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1年生

王宮パーティー3

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「はぁ!? ちょっ、おい! ゲストがパーティーで急用ってなんだよ!?」

 僕は急いでバルコニーから出た。階段を駆け下りてホールへと戻る。音楽はすでに後半に入っており、フィオーネは険しい表情で護衛の騎士と話をしている。

(エチカはどこ!?)

 ホールの中にエチカの姿は無い。僕はホールを出て中庭に通じる廊下を駆けた。中庭に通じる廊下は、庭側の壁が無くそのまま庭に出られるようになっている。

「あ!!!」

 噴水の裏の目立たないところで、エチカが男たちに服を脱がされそうになっていた。エチカは地面に寝転んで碌に抵抗をしていない。かすかにアルコールの匂いがして思わず顔をしかめた。

(まさか、酒を飲んだのか!?)

「やめれくらはい……」
「うける、舌まわってないじゃん」

 弱弱しいエチカの声を聞き、男たちは下品に笑った。エチカはうざったそうに手を振り払ったが、男たちにダメージは無い。

 僕がエチカの方に駆け寄ろうとしたその時、僕が来たのとは別の場所からフィオーネと数人の護衛がずかずかと一直線にエチカの方へと向かっていった。
 男たちはあっさり護衛に連れていかれ、エチカも護衛の騎士に連れられ城の中に保護された。

「あ……」

 フィオーネと目が合った。

「……マリス、どうして君がここに?」





「フィオーネ様! 痛いです!!」

 強引に手を引かれ、応接室まで連れていかれる。フィオーネは勢いよくドアを開けてずかずか部屋に入ると、僕をソファの上へ放り投げた。

 解放された手首がじんわりと痛む。フィオーネは開けっ放しだったドアを閉めると、僕の座っているソファの向かい側にあるソファに腰を下ろした。

「君が指示したのか!?」

 フィオーネの大きな声に、反射で肩が震える。

「……い、いいえ。僕ではありません!」

 僕はぎゅっと目を瞑って声を絞り出した。

(美人の怒り顔、怖っ)

「その言葉が本当なら、君はあそこで何をやっていたんだ?」

 フィオーネは落ち着きを取り戻したようだが、口調は冷たかった。

「それは……外の空気を吸おうとしたら、たまたまエチカを見かけて、助けようと思ったらフィオーネ様たちが来たのです……」

 僕の語尾がだんだんと弱くなる。苦しい言い訳に聞こえるかもしれない。しかし、こう言うしかないのだ。

「はあ……なるほど。では、君は無実なんだね」
「はい……紛らわしくしていしまい申し訳ありません……」

 フィオーネの心底呆れたようなため息に、心臓の部分がひやりとする。フィオーネが立ち上がり、僕の隣へ移った。突然の行動に僕の体が強張る。フィオーネは僕の手首をそっと持ち上げた。

「すまない、感情的になった。赤くなってしまったね」

 フィオーネは僕の服の袖をめくり、赤くなった手首を優しくさすった。その後、僕の髪を上から下へと優しく撫でた。先ほどのハルデマン卿の時とは違い、不快感は無い。

 フィオーネの甘い手つきに、不本意にも僕の胸がドキドキと高鳴る。僕の気持ちとマリスの気持ちがいまいち噛み合っていなくてもどかしい。僕は別にフィオーネのことが好きではない。この高鳴りはマリスが感じているものなのだ。

(その優しい感じ、逆に怖い……フィオーネってこんなDV彼氏予備軍みたいなヤツだったの?)

 マリス、こんなヤツやめておけよ……と僕は自分に言い聞かせた。




 フィオーネに王宮の前まで送ってもらい、その後は一人で学園まで戻った。酔っぱらってそのまま寝てしまったエチカは、一晩城に泊まるらしい。
 帰り道、僕は今日の出来事を思い返していた。

(エチカが襲われそうになるまではストーリー通り……だけど、少し展開が違うような……)

 ゲームではエチカは酒を飲んでいない。それに、エチカを保護したのはフィオーネで、マリスを連れて怒るなんて描写は無かったはずだ。

(これも『強制力』なのか? とりあえず、明日エチカに聞いてみよう)

 城から学園までは徒歩10分程度。5月の夜は少し肌寒かった。
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