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結婚報告

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 その日は、雨でジメジメしてて気持ちの悪い日だった。朝からテンションだだ下がりだったり、テストの点数があまり良くなかったり、体育で捻挫したりと散々な一日だった。
「……」
 煌ともあれから話す機会も理由もなくて、目を合わす日すら少ないくらいだった。
(それほど兄さんがいーのかよ…)
 煌が兄さんを好きなのは知ってた。だからこそ、いつか俺の方を向いてくれるという淡い期待があった。けど、煌が見ていたのは俺じゃなくて、俺を通して兄さんを見ていたんだ。
(ほんと、キツイわ…)
「…おい、達也、大丈夫かよ」
「あー?あー…」
 海斗が心配そうに顔を覗き込んでくるが、返す言葉なんて何も思いつかなかった。
「お前、ハッキリしろよ」
「なにがー」
「別れるのか、話し合うのか」
「!」
「このままグダグダしても、お前だってそうだけど、相手も傷つくんじゃねーの」
「…分かってるし、そんなの」
「それならいいけどさ。あんまり無理すんなよ、クマ出来てる」
 トントンと目を押さえて笑う海斗はやっぱり、一緒にいて心地いい。
「…なぁ、好きってなんだと思う?」
「はぁ?なんだよ、いきなり」
「なんかもう、分かんねーんだよ。あの人への好きと、お前らとか?友達への好きとどう違うのか」
「…そんなの、人それぞれだろ」
「じゃあ…お前にとっての好きってなに?」
「俺?…俺は…やっぱり、好きとかそういう前に、笑っててほしいって思うんだよ」
「?…笑うって…」
「その人が悲しんでる姿を見たくない。それに、出来れば隣にいて欲しくて、自分のことをちゃんと見てほしくて、いつも笑っててくれたらなって思ったら、もう好きなんじゃねーの?」
「…お前、好きな人いたのかよ」
「まーね」
「だれ」
「まだ教えてあげないよ」
「えー、なんでだよ。協力出来るかもじゃん」
「告白して玉砕出来たら教えてやんよ」
「玉砕って…決まってるみたいな言い方だな」
「そいつには今、すっごい好きな人いるからさ。その人のことしか見えてないってくらい、ね」
「誰だ?それ」
「詮索とかすんなよ。…俺はその人が幸せになればいいなって思ってるよ。例え、その相手が……いや、やめとく」
「んだよ、最後まで言わないと気持ち悪いだろ」
「はいはい、じゃあ忘れて」
「ったく……あ、そーだ。今日さ、カラオケ行かね?智樹も誘って」
「智樹?…いいけど」
「おっしゃ、じゃー放課後な!」

 ジメジメ、ジメジメ。帰り道は道で濡れてて、空気は淀んでいる感じ。
「…兄さん、家にいんのかな…」
 最近、ヤケに家を出た兄が頻繁に帰ってくるようになった。それもあってか、家には帰りにくかったのだ。
(なんか、兄さんの顔見てたら煌ちゃん浮かぶし、てか煌ちゃん来るし…。…しんどいなぁ…)
「…ただいまー」
 玄関の鍵を開け、家の中へ入る。
「あ」
 やっぱり、兄さんの靴と煌の靴。ため息をつきそうになって、思わず息を飲み込んでしまう。
 知らない女の、小さめの靴があった。可愛らしいピンクのヒールを見る限り、母のものではないだろう。
「…え、え?」
「あら、達也!遅かったわね、さっさと着替えてリビング来なさい」
「は?ちょ、母さん?」
「早くしなさいってば」
「んだよ、ったく…」
 自分の部屋へ行く途中、リビングの半開きのドアから煌の後ろ姿が見える。
(今日、誰か来るって言ってたっけ…?)

「…ただいま。兄さん?」
 慎重にドアを開けると、母さんがソワソワしていた。父さんはまだ帰ってきてないようだ。座っているのは兄さんと、煌と、女。
「え、誰だよ、この人」
「おかえり、達也」
「あ…弟さん?初めまして、達也くん」
「ど、どーも…」
 振り向いたその女は、なんというか…小さくて、可愛らしいホワホワした感じの女だった。
「ちょ、兄さん?」
 説明を求めようと、兄に視線を送る。すると、笑って紹介された。
「こちら、間宮 陽菜さん。俺、この子と結婚するから」
「ふーん………いや、はぁ!?」
「あはは、驚いたよな。実は今、俺の子供孕ってるからさ」
「……子供?」
「そう。それで、達也と煌に真っ先に紹介したかったのに…達也、遅かったから先に母さんたちに」
「あの、よろしくねっ、達也くんっ!」
「あ、はい」
「陽菜、身体弱いからあんまり無理させたくないんだ。子供が生まれてから、小さな披露宴くらいやろうかなって」
「…っ…」
 違和感をようやく思い出し、とっさに煌の方を振り返る。
(え…?)
 苦しいのを、我慢している顔。何度も何度も、見てきた顔。
「…おめでとう、響也。可愛い人じゃん、大切にしろよ?」
「おうっ、ありがとな!」
 笑ってそう言う顔に、胸がすごく締め付けられた。
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