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約束

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「嘘だ…!」
 多分、俺は真っ青になって震えていただろう。最近達也がかまってくれなかった理由がコレだったとは。


 テスト期間に入り、まぁ構ってもらえないのは仕方ないと思っていたし、自制していたつもりだ。達也に面倒もかけたくなかったので響也と飲みに行ったりもしなかったし、仕事が終わったらまっすぐ家に帰っていた。メールだけは定期的にしていた状態だった。
 どうして達也が急に勉強する気になったのかは知らなかった…というか憶えていなかったのだが、十二教科分の満点解答の答案と期末考査成績表をまとめて渡され、ムービーを見せられた。

「お、俺、こんなん言ったっけ…!?」
「言ったよ。てか、ちゃんと証拠あるんだから、今更ムリとかナシだよ?」
「お前そんなことのために頑張って勉強してたのかよ!?」
「そんなことってなんだよ」
 ムッとしたように達也が言い返す。
「てか、ご褒美くれるんでしょ。…言っとくけど、ずっと我慢してたんだから」
「た、達也、」
「若さナメんなよ?」
「でもさ、やっぱさ」
「今更ムリとかナシって言っただろ」
「んっ…」
 キスされ、そのまま床に押し倒される。
「たつ、や…」
「…俺のこと好きって言って」
「……好き。…なんで、そんな焦るの」
 好きな人に触れたい。それは分かるけれど。けれど、どこからどうみても、達也は何かに焦っているようにしか見えないのだ。
「…焦る?」
「だってそうだろ。…俺にはそうにしか見えないよ」
「……分かんないじゃん」
「え?」
「いつまた、煌ちゃんが兄さんを好きになるか分からない。いつ俺のこと好きじゃなくなるか分からない。人の気持ちなんて分からないものなんだから、それならさっさと煌ちゃんの全部を俺のモノにしたいんだ」
 人の気持ちなんて分からない。
 確かにその通りだと思う。
 俺だって達也のことを好きになる日が来るなんて思わなかった。ずっと響也を好きでいるのだと思っていた。けれど、響也以上に大切だと思う人は、本当はすぐ側にいたのだ。自分にとって誰よりも大切な人は、達也だったのだ。
 感情とか記憶とかって、一気に塗り替えられるんじゃない。ゆっくりと、気付かないうちに、徐々に上書きされていくのだ。本当に、知らないうちに。
 けれど、いつの間にか達也を好きになっていた自分がいうことではないかもしれないけれど。
 達也以外をこれから好きになるなんてありえない。
「…俺はさ」
 難しい言葉とか、そういうのは言えない。ただ思っていることは、一つ。
「すごく幸せだよ。初めて自分の恋愛が実った。好きだといってくれて、自分も心の底から好きって思える。だから、…俺はお前のことしか見えてないよ」
「っ……でも…いつか、他の奴のこと考える日がくるかもしれないじゃん…」
「…俺はもう二十八で、四捨五入したら三十代だぞ?…俺はしぶといし、図太いし。言っとくけど、達也のこと好きって認めた時にいた彼女のことなんて気にしなかったからな」
「気にしなかったって…」
「最低だけど、そんな子どうでもいいって思ってた。諦めるもんかって、絶対にもう一度好きになってもらうって決めてたから、…お前が別れたいって言うことがあっても、簡単には手放したりしないよ」
「…兄さんが煌ちゃんを見る目が気に入らない。だから兄さんとは会わないでほしいし、飲みにも行かないで。それで、本当にムリな時は仕方ないけど、出来れば他の人と遊びに行ったりとか飲みに行ったりとかしないで。他の人の家に行かれるのも嫌だし、毎日一緒に学校行って、毎日一緒に帰りたい」
「…響也とは出来るだけ飲みに行かないようにする。けど、もう響也に恋愛感情がなくても幼馴染ってことは変わらないんだ。会わないでっていうのはムリ。だからさ、響也が大切な相談とかあったら絶対に二人で会うと思う。それは許してほしい」
「じゃあ、絶対に行き先とか全部、俺に言ってから行って」
「うん。それに、響也以外に飲みに行くような付き合いの人なんていないし、他の人の家に上がったりもしない」
「本当に?」
「絶対に。で、帰りに毎日一緒にっていうのは無理かもしれないけど、朝は出来るだけ一緒に行けるようにする」
「俺のわがままなのに聞いてくれるの」
「当たり前だろ。恋人の不安な思いは消し去ってやりたいって思うよ、俺だって」
「…好きだよ、煌ちゃん。ずっと好き」
「俺も好き、だけど」
「だけど?」
「…このまま、ヤるのか…?」
「…ダメ?」
「……もし響也帰ってきた時、俺が気まずいだろ」
「まだ帰ってこないよ」
「分からないだろ」
「…あのさ」
「ん?」
「今週の土日、暇だよね?」
「え、あ、うん…?」
「じゃあさ、旅行行こう。俺が全部お金出すから」
「…え、旅行?」
「その時まで我慢する。それだったらいいよね?」
「は、はい…」
 あまりの威圧感に押し倒されるのだった。
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