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43,それでも信じてはくれない。

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 廊下を歩けば臣下が軽蔑した目で見てくる。この城中がウィリスとレイを好奇の目で見ていた。

(仕方ない、か…)

 周りからすれば、卑しい身分だったくせにリヴィウスを裏切って、アグシェルトを手玉にとった、まるで悪女のようだと思われているのだ。
 ただ、ウィリスに本当に申し訳ない。

「ごめんね…」

 不甲斐ない母親で、本当にごめんね。守ってあげたいのに、やはり自分の保身に回っている。
 だって傷付けたくない。大切な人を裏切りたくない。けれどもう自分だけが助かるのは、嫌なんだ。
 どうすればいいのか分からない。
 知らないよ、俺は。人を守る方法なんて知らないよ。だってずっと一人だったんだ。

「…かあさま」
「っ!アルバート…」

 突然後ろに立たれて驚いてしまう。どうしてここに、と尋ねる。

「かあさまがここにいるって聞いたから」
「どうかしたの?」
「…とうさまがこわかったの」

 あぁ。こんな小さい子にも、迷惑をかけてしまったのか。

「…ごめんね、アル…」
「僕は、大丈夫だよ」

 駄目なことですか。都合の悪いことを隠そうとするのは、そんなに悪いことですか?
 人間誰しも隠し事なんてあるんじゃないですか?後ろめたいことがあるんじゃないですか?
 そんなに俺は、間違っていますか?

(ねぇ、信じてよ)

 お願いだから、貴方くらいは信じてほしかったよ、陛下。何があったって信じるって、言って欲しかった。



「…レイ様」
「ん?」
「そろそろ折れません?」
「なんで?」

 何を折れるというのだろう。

「分かっているんですか?このままじゃアグシェルト様が、尋問ではなく拷問に切り替えられるんですよ!?」
「…心配してるんだ?」
「っ………」
「それをアグシェルト様に伝えてあげたら喜ぶと思うよ、あの人」
「レイ様!!」
「…アグシェルト様はまだ何も言わない?」
「無言を貫いています」
「そう。じゃ、俺も無言を貫こうかなーーねぇ、陛下?よろしいですか?」

 ガタリと部屋の扉が揺れる。

「…気付いていたのか」
「ローレンになら話すと思いました?まどろっこしいやり方をなさるのですね」

 クスクスと笑うと、二人揃って罰の悪そうな顔でうつ向く。けれどリヴィウスはすぐに向き直った。

「そろそろ観念して話したらどうだ」
「観念も何も、ウィリスは貴方の子ですよ。それに間違いはありませんから、何を話せと言われてもそれが全てです」
「だから、」
「ねぇ、ローレン」
「は、はい?」
「この足を捨てて逃げるのも素敵かもね。こんな窮屈な場所、やっぱり俺には合わないや」

 その瞬間、バンッと大きな音が響く。リヴィウスがテーブルを蹴ったのだ。ローレンは驚いて肩を震わせたけれど、レイは冷静だった。
 ゆっくりと視線を交わらせ、精一杯睨み付ける。

「もしもアグシェルト様が傷一つでも付くようなことがあれば、死んでやる」

 彼に救って貰った命だ。彼のために使えるのならば本望だ。

「…ふざけるな。そんなに、アグシェルトが大切か」
「えぇ、大切です」
「俺よりもか」
「…そういう言い方は、好きじゃない」

 うっかりロイス兄様と答えかけたのは内緒だ。

「ーーおい、ローレン。ちゃんとコイツを見張っておけ」
「はっ」
「…逃げても地の果てまで追いかけるからな」

 笑ってしまう。そんなことを言うくらいなら、信じてくれたらいいじゃないか。

「あんまりしつこいと、他に男作りたくなっちゃいますよー」
「…馬鹿が」

 知ってる。自分が馬鹿だってこと、本当はずっと前から知ってたよ。
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