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3年生
現実味
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「ど、どうしてルシスさんがここに?」
僕は椅子から立ち上がってルシスの方を振り返った。
ルシスは威圧感のある真顔で僕たちを見下ろし、小さなため息を吐いた。
「校門にいなかったから探したんです。迎えが遅くなってしまい申し訳ありません」
ルシスは、まるで申し訳なくなさそうに軽く頭を下げた。
(ど、どうしよう……絶対話聞かれたよね? めちゃくちゃ怒ってるし……)
「さ、帰りますよ」
ルシスはそう言い、大きく靴を鳴らして僕の方に近寄ってくる。そして、僕の腕を強引に引っ張った。
「いたっ」
「マリス!」
セオリアスが立ち上がって、ルシスの腕を掴む。
ルシスがセオリアスを睨み、セオリアスもルシスを睨み返した。
「おい、マリスが痛がってるだろ。それに俺たちまだ話途中なんですけど」
「これ以上お前がマリス様と会話を交わすことは許可しない。さあマリス様、帰りますよ」
ルシスはセオリアスの腕を振り解いて、僕の腕を強引に引っ張った。
「ルシスさんわかりました、もう帰りますから離してください。
セオリアス本当にごめんね。また近々話そう」
追いかけてきそうな雰囲気のセオリアスに、首を横に振って来なくていいと合図する。
ルシスは、僕がもう大人しく帰ると決めた事をわかってくれたのか、手を離してくれた。
僕たちは無言のまま王宮まで帰った。相変わらずルシスは怒っていて、ぴりぴりした雰囲気を醸し出していた。
部屋に着くと、ドアを閉める前にルシスが僕の方を向いた。
「今日の事を報告してきます」
「え!? ちょっと待ってください。ただセオリアスとお話してただけなんですよ?」
「いいえ、話していた内容に問題がありましたので」
ルシスは表情ひとつ変えずに言った。
「勝手に人の話の内容を聞いてたんですか!?」
「もちろんです。私はマリス様のお世話役でもあり監視役でもあるので」
「は? 監視……?」
けろりとした態度のルシスに、恐怖心が芽生えてくる。
「そうです。マリス様は精神を病んでらっしゃるとのことで、また愚かな事を考えないよう見張っているのですよ」
「なに、それ……」
愚かな事っていうのは、もしかして誘拐犯たち減刑のことを言っているのだろうか。僕はその場に崩れそうになった。
大人しくなった僕を見て、ルシスは一礼した後、ドアを閉めて部屋から出ていった。
「……」
どうにか足をベッドまで運び、ベッドの上に腰を下ろす。
(やっぱりエチカの言う通りだった。国はどうしても死刑を執行したいんだ)
だから、僕が怪しい言動をしないようルシスを通して監視していた。
しかし、そこまでして刑を軽くしたくない理由はなんなのだろう。奴隷の存在を表に出したくないからだろうか。
だが、それならわざわざ国民の前で公開処刑する必要はないだろう。
(国民の前で処刑する事に意味があるんだ。それってつまり、公開処刑される程の大罪人って印象を国民に与える事で、下層階級の人たちを奴隷にする事を受け入れさせやすくするため、とか……?)
さすがに考えすぎだろうか。僕は、前髪をくしゃりと握った。
1時間程して、ルシスがまた僕の部屋を訪れた。報告が終わったらしい。
ルシスはドアの前に立ったまま、相変わらずの真顔で僕を見つめた。
「先ほど話し合いが終了しました。あなたへの見張りの強化とセオリアス・カンテミールの自宅謹慎が決定しました」
「は!? 自宅謹慎!?」
僕は思わず立ち上がった。
「さすがにやりすぎじゃないですか?」
「いいえ。セオリアス・カンテミールはもともと疑われていた身なので妥当な処分です」
意味がわからないと頭に疑問符を浮かべる僕に、ルシスは呆れた顔をした。
「あなたたちは死刑を妨害しようとする旨の会話をしていらっしゃいましたね。死刑の妨害行為は、しっかり手順を踏まなければ国への反逆と見なされる大変危険な行為なんですよ? わかっていますか? あなただけではなく、あなたの家族にも迷惑がかかるんです」
「最初は手順を踏もうとしましたよ。そしたら寮生活から軟禁に変わったんです!」
僕はルシスに負けじと言い返した。
「軟禁ではありません。療養です。もうすぐフィオーネ殿下の妃になられるのですから、言葉に気をつけてください」
「僕はフィオーネ殿下の妃になるつもりはありませんので」
「あぁまたそんな事を言って……とりあえず今日はもうおやすみなさいませ」
「どうも。ルシスさんもお疲れ様でした」
僕の怒りは失速して、今度はどっと疲れが押し寄せる。
最悪の結果が現実味を帯びてきて、僕は身震いした。
僕は椅子から立ち上がってルシスの方を振り返った。
ルシスは威圧感のある真顔で僕たちを見下ろし、小さなため息を吐いた。
「校門にいなかったから探したんです。迎えが遅くなってしまい申し訳ありません」
ルシスは、まるで申し訳なくなさそうに軽く頭を下げた。
(ど、どうしよう……絶対話聞かれたよね? めちゃくちゃ怒ってるし……)
「さ、帰りますよ」
ルシスはそう言い、大きく靴を鳴らして僕の方に近寄ってくる。そして、僕の腕を強引に引っ張った。
「いたっ」
「マリス!」
セオリアスが立ち上がって、ルシスの腕を掴む。
ルシスがセオリアスを睨み、セオリアスもルシスを睨み返した。
「おい、マリスが痛がってるだろ。それに俺たちまだ話途中なんですけど」
「これ以上お前がマリス様と会話を交わすことは許可しない。さあマリス様、帰りますよ」
ルシスはセオリアスの腕を振り解いて、僕の腕を強引に引っ張った。
「ルシスさんわかりました、もう帰りますから離してください。
セオリアス本当にごめんね。また近々話そう」
追いかけてきそうな雰囲気のセオリアスに、首を横に振って来なくていいと合図する。
ルシスは、僕がもう大人しく帰ると決めた事をわかってくれたのか、手を離してくれた。
僕たちは無言のまま王宮まで帰った。相変わらずルシスは怒っていて、ぴりぴりした雰囲気を醸し出していた。
部屋に着くと、ドアを閉める前にルシスが僕の方を向いた。
「今日の事を報告してきます」
「え!? ちょっと待ってください。ただセオリアスとお話してただけなんですよ?」
「いいえ、話していた内容に問題がありましたので」
ルシスは表情ひとつ変えずに言った。
「勝手に人の話の内容を聞いてたんですか!?」
「もちろんです。私はマリス様のお世話役でもあり監視役でもあるので」
「は? 監視……?」
けろりとした態度のルシスに、恐怖心が芽生えてくる。
「そうです。マリス様は精神を病んでらっしゃるとのことで、また愚かな事を考えないよう見張っているのですよ」
「なに、それ……」
愚かな事っていうのは、もしかして誘拐犯たち減刑のことを言っているのだろうか。僕はその場に崩れそうになった。
大人しくなった僕を見て、ルシスは一礼した後、ドアを閉めて部屋から出ていった。
「……」
どうにか足をベッドまで運び、ベッドの上に腰を下ろす。
(やっぱりエチカの言う通りだった。国はどうしても死刑を執行したいんだ)
だから、僕が怪しい言動をしないようルシスを通して監視していた。
しかし、そこまでして刑を軽くしたくない理由はなんなのだろう。奴隷の存在を表に出したくないからだろうか。
だが、それならわざわざ国民の前で公開処刑する必要はないだろう。
(国民の前で処刑する事に意味があるんだ。それってつまり、公開処刑される程の大罪人って印象を国民に与える事で、下層階級の人たちを奴隷にする事を受け入れさせやすくするため、とか……?)
さすがに考えすぎだろうか。僕は、前髪をくしゃりと握った。
1時間程して、ルシスがまた僕の部屋を訪れた。報告が終わったらしい。
ルシスはドアの前に立ったまま、相変わらずの真顔で僕を見つめた。
「先ほど話し合いが終了しました。あなたへの見張りの強化とセオリアス・カンテミールの自宅謹慎が決定しました」
「は!? 自宅謹慎!?」
僕は思わず立ち上がった。
「さすがにやりすぎじゃないですか?」
「いいえ。セオリアス・カンテミールはもともと疑われていた身なので妥当な処分です」
意味がわからないと頭に疑問符を浮かべる僕に、ルシスは呆れた顔をした。
「あなたたちは死刑を妨害しようとする旨の会話をしていらっしゃいましたね。死刑の妨害行為は、しっかり手順を踏まなければ国への反逆と見なされる大変危険な行為なんですよ? わかっていますか? あなただけではなく、あなたの家族にも迷惑がかかるんです」
「最初は手順を踏もうとしましたよ。そしたら寮生活から軟禁に変わったんです!」
僕はルシスに負けじと言い返した。
「軟禁ではありません。療養です。もうすぐフィオーネ殿下の妃になられるのですから、言葉に気をつけてください」
「僕はフィオーネ殿下の妃になるつもりはありませんので」
「あぁまたそんな事を言って……とりあえず今日はもうおやすみなさいませ」
「どうも。ルシスさんもお疲れ様でした」
僕の怒りは失速して、今度はどっと疲れが押し寄せる。
最悪の結果が現実味を帯びてきて、僕は身震いした。
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