11 / 154
口の悪い魔人達と俺様ノルト
011.お嬢様と旅のハーフエルフ
しおりを挟む
ロゼルタ達はそれで納得したものの、収まらないのはアンナだった。
「ちょっとこの人達、一体何なのよ……ネルソって、あの……ネルソ=ブ=ババロン……だったっけ、どこかの魔界の王様の事じゃ? 何か学校の授業で聞いた気がするわ」
「ネルソ=ヌ=ヴァロステ様だ馬鹿者が」
テスラが口悪くアンナを罵る。
「む……う、うるさいわね! ちょっと間違えただけじゃない! ……て事は本当に?」
ノルトの首元を両手で掴んで締め上げる。
「はい。そうみたいです。僕の中に4人の魔王がいるとかいないとか……」
「いたじゃないの!」
アンナが力を込めて両手を前後にすると、ノルトの頭が前後にガクガクと揺れる。
「そ、そうですね」
そう言うのが精一杯だった。
ふとその動きを止め、寂しそうな顔付きになり、
「あの時は深く聞けなかったけど、もう一回聞くわ。どうして出て行っちゃったの?」
「それは、すみません」
「すみませんじゃないわ。理由を聞いてるの」
肩口で束ねられた長い赤茶色の髪が揺れる。
その目は心なしか、少し潤んでいる様にノルトには見えた。
「辛い事が、多過ぎて」
正直にそう言った。
「辛い事……じゃあやっぱり、私の、せい?」
「いえ!」
語気を強めてノルトが言うとアンナは少し驚いた様に体を引いた。
「違います、逆です。アンナお嬢様の優しさがあったから1年頑張れたんです。でもあの日、いつもの様に囲まれて暴力を受けていた僕に、これ以上僕があの家にいるとお嬢様に迷惑がかかると言われて」
「な……誰がそんな……って、いつもの様に? 暴力を、う、受けていた、ですって?」
「……はい」
アンナは口を開けたまま固まってしまった。
そんな事は考えもしなかった。
それ程使用人達のノルト虐めは巧妙になされていたという事でもあった。
「でも珍しい事じゃないんです。僕はどこに行っても同じなんです。それでもここはアンナお嬢様がいてくれて本当に幸せでした」
ノルトが寂しそうに笑ってそう言うと、アンナは堪えきれず、遂に泣き出してしまった。
「う、う、うわ――ん! ノルトォ、ごめんねえ、何も分かってあげられなくてぇぇ……もうどこにも行かないでぇ! 私と一緒にいてぇぇ」
ペタンと内股で座って号泣するアンナの姿に目をパチクリとさせ、
(おおおおお嬢様が……泣いてるぅ……これは一体、どうすれば)
ノルトはどうして良いか分からず、ただオロオロとするばかり。
「やれやれ。青春だねえ……一緒にいさせてやりてーとこだが残念ながらそうは行かねえんだ」
ロゼルタが苦笑いしながら、しかしはっきりとそう言った。
「うう……グスッ……なんで?」
「こいつはこれからあたしらと旅に出るんだ」
「旅に……どこに?」
「それはお前には言えない」
「何でよ!」
「何でもだ」
アンナは泣き怒りの顔でロゼルタを睨む。
ロゼルタはそれには応じず、涼しい顔だ。
暫くアンナは一方的にロゼルタを睨んでいたが、やがて観念した様に言った。
「分かったわ」
「それは良かった」
ロゼルタが微笑むと、アンナは思いもしない事を言い出した。
「なら私がついて行く」
「ああそうしろ……は、はぁ?」
今度はロゼルタが驚いた。
黙って聞いていたドーンが小さく笑い出す。
「ま、待て。なんでそうなる」
「だって仕方無いじゃない。ノルトがどうしても旅に出るなら私が付いて行くしかないじゃない」
「い、いや待て……お前はここに親も兄弟もいるんだろ? 人間なんだからここでの生活やら立場やらあるだろうが」
アンナはムスッとした顔で、
「元々、出て行くつもりだったの。ノルトが上半身裸で虚ろな顔で山に向かっているのを見た人がいて私に教えてくれたの。パパに相談したらあんな奴の事は放っておけとか言うから喧嘩しちゃったわ。心配だから1人で探しに行くつもりだったのよ」
「それでそんな御召し物を……」
ノルトが呟く様に言う。
ワンピースにズボンはともかく、帯剣して出て行くというのは町中では有り得ない。
ようやく違和感のあったアンナのいでたちに納得がいく。
それと同時にアンナの優しさに今までの苦労が吹き飛ぶ思いだった。
誰かに心配される事などスラムを出て以降、無かった事だった。
「お嬢様……僕なんかの為に……有難う、ございます」
「いやいやいや待て待て待て。良い感じの話にするな! ダメだダメだダメだ」
なんとなくノルトとアンナの間で話が纏まりそうな雰囲気だったのを察したロゼルタが慌てて話に割り込んだ。
ドーンはまたもクックックと笑う。
「なんでよ!」
「お前の様な何の力も無い小娘が耐えられる様な旅じゃねーんだ。あたしらは魔王様から絶対にノルトを守る様にと……あ」
「魔王様……また魔王が出てくるの? で、様? 様って言ったわね? 貴方達ひょっとして魔族? うーんでも人間にしか見えないんだけど……」
「ぐぅ……あたしとした事が」
「ククク。良いではないか別に。ノルトも惚れてくれる女がいた方が張り合いがあるじゃろうし」
「ド、ドーン!」
「まあまあ」
焦るロゼルタをドーンが宥める様に手を上げる。そのままニヤリと笑ってアンナに言った。
「娘よ、言っておくが儂らは魔王様からノルトは死なすなと言われておるが、それ以外は言われておらん。つまりお前が死にそうになっても助ける者はおらん。それでも良いか?」
「か、構わないわ!」
「先程の様な合成魔物など序の口、下手すると一国の軍隊を敵に回すかもしれんぞ?」
「ぐ、軍隊って……あんた達、一体何者なの……何をしようとしているの!?」
アンナの問いは当然だった。
ドーンが答えようとしたその時。
「そこの木陰で話を聞いている奴がいる」
マクルルが唐突に言った。
「誰だ?」
ロゼルタが太腿に手を伸ばし短剣の柄を握り、殺気を放つ。
「ままま待って下さい」
女性の声だった。
数秒後、マクルルが指差す一本の大きなヤシャの木の裏から1人の女性が現れた。
その美しい銀髪と少し尖った長い耳の可愛らしい女性にノルトは覚えがあった。
「あ! あなたは……治癒をかけていただいた……」
「ノルトさん、数日振りですね。話は聞いちゃいました」
テヘッと笑う、少女にも見える彼女にロゼルタは殺気を解かず、厳しい目を向ける。
「エルフ、いやハーフエルフか。あれ? お前……どこかで見た事があるな」
「儂も見覚えあるぞ。はて……」
「俺は知らねーな」
マクルルも無言で頷いている所を見ると、どうやらテスラとアンナ以外は彼女を知っている様だった。
「やはり……まさかと思いましたがこんな事があるとは。皆さん、リドに殺された筈の魔神様達ですね? ロゼルタさん、マクルルさん、ドーンさん……に後1人、と言う事はきっと魔界スルークのテスラさん」
少し驚いた顔でそう言っていた彼女はそこでフッと物悲しげな顔付きになり、
「私は……かつて30年前、そのリド=マルストと同じパーティにいたサラ。ハーフエルフの魔導士です」
瞬間、ロゼルタの全身に殺気が漲った。
「ちょっとこの人達、一体何なのよ……ネルソって、あの……ネルソ=ブ=ババロン……だったっけ、どこかの魔界の王様の事じゃ? 何か学校の授業で聞いた気がするわ」
「ネルソ=ヌ=ヴァロステ様だ馬鹿者が」
テスラが口悪くアンナを罵る。
「む……う、うるさいわね! ちょっと間違えただけじゃない! ……て事は本当に?」
ノルトの首元を両手で掴んで締め上げる。
「はい。そうみたいです。僕の中に4人の魔王がいるとかいないとか……」
「いたじゃないの!」
アンナが力を込めて両手を前後にすると、ノルトの頭が前後にガクガクと揺れる。
「そ、そうですね」
そう言うのが精一杯だった。
ふとその動きを止め、寂しそうな顔付きになり、
「あの時は深く聞けなかったけど、もう一回聞くわ。どうして出て行っちゃったの?」
「それは、すみません」
「すみませんじゃないわ。理由を聞いてるの」
肩口で束ねられた長い赤茶色の髪が揺れる。
その目は心なしか、少し潤んでいる様にノルトには見えた。
「辛い事が、多過ぎて」
正直にそう言った。
「辛い事……じゃあやっぱり、私の、せい?」
「いえ!」
語気を強めてノルトが言うとアンナは少し驚いた様に体を引いた。
「違います、逆です。アンナお嬢様の優しさがあったから1年頑張れたんです。でもあの日、いつもの様に囲まれて暴力を受けていた僕に、これ以上僕があの家にいるとお嬢様に迷惑がかかると言われて」
「な……誰がそんな……って、いつもの様に? 暴力を、う、受けていた、ですって?」
「……はい」
アンナは口を開けたまま固まってしまった。
そんな事は考えもしなかった。
それ程使用人達のノルト虐めは巧妙になされていたという事でもあった。
「でも珍しい事じゃないんです。僕はどこに行っても同じなんです。それでもここはアンナお嬢様がいてくれて本当に幸せでした」
ノルトが寂しそうに笑ってそう言うと、アンナは堪えきれず、遂に泣き出してしまった。
「う、う、うわ――ん! ノルトォ、ごめんねえ、何も分かってあげられなくてぇぇ……もうどこにも行かないでぇ! 私と一緒にいてぇぇ」
ペタンと内股で座って号泣するアンナの姿に目をパチクリとさせ、
(おおおおお嬢様が……泣いてるぅ……これは一体、どうすれば)
ノルトはどうして良いか分からず、ただオロオロとするばかり。
「やれやれ。青春だねえ……一緒にいさせてやりてーとこだが残念ながらそうは行かねえんだ」
ロゼルタが苦笑いしながら、しかしはっきりとそう言った。
「うう……グスッ……なんで?」
「こいつはこれからあたしらと旅に出るんだ」
「旅に……どこに?」
「それはお前には言えない」
「何でよ!」
「何でもだ」
アンナは泣き怒りの顔でロゼルタを睨む。
ロゼルタはそれには応じず、涼しい顔だ。
暫くアンナは一方的にロゼルタを睨んでいたが、やがて観念した様に言った。
「分かったわ」
「それは良かった」
ロゼルタが微笑むと、アンナは思いもしない事を言い出した。
「なら私がついて行く」
「ああそうしろ……は、はぁ?」
今度はロゼルタが驚いた。
黙って聞いていたドーンが小さく笑い出す。
「ま、待て。なんでそうなる」
「だって仕方無いじゃない。ノルトがどうしても旅に出るなら私が付いて行くしかないじゃない」
「い、いや待て……お前はここに親も兄弟もいるんだろ? 人間なんだからここでの生活やら立場やらあるだろうが」
アンナはムスッとした顔で、
「元々、出て行くつもりだったの。ノルトが上半身裸で虚ろな顔で山に向かっているのを見た人がいて私に教えてくれたの。パパに相談したらあんな奴の事は放っておけとか言うから喧嘩しちゃったわ。心配だから1人で探しに行くつもりだったのよ」
「それでそんな御召し物を……」
ノルトが呟く様に言う。
ワンピースにズボンはともかく、帯剣して出て行くというのは町中では有り得ない。
ようやく違和感のあったアンナのいでたちに納得がいく。
それと同時にアンナの優しさに今までの苦労が吹き飛ぶ思いだった。
誰かに心配される事などスラムを出て以降、無かった事だった。
「お嬢様……僕なんかの為に……有難う、ございます」
「いやいやいや待て待て待て。良い感じの話にするな! ダメだダメだダメだ」
なんとなくノルトとアンナの間で話が纏まりそうな雰囲気だったのを察したロゼルタが慌てて話に割り込んだ。
ドーンはまたもクックックと笑う。
「なんでよ!」
「お前の様な何の力も無い小娘が耐えられる様な旅じゃねーんだ。あたしらは魔王様から絶対にノルトを守る様にと……あ」
「魔王様……また魔王が出てくるの? で、様? 様って言ったわね? 貴方達ひょっとして魔族? うーんでも人間にしか見えないんだけど……」
「ぐぅ……あたしとした事が」
「ククク。良いではないか別に。ノルトも惚れてくれる女がいた方が張り合いがあるじゃろうし」
「ド、ドーン!」
「まあまあ」
焦るロゼルタをドーンが宥める様に手を上げる。そのままニヤリと笑ってアンナに言った。
「娘よ、言っておくが儂らは魔王様からノルトは死なすなと言われておるが、それ以外は言われておらん。つまりお前が死にそうになっても助ける者はおらん。それでも良いか?」
「か、構わないわ!」
「先程の様な合成魔物など序の口、下手すると一国の軍隊を敵に回すかもしれんぞ?」
「ぐ、軍隊って……あんた達、一体何者なの……何をしようとしているの!?」
アンナの問いは当然だった。
ドーンが答えようとしたその時。
「そこの木陰で話を聞いている奴がいる」
マクルルが唐突に言った。
「誰だ?」
ロゼルタが太腿に手を伸ばし短剣の柄を握り、殺気を放つ。
「ままま待って下さい」
女性の声だった。
数秒後、マクルルが指差す一本の大きなヤシャの木の裏から1人の女性が現れた。
その美しい銀髪と少し尖った長い耳の可愛らしい女性にノルトは覚えがあった。
「あ! あなたは……治癒をかけていただいた……」
「ノルトさん、数日振りですね。話は聞いちゃいました」
テヘッと笑う、少女にも見える彼女にロゼルタは殺気を解かず、厳しい目を向ける。
「エルフ、いやハーフエルフか。あれ? お前……どこかで見た事があるな」
「儂も見覚えあるぞ。はて……」
「俺は知らねーな」
マクルルも無言で頷いている所を見ると、どうやらテスラとアンナ以外は彼女を知っている様だった。
「やはり……まさかと思いましたがこんな事があるとは。皆さん、リドに殺された筈の魔神様達ですね? ロゼルタさん、マクルルさん、ドーンさん……に後1人、と言う事はきっと魔界スルークのテスラさん」
少し驚いた顔でそう言っていた彼女はそこでフッと物悲しげな顔付きになり、
「私は……かつて30年前、そのリド=マルストと同じパーティにいたサラ。ハーフエルフの魔導士です」
瞬間、ロゼルタの全身に殺気が漲った。
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる