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恨みと逆恨み
しおりを挟むその日、いきなりアポなしでやって来た幼馴染みの響也はどうやら、説教をしに来たらしい。
「煌、お前もいい加減にしとけよ」
「なにが?」
達也の好きなブランドの珈琲を淹れながら、笑う。ここまで来てなにをやめろと云うのだろう。
「…達也のことに決まってるだろ」
「俺が悪いことしてるってこと?」
「そうは言ってない」
「けれど言いたいのはそういうことだろ?」
煌と達也の関係は所詮、不倫に値する。男同士でそれを言っていいのかは知らないけれど。
「もうやめろって言いたいんだろ」
「お前のためだ」
「……俺のため?」
この男は毎回そう言う。それが自分を想っての言葉だと知っているけれど、考えるだけで辛い。
「だから!!っ…一度は離れた!それでもこうなったんだ、もういいだろ!お前には関係ないっ!!!」
「関係ない?俺を、達也の代わりにしていたのに?」
「響也!」
それはこの数年、口にしなかったことだ。あのとき、達也と離れて暮らした時、響也を達也の代わりにしていたこと。最低な事をした。
「それはっ…」
「達也は駄目だ。俺は達也の心配してるんじゃない。愛里ちゃんの心配でもない。お前が、愛里ちゃんから恨まれるされることを心配してるんだ」
「…恨まれる?」
笑ってしまう。そんなの、上等だ。
「逆恨み、の間違いだろ!」
「煌、」
「俺の方が恨みたい気分だっての!!」
男だから。結婚出来ないのなんて当たり前だし、それは理解している。けれどあの女は全てを知っていて、脅して、どうしようもなくして。挙げ句のはてには達也に漬け込んで、結婚した。
今でも最後に見た、あの女の勝ち誇ったような笑みが忘れられない。
「…十も年下だよ。それでも、高校生でも、達也は立派に大人だったし、あの女もちゃんと、強かで狡猾な女だった」
「……辛いだろ?もう」
「達也の側にいられないことの方が辛いよ」
「…何回も言ってるだろ、達也の代わりでいいから俺を側に置けばいいって」
「それはムリ」
「何でだよ」
「響也は響也だから。達也と響也は違う」
「…俺のこと眼中にないのな」
ちょうどその辺りで、達也が帰ってきた。
達也の顔を見ながら、ほんの少しの罪悪感に駆られてしまう。後ろめたさ。
離れている間、少し…ほんの少しだけ、響也と身体の関係を持ってしまったことが、それを達也に未だ言えていないことが、本当に苦しい。
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