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鈍感でバカで天然タラシの王子様

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 屋上に続く廊下は、人気がない。授業中だというのもあるだろうが、うちの学校は屋上に鍵がかかっているからだ。
「ま、そんなの関係ないけどねー」
 ポケットの財布の中の小銭入れから、鍵を取り出す。二年の時に知り合いからもらったスペアキーだ。
「…見つかったらヤバイけどなぁ、これ」
 パッと周りを見てから、屋上の鍵を開けようとした時だ。
「あれ?達也じゃん」
「…えっ」
 誰もいないと思っていた廊下に立っていたのは、隣のクラスの友達だ。
「智樹!なんでここに」
「それはこっちのセリフ。ていうか、屋上に入んのやめとけよ」
「え?なんで」
 俺がスペアキーを持っていることを知ってるのは三人、俺と海斗と智樹だけだ。煌に教えないのは、教師という立場からして鍵を没収せざるを得ないことを分かっているからだが。
「今、化学室一年が使ってるからバレるぞ」
「それはヤバイな。サンキュ…てか、サボり?」
「お前もだろ。あ、苺みるく」
「飲む?」
「おう」
 ポイッと紙パックを智樹に投げる。
「俺は教室に行ったら鍵が閉まってたんだよ。お前はどうせ、眠たかったんだろ。保健室行けよ」
「行きすぎて保健室の先生と気まずくなったんだよ」
「あっそ。…そういえばさぁ、お前今、付き合ってる人いるんだって?誰」
「お前には教えない」
「ケチ。てか、本当にいんのかよ」
「いるよ。でも教えない」
「いないんだろー。あ、それとも顔面お前と釣り合ってないの?」
「…いや、俺じゃ敵わないくらいかっ……わいいと思うよ」
「ふーん。じゃ、見せろ」
「その人のことは俺だけが全部知ってたらいーの」
「……惚気んな、気色わりー」
「いいだろ別に。てか、話振ってきたのお前だし」
「…なぁ、お前ってさ」
「ん?」
「前に好きな人いるって言ってたじゃん。…その人?」
「…まぁ、そうだな。一応付き合ってるけど」
「一応?」
「なんていうかさ。…俺が告白されてんの見てもヤキモチとか妬かないし」
「妬いてほしーのかよ」
「当たり前。それに、…俺が告りまくって、なんとか付き合ってもらえたって感じだし」
「…それ、相手にされてないんじゃねーの?」
「うっ…」
「海斗に聞いたけど、十歳年上って…お前、熟女好みだっけ?」
「シバくぞ」
「あ、まだ二十八か、相手。…てか、歳離れてたらすれ違い多いだろ」
「まぁ…そうかもね」
「…やめとけよ、傷つく前に」
「大丈夫だって。てか、お前が人の心配とかw」
「…俺だって人並みには心配する」
「俺限定でな」
「っ……アホか!」
 飲み干した苺みるくのパックを思いっきり顔に投げつけられる。
「いって!おい、智樹!」
「…バーカ、アーホ、鈍感!」
「はぁ?」
「ほんっと、自分のことになると鈍すぎるんだよ、ボケ!」
「ボケぇ!?」
「んだよ、違うのかよ」
「口悪いのは良くない」
「今更いいも悪いもねーだろ」
「はいはい……あ、アメいる?」
 ポケットの中に、女子からもらったアメが二つ入っていた。
「また苺みるくかよ」
「酢橘もある」
「…苺みるくでいい」
「ほいほい。……んっ、すっぱ!」
「酢橘ってどんな味だったっけ」
「食べる?」
 冗談交じりに、れっとアメを舌に乗せて出す。
「…ふざけてんの?」
「あ、分かった?」
「ったく、くだらねーことしてんなよ。…女子にもそういうことしてるわけ」
「まさか。もうしてない」
「してたのかよ」
「本気にしちゃった子がいたからさ」
「バカじゃねーの、そんなんだから天然王子だかタラシだかって言われんだよ」
「あはは。…ん、ちょっと眠いわ。お前、ここに居る?」
「まぁ…一応」
「なら起こして、三十分、くらい……スー……」
「早いな、おい」
 やっぱり、どこから見ても綺麗だ。まつ毛は長いし、髪はサラサラでふわふわだし、首とか手足長くて細いし、…女より綺麗だ。
「…なぁ、達也」
 呼びかけてみるが、スースーと寝息を立てるだけだ。
「…鈍感にもほどがあるだろ。…バーカ」
 あまりに綺麗な寝顔に、思わず唇を触れた時だった。
「…桐生?」
「えっ…!?」
 後ろから聞こえた突然の声に、思わずバッと達也から離れる。
「…いま、お前…」
「藤堂先生…!?っ…なんで、こんなところに…!」
「…お前らこそ…ていうか、榎本は寝てるのか」
「…見てたんですか」
「見えたんだ」
「悪趣味ですね、覗きなんて」
「…たまたまだって言ってるだろ」
「…チャイム鳴ったら、達也のこと起こしてやってください。失礼します」
「…サボりのやつ、反省文書いて持ってこいよ」
「…分かりました」
 落ちていたアメの包み紙を持ち、階段を下りていく。
「…ったく、兄弟揃って隙ありすぎなんだよ。よりにもよって、こことか」
 くしゃくしゃと寝ている達也の頭を撫で、先ほど桐生が座っていた位置に座る。
「…バーカ」
 また、くしゃくしゃと頭を撫でてやると、少しだけ笑っていた。
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