62 / 92
25-2
しおりを挟む「そして、ここは食堂です。三食ここで食べることになります」
「外食などは?」
「外で任務がある場合か休暇を除いて、待機している団員は基本ここで食べます。まあ、休暇中でも結局ここで済ます奴らも多いですけどね」
「なるほどね」
後ろからファルク様とアベル様のやり取りを見守っている。
時折ファルク様の存在が気になって、ついついと盗み見した。彼の横顔が元気そうで、安堵を感じる。
そして、そんな落ち着きがない私の隣には旦那様がいる。
内部ではない人がいるからなのか、いらっしゃる団員の方々からの視線を感じる。
慣れているはずなのに、何故か今回はものすごく居心地悪かった。
「旦那様も、いつもここで昼食を?」
「……ああ」
私たちの間に交わされた会話はそれで終わった。
アベル様が施設の説明をしたあと、それについて彼に問う。彼がそれに短く応えて、そして終わる。
まるで、彼と結婚した直後の会話だ。その逆戻りは更に私を落ち込ませる。
もしかすると、飽きられた、のだろうか。許可をしてくれたとはいえ、最初はあまりよく思っていないみたいだから。もしそうだとすると、我が儘なんて言わずに、誘われた時点で屋敷に戻ればよかったのに。
空気が吸い辛くて、胸が苦しい。
いつもよりも苦しい。
彼への想いを自覚してからこうだ。
体を固まらせる緊張も、日々膨張する不安も、首を絞める恐怖も。彼の隣にいるだけで私は苛まれる。
時折、知らないままでいれば、そう思ってしまう。あの塊を形を成さないまま、友情や親愛などのような布で覆いかぶせたらどれ程よかったのか。
そうすれば、こんなに苦しまずに済む。
罪悪感なんて抱えず、彼の隣で笑えるのに。
「奥様」
カレンの声で、深く潜った意識が浮上した。
気が付けば、私はカレンと二人だけ食堂の席に座る。
「あれ、皆様は……」
「今皆さんは浴室を見に行くところです。あの、男女別々ですので……」
「あ、なるほど」
そんな話、全く聞き覚えがなかった。
また、やってしまった。この、思わず考え込む癖を直すのが本当に難しい。お姉様はいい事だとよく褒めてくれたけど、これはさすがに駄目だ。
中々変わらない自分に呆れて、思わずため息を吐いた。
「奥様、疲れていますか? ここに着いてから立ちっぱなしなんですもんね」
「そう、だね。一度座ると疲れが一気に来た、という感じかな」
訓練所に、団員の寮、武器庫に厩舎まで。どちらも訪れることのない場所で、とても新鮮だった。
意図的に環境を整えすぎないように意識され、過酷な状況でも戦えるようにしているなど、戦が多い国ならではの発想だろうか。
男女も貴族や平民も隔たりなく所属し、皆が支え合いながら一体になる。そのような雰囲気を感じさせる。
そんな同僚達を眺めている時の旦那様の瞳もものすごく穏やかで、彼がどれ程この騎士団を誇りに思っているのが伝わった。
「この席は懐かしいなぁ。今奥様の護衛をしているから、あの昼食の風景を見る機会あまりなかったんですね」
「懐かしい?」
首を傾げれば、カレンが悪戯っぽくニヤッと笑う。
その笑顔はアベル様のそれととても似ているから、身構えてしまう。
11
お気に入りに追加
1,187
あなたにおすすめの小説
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する
cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。
18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。
帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。
泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。
戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。
奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。
セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。
そしてその将兵は‥‥。
※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※頑張って更新します。
真綿で包んで愛されて
キムラましゅろう
恋愛
わたしと夫には共通の仇がいる。
共に両親を殺され、
その後は互いを支え合い生きて来た。
夫は仇の妻や娘を籠絡し、確実に仇の罪の証拠を調べ上げていく。
時にはその体を使いながら、わたしを裏切りながら。
それでもわたしは知らないふりをする。
夫の腕の中という真綿に包まれて。
わたしは夫の帰りを待つ。
目的の為で浮気ではないとはいえ
許せない行為を働く夫が出て来ます。
胸くそ案件が苦手な方は
ご遠慮くださいね。
上・中・下の3話完結です。
そのため細かい設定など一切ない
ゆる設定&ご都合設定です。
予めご了承くださいませ。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
恋した男が妻帯者だと知った途端、生理的にムリ!ってなったからもう恋なんてしない。なんて言えないわ絶対。
あとさん♪
恋愛
「待たせたね、メグ。俺、離婚しようと思うんだ」
今まで恋人だと思っていた彼は、まさかの妻帯者だった!
絶望するメグに追い打ちをかけるように彼の奥さまの使いの人間が現れた。
相手はお貴族さま。自分は平民。
もしかしてなにか刑罰を科されるのだろうか。泥棒猫とか罵られるのだろうか。
なにも知らなかったメグに、奥さまが言い渡した言葉は「とりあえず、我が家に滞在しなさい」
待っていたのは至れり尽くせりの生活。……どういうこと?
居た堪れないメグは働かせてくれと申し出る。
一方、メグを騙していた彼は「メグが誘拐された」と憲兵に訴えていた。
初めての恋は呆気なく散った。と、思ったら急に仕事が忙しくなるし、あいつはスト○カ○っぽいし、なんだかトラブル続き?!
メグに次の恋のお相手は来るのか?
※全48話。脱稿済。
※R15は保険。
※設定はゆるんゆるん。
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください。
※このお話は小説家になろうにも投稿しております。
[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜
日向はび
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」
二人は再び手を取り合うことができるのか……。
全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる