上 下
23 / 68
デルトナ村

通貨

しおりを挟む
「ここまで来たら大丈夫かな。
安藤さん、さっきの方角見てくれる?」

「うん……誰も来てないみたいだよ。」

「よし。じゃあ、暫くは歩こうか。」

「うん。そうだね。」

「ところでさっきはあの人に何をしたの?
私にもなにが起きたかあんまりわからなくて…」

「ああ…あの時、俺が吹き飛ばされる前に安藤さんに石渡してたでしょ。」

「うん。音宮くんに何かあったら騎士の人目掛けて投げてって言われてたから投げたけど、それだけであんなに飛ばされるものなのかなって?あの石ってなんか特別なものだったの?」

「別に、ただの道端に落ちてた小石だよ。
別になんでも良かったんだ。体に当たりさえすれば反射的に石が当たった方向とは逆の方に重心を寄せてしまうからね。
強ければそれだけ体は勝手に条件反射をしてしまう。その瞬間に奴自身を崖の上に転移させたまでだよ。あとは勝手に落ちていってくれるから這い上がってこれないよう足止めをしただけ。流石にあの人には勝てないから逃げるつもりでいて良かった。それに、魔法とか言ってたしこの世界ならではの便利なものもありそうだ。覚えれたら損しないし、安藤さんも魔法覚えて見たら。」

「私は無理だよ。そんなの出来る気しないし…魔力だってFなんだよ。絶対無理だよ。」

「まあまあ、やってみるだけならタダなんだから。それに魔法を使った道具なんかもあるかもしれない。どこに行くにしても便利なものだと思うから見てみようよ。」

2人はその後も雑談をしながら、デルトナ村へと向かい歩み始める。

◇◇◇◇◇◇

「今回は特に問題もなく来れたね。」

「うん。道中何も起きなくてよかったよ。
村人もいるみたいだし、今日こそは宿に泊まろう。」

村の中に入った2人は早速、重大な壁にぶつかっていた。
それは…

「お金…全く足りないね。」

「通貨がわからないから適当に持ってきたけど、まさかこんなに足りないものだとは思わなかったな。換金目当てで持ってきてたオオカミ肉も腐って使い物にならないし…困ったな。」

2人は通貨を全く知らないまま適当にお金を持ってきた為、圧倒的にお金が足りなかった。

音宮の所持金が金貨0枚、銀貨1枚、銅貨7枚
安藤の所持金が金貨1枚、銀貨0枚、銅貨2枚だった。
銅貨10枚=銀貨1枚 銀貨10枚=金貨1枚になるそうだ。

それに対して食料は一番安いものでも銅貨3枚でパン、肉に関しては銅貨7枚だ。
備蓄の食料を買おうと考えると干し肉やパンなどが最低でも3日分は欲しい為、合計で銀貨4枚ほどが必要となる。
その上、調理用のナイフは銀貨3枚、剣や鎧などの装備品は最低金貨2枚からのスタート。
宿代に関しては1人銀貨8枚という値段だ。
この国の平均給料が知りたい。一体いくら貰えば賄えると思ってるんだ。なんてどんなに愚痴を言おうともお金が集まる訳でもない。
武器と防具で金貨8枚、食料に銀貨4枚、宿代と備品込みで金貨2枚、合計で金貨10枚以上あれば最低限の備品は揃えられるという事か…仕方ない、やるか。

「ちょっと席外してくるね。安藤さんはここで待ってて。直ぐに帰って来るから心配しないで。」

音宮がその場を去ろうとすると安藤に腕をつかまれる。

「私の勘違いだったら悪いんだけど、もしかして音宮くん。他人《ひと》の財布からお金盗もうとしてない?そのお金だって王宮から勝手に貰ってきたものだよね。私だって似たようなものだけど…やっぱり駄目だよ。
お金盗んじゃうなんて。」

なんでこういう時に限って鋭いんだこいつは!普段は何も言えないく癖に正当性のある時だけ主張してくるか。案外、政治家に向いてるんじゃないか。まあ、そんな事はどうでもいい。今回に関しては彼女が100%正しい事を言っているし反論の余地がない。悪い事をしている自覚はあるが、見えてなければやってないのと一緒だと思っている俺と彼女は違うのだろう。それに僅かにだが、金を盗むのにはリスクが存在する。こんな小さい村でいきなり数人の財布から金が消えたら真っ先に疑われるのは当然旅人である俺たちだ。
そしたら、また王国兵と戦わなければいけなくなる。それはそれで面倒だ。
仕方ない…まっとうに稼ぐか。

「肉屋の人にこの辺で換金できるモンスターとかいないか聞きに行くだけだよ。
今日、泊まる分くらいは稼げると思うし。稼ぎが良ければこの村に何拍かして、しっかり準備を整えてから出発してもいいしね。」

「あ…そうなんだ。ごめんね、疑うようなこと言っちゃって…」

「大丈夫だよ、気にしてないから」

嘘だ。音宮は根に持っている。隙があれば一人くらいからなら盗むつもりだ。

「ありがとう。私も手伝うね。
山菜くらいなら採れると思うし。」

当たり前だ。見つけることだけがお前に出来る仕事だろうか。
少しは働け、泣き虫女が。

「ありがとう。安藤さんのスキルがあったらすぐ見つかるから助かるよ。じゃあ、聞いて来るからちょっと待っててね。」

「うん!」

さてと、今の内に金盗んでおくか。

結局、音宮は肉屋に買い物をしに来ていた客の会計時にお金を出した一瞬の隙をついて盗んだ。金貨1枚と音宮が持っていた銅貨を入れ替える事で取られた方も自分が勘違いしていたものだと思い込んでしまっていた。

「すみません。この辺りで討伐したら換金可能なモンスターっていませんか?旅人なんですけど、ちょっとお金に困ってて…」

平然とした顔で話していた音宮を疑うものは誰も居なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

udonlevel2
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...