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2年生

パジャマパーティー

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 夜、寝る支度を終えた僕はエチカの部屋を訪れた。兄から解放された後、2人でパジャマパーティーをしようという話になったのだ。

 エチカは風呂から上がったばかりだったようで、いつもふわふわしている髪が落ち着いていて新鮮だ。

 エチカのパジャマは薄いピンク色で、少しぶかぶかしている姿がとてと可愛い。

「ラルフにフルーツを頼んだら、後で持ってきてくれるって言っていたよ」
「やったー! 嬉しい!」

 本当はお菓子を食べたかったが、駄目だと言われてしまった。しかし、エチカが嬉しそうに笑うのでフルーツでも結果オーライだ。

 数分して、ラルフがフルーツと紅茶を部屋まで届けに来てくれた。
 備え付けのソファに肩を並べて座り、夜のお茶会を開始する。

「そういえば、最近セオリアスとは順調?」

 エチカがフルーツを摘みながら言う。「セオリアス」という名前にドキリと心臓が跳ねる。

「じ、順調も何も……それどころじゃなかったんだ。奴隷のこととかいろいろあって」
「あー、なるほどね。学園祭のときは感情的になってごめん。でもこれからは安心して。このぼくが奴隷になるなんてあり得ないからさ!」

 エチカは得意気に言い、紅茶を口に入れる。

「ふふ、心強いな。それで、エチカは? フィオーネとは順調なの?」

 僕の問いかけに、エチカはフルーツを頬張る手を止めた。

「あー……んー、ぼくも別に順調ではないかな。フィオーネはマリスに固執しているみたいだし」
「ぼ、僕に固執……」
「マリスはさ、本当にフィオーネと結婚したくないの?」

 エチカの質問に、カップを持つ僕の手に力が入る。

「僕は……結婚したくない。でも、時折り優しくなるフィオーネと話していると、胸が痛くなるときがあるんだ。
 どんなに酷いことをされても、婚約破棄を願っていることがフィオーネに対する裏切りなんじゃないかって……」
「そっか……子どもの頃からずっと婚約者としてフィオーネと一緒にいたんだもんね。でも、大切なのは今のマリスの気持ちだよ。後悔だけはしてほしくないし」

 エチカは僕を見つめて微笑んだ。その顔はとても穏やかで、エチカのブラウンの瞳に引き込まれそうになる。

「エチカは、どうしてそこまで僕を気にかけてくれるの?」

 エチカは、最初に会ったときからずっと、僕の破滅エンド回避に協力すると言ってくれた。
 でも僕は、そこまで協力してもらえるほどエチカに何も返せていない。
 むしろ、エチカの好きな人と婚約状態ですらあるのに。

「友達だもん。当たり前だよ」
「ともだち……」

 エチカの言葉に、僕の鼻がツンとして目尻がじんわりと湿ってきた。

「え、嘘、泣いてんの?」
「いや、なんか嬉しくて……僕前世も友達いなくてそんな事言われたことなかったから……」
「あはは、もー、よしよしマリス泣くな~」

 エチカは僕の頭をポンと叩くと、口にフルーツを入れてきた。
 桃に似た甘い味が口に広がる。シャクシャクした食感のフルーツを咀嚼しながら、目尻に溜まった涙を拭った。

 それからエチカとの雑談が続いて、気がついたら空が明るくなり始めていた。

 僕たちは慌ててベッドに入り、1分もしないうちに深い眠りへと落ちていった。

 昼頃、僕たちはラルフによって起こされた。
 ラルフが部屋に軽食を持ってきてくれたので、2人で頬張る。


 部屋に戻り、カウントダウンパーティーの準備をする。
 藍色の貴族服を身に纏い、アクセサリーを着けていく。

 今年はヘアオイルだけではなく、髪飾りも着けてもらった。

(今日は久しぶりにセオに会えるんだ)

 考えていたら胸がドキドキしてきて、気がつけば銀色の宝石がついているものを選んでいた。

 支度を終えてホールに行くと、既にエチカと兄が居た。
 
 エチカは真っ白なタキシードに着替えていた。教会特製の金の刺繍がなされており、荘厳な雰囲気を醸している。

 エチカから放たれる不思議なオーラと相まって、さすがは神子だと圧倒された。
 危うく僕も兄と同じくエチカ教に入信するところだった。

「マリス、すっごく綺麗だね」
「ありがとう。エチカもとっても綺麗だよ。神子のオーラが溢れ出てる」
「えー、何それ!」

 エチカがクスッと笑う。

 兄も、エチカが一緒にいることで気合が入っているのかいつもより髪がふわふわしていた。エチカリスペクトだろうか。

 父がホールに現れたので、僕たちはアスムベルク邸を後にし、カンテミール邸へと馬を走らせた。
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