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ブラウニー

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ゼノンさんの手助けもあり、無事にルウの口から木製のスプーンの先を出す事が出来た。
テーブルの皿の上には唾液まみれのバラバラな木片が乗っていた。

嫌がるルウの口の中を調べ、口の中に傷が無いか確認。
その後、急いでルウが出した木製のスプーンの欠片を調べて元の原型を復元して誤飲が無いか確認。

幸いにも、ルウの口の中は傷は無く、スプーンの欠片は全部揃っていた。

「・・・・ハァ・・・。ビビった。今年1番、ビビった」
「っ、し、心臓に悪い・・・・」

たった数分の騒動にシェナとユージーンはドッと疲れが襲った。
シェナはテーブルに伏し、ユージーンは額に手を当て、重い息を吐ていた。

騒動の原因であるルウは、口からスプーンの残骸を吐き出される時、最初こそ泣き叫んでいたが、今はゼノンさんの腕の中で落ち着き、ウトウトとしている。

「ドラゴンは噛む力が強い。人龍化した小さな子供とは言え、木製スプーンを使ったのはまずかったかもしれないな」
「ゼノンさん。すみません。スプーン壊してしまって」
「いや、それは大丈夫だが、大丈夫か?」

未だにテーブルに伏しているシェナ。

「はいぃ・・・・」

一応、返事は出来たが、元気は無かった。

「そう言えば、昔、母さんが、
『赤ちゃんは一瞬油断すると、一生の後悔に繋がる事がある』
って、言っていたっけ」

母さん、私は今、身をもって経験しました。

「ところで、ココロはどこだ?」

キッチンに妻の姿が見えず、シェナに尋ねる。

「あ、ココロさんなら、活きのいいのを捕まえ来るって、今、外にいます」
「何をだ?」

ゼノンさんは困惑気味に聞き返す。
と、その時、

ガチャ。

「ただいま。あら、シェナちゃんどうかしたの?」
「あ、おかえりなさいココロさん。ちょっとトラブルが、って!?」

キッチンの勝手口が開いてココロさんが帰って来た。

「ココロさん、どうしたんですか!?」

帰って来たココロさんの姿に、ちょっとギョッとなるシェナとユージーン。
満面の笑みのココロさんの姿は服は土汚れ、三つ編みの髪は所々に木の葉と小枝を付け、ボサボサになっていた。

「あ、あら、ごめんなさい。はしたない姿を見せて。この子達を捕まえるのに少し手こずっちゃって」
「この子?」
「そう、この子達」

そう言いながココロさんは手に持っていた物をテーブルの上に置く。

それは、口が大きい、少し大きめのガラス瓶だった。
布で蓋をされた瓶の中に入っていたモノを見て、シェナは目を見開く。

瓶の中には拳大の小さな小人が2人入っていた。
小さな丸い帽子に緑色の服に茶色のベスト。
だが、よく見ると、1人は女の子の雰囲気で服装がワンピースだった。

「もしか、ブラウニーですか?」
「そうよ。近くの林にいるのを思い出して、ちょっと捕まえに行ったの」
「妖精族のブラウニーをよく捕まえられましたね」

驚いた顔をしたユージーンが物珍しそうに瓶の中のブラウニーを見る。

『ブラウニー』は、森や林、民家の屋根裏に住む妖精の一種だ。
人前には滅多に現れないが、稀にブラウニーは気まぐれに民家に忍び込み、そこの住人を気に入れば一杯のミルクとお菓子でその家に奉仕すると言われている。

だが、瓶の中のブラウニー達は、互いに身を寄せ合い、なんだかちょっと怯えている様に見えた。

「この子達は、見つけるのは難しいけど、姿さえ見つけさえ出来ればちょっとのコツで捕まえられるのよ」
「ちょっとのコツ?」

ちょっと得意げに話すココロさん。

「ブラウニーが居そうな所にお菓子を置いて、ブラウニーがそのお菓子を見つけて、そのお菓子を食べるのに夢中になっている所を、背後からそっと、近づいて、籠をバサっと、」
「それ、子供が悪戯で小鳥や小鼠を捕まえる方法ですよね」

無邪気な笑顔で説明するココロさんに思わずツッコんでしまったシェナ。

このブラウニー、小鳥や小鼠と同じ方法で捕まったのか。

でも、やっぱり、怯えている?

「ココロ、ブラウニーを怖がらせるのはやめなさい」
「でも、この子達、人の姿を見るとすぐ逃げてしまうから。ルウちゃんのお洋服を作ってもらうにも一度こちらに連れてきた方がいいと思って」
「それにしても、なんだか、このブラウニー達怯えてませんか?」

ユージーンがココロに尋ねる。

「お菓子を食べている隙に捕まえようとしたら気付かれちゃったの。逃げようとしたから、ちょっと驚かしちゃったの」
「・・・・・・・」
「背後に逃げられたから咄嗟に首を後ろに回して追いかけたら、止まってくれて」
「ココロ、それは、おそらく、腰抜かして動けなくなっただけだ」
「あ、あら?」

呆れるゼノンさんに恥ずかしそうに笑うココロさん。

でも、ブラウニー達が怯えている理由が分かった。
背後からいきなり襲われて、逃げようとしたら、体は背を向けているのに首が180度回った人が追いかけて来るなんて、普通にホラーだ。

「アレを見たのか」
「あれ?ユージーン、知ってるの?」

瓶の中で怯えているブラウニーに同情を感じさせる苦い顔をしたユージーンにシェナが声をかける。

「・・・・・部屋を案内してもらった時に、後ろから声をかけたら、首が回った」
「あ~~~。ココロさん、梟の鳥人だから偶に無意識に首を回す癖があるんだって」
「先に言って欲しかった・・・・・」

ユージーンは小さな声でつぶやいた。

もしかして、部屋にいた時に聞こえた何がが落ちる様な音と関係あるのかな?
とりあえず、

「ドンマイ」
「・・・・・・・どんまい?」

シェナのかけた言葉にユージーンは不思議そうな顔をした。

「気にするなって事」

そう言いながら、シェナはテーブルに置いてある瓶の蓋に手を伸ばした。

「大丈夫。出てきていいよ」

瓶の蓋をしていた布を外し、怯えるブラウニーに優しく微笑み語りかけた。
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