトが寂しそうに笑ってそう言うと、アンナは堪えきれず、遂に泣き出してしまった。

「う、う、うわ――ん! ノルトォ、ごめんねえ、何も分かってあげられなくてぇぇ……もうどこにも行かないでぇ! 私と一緒にいてぇぇ」

 ペタンと内股で座って号泣するアンナの姿に目をパチクリとさせ、

(おおおおお嬢様が……泣いてるぅ……これは一体、どうすれば)

 ノルトはどうして良いか分からず、ただオロオロとするばかり。

「やれやれ。青春だねえ……一緒にいさせてやりてーとこだが残念ながらそうは行かねえんだ」

 ロゼルタが苦笑いしながら、しかしはっきりとそう言った。

「うう……グスッ……なんで?」
「こいつはこれからあたしらと旅に出るんだ」
「旅に……どこに?」
「それはお前には言えない」
「何でよ!」
「何でもだ」

 アンナは泣き怒りの顔でロゼルタを睨む。
 ロゼルタはそれには応じず、涼しい顔だ。

 暫くアンナは一方的にロゼルタを睨んでいたが、やがて観念した様に言った。

「分かったわ」
「それは良かった」

 ロゼルタが微笑むと、アンナは思いもしない事を言い出した。

「なら私がついて行く」
「ああそうしろ……は、はぁ?」

 今度はロゼルタが驚いた。
 黙って聞いていたドーンが小さく笑い出す。

「ま、待て。なんでそうなる」
「だって仕方無いじゃない。ノルトがどうしても旅に出るなら私が付いて行くしかないじゃない」
「い、いや待て……お前はここに親も兄弟もいるんだろ? 人間なんだからここでの生活やら立場やらあるだろうが」

 アンナはムスッとした顔で、

「元々、出て行くつもりだったの。ノルトが上半身裸で虚ろな顔で山に向かっているのを見た人がいて私に教えてくれたの。パパに相談したらあんな奴の事は放っておけとか言うから喧嘩しちゃったわ。心配だから1人で探しに行くつもりだったのよ」
「それでそんな御召し物を……」

 ノルトが呟く様に言う。

 ワンピースにズボンはともかく、帯剣して出て行くというのは町中では有り得ない。
 ようやく違和感のあったアンナのいでたちに納得がいく。

 それと同時にアンナの優しさに今までの苦労が吹き飛ぶ思いだった。
 誰かに心配される事などスラムを出て以降、無かった事だった。

「お嬢様……僕なんかの為に……有難う、ございます」
「いやいやいや待て待て待て。良い感じの話にするな! ダメだダメだダメだ」

 なんとなくノルトとアンナの間で話が纏まりそうな雰囲気だったのを察したロゼルタが慌てて話に割り込んだ。

 ドーンはまたもクックックと笑う。

「なんでよ!」
「お前の様な何の力も無い小娘が耐えられる様な旅じゃねーんだ。あたしらは魔王様から絶対にノルトを守る様にと……あ」
「魔王様……また魔王が出てくるの? で、様? 様って言ったわね? 貴方達ひょっとして魔族? うーんでも人間にしか見えないんだけど……」
「ぐぅ……あたしとした事が」
「ククク。良いではないか別に。ノルトも惚れてくれる女がいた方ががあるじゃろうし」
「ド、ドーン!」
「まあまあ」

 焦るロゼルタをドーンが宥める様に手を上げる。そのままニヤリと笑ってアンナに言った。

「娘よ、言っておくが儂らは魔王様からノルトは死なすなと言われておるが、それ以外は言われておらん。つまりお前が死にそうになっても助ける者はおらん。それでも良いか?」
「か、構わないわ!」
「先程の様な合成魔物キメラなど序の口、下手すると一国の軍隊を敵に回すかもしれんぞ?」
「ぐ、軍隊って……あんた達、一体何者なの……何をしようとしているの!?」

 アンナの問いは当然だった。
 ドーンが答えようとしたその時。

「そこの木陰で話を聞いている奴がいる」

 マクルルが唐突に言った。

「誰だ?」

 ロゼルタが太腿に手を伸ばし短剣の柄を握り、殺気を放つ。

「ままま待って下さい」

 女性の声だった。

 数秒後、マクルルが指差す一本の大きなヤシャの木の裏から1人の女性が現れた。

 その美しい銀髪と少し尖った長い耳の可愛らしい女性にノルトは覚えがあった。

「あ! あなたは……治癒ヒールをかけていただいた……」
「ノルトさん、数日振りですね。話は聞いちゃいました」

 テヘッと笑う、少女にも見える彼女にロゼルタは殺気を解かず、厳しい目を向ける。

「エルフ、いやハーフエルフか。あれ? お前……どこかで見た事があるな」
「儂も見覚えあるぞ。はて……」
「俺は知らねーな」

 マクルルも無言で頷いている所を見ると、どうやらテスラとアンナ以外は彼女を知っている様だった。

「やはり……まさかと思いましたがこんな事があるとは。皆さん、リドに殺された筈の様達ですね? ロゼルタさん、マクルルさん、ドーンさん……に後1人、と言う事はきっと魔界スルークのテスラさん」

 少し驚いた顔でそう言っていた彼女はそこでフッと物悲しげな顔付きになり、

「私は……かつて30年前、そのリド=マルストと同じパーティにいたサラ。ハーフエルフの魔導士です」

 瞬間、ロゼルタの全身に殺気が漲った。














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