年の差１０、ありますが何か？

脅し

　達也は邪魔された腹いせか、学校でも触れてくることが多くなった。

「た、達也、だめだって…！」

　スルリと延びてくる手に反発しながらも、身体はいとも簡単に受け入れてしまう。

「…やめないよ？」

　もう、本当。教師なのに、生徒とこんなことを…しかも学校でするなんて。前の自分なら考えられなかったのに、やはり達也には甘いなと思う。達也の望みなら何でも叶えてやりたい。聞き入れてやりたい。そんな思いが、まさかこんなことになるなんて。






　本当に、いつもの放課後だった。
「…藤堂先生」
　明日配布する予定のプリントを印刷するため、職員室に行こうと廊下を歩いていた時だった。
「あ…」
　声をかけてきたのは、矢野愛里…達也の元カノだ。
　俺の勝手な気持ちの左右で達也を振り回し、矢野と別れたと聞いた。その罪悪感から、少しだけ目を合わせられずにいた。
　というか、矢野とは直接な関係はないので、呼び止められる理由もないはずなのだが。
「な、なんだ？どうした？」
　冷静に、と思うけれど身体はなかなか言うことを聞いてくれないものだ。
「…お話したいことがあって」
　そう言ってニコリと笑った矢野に、ほんの少し…嫌な予感がしたのは、気のせいではなかった。


「ーーこれ、先生と達也センパイですよね？」
「…え？」

　確かにそれは、煌と達也の写真だった。

「達也センパイとキスしてるの、先生ですよね？」

　嫌な汗が背中を伝う。

「な、んで…」

　そんな写真が、あるんだ。

「…ねぇ、先生。私ね、センパイに振られたんですよ。やっぱり好きな人がいるって。…私ね、センパイの正直なところって大好きなの」
　矢野は笑いながら続ける。
「ずっと大好きだったから、諦めきれなかった。…代わりでもいいから、側においてって頼んだ。けれどその人以外と付き合う気はないって言うんです。だから、嫌な女になりたくないから、身を引いたんです」
　矢野の言いたいことがわかった。顔から血の気が引いたのが分かる。怖い。聞きたくない。

「…ねぇ、どうして先生、男なのにセンパイと付き合ってるの？」

　ーーどうして？

　ただ、好きだから。それ以上でも以下でもなく、本当に好きだから。卒業するまで、なんて、待てなかった。

「…先生のせいで私、振られたってことですよね？」
「や、矢野…！」
「ねぇ、先生。先生もセンパイに迷惑なんてかけたくないでしょう？」
　なにを要求してくるか、聞かなくても分かる。
「写真。ばら撒かれたくなかったら、センパイと別れてください」

　ほらね。
　漫画とかでよくあるパターン。

「言っておきますけど、私、本気です。センパイが私のものにならないなら、絶望のドン底まで困ればいいって思ってます。先生、センパイの将来を潰したくはないでしょう？」

　よくある、脅し。

　血の気の引いた顔が元の体温に戻るまで、そう時間はかからなかった。