17 / 64
17,本当に大切なもの。
しおりを挟むリヴィウスに連れられ、新しい部屋に入れられてから数ヶ月後。俺は早産だったけれど、無事に出産を迎えることになった。
医師の指示もあり、少しの間はリハビリとして部屋を自由に動き回っていたし、偶に庭へ出て散歩もした。もちろんリヴィウスの監視付きだが。
「レイ様」
「…あ」
出産のあまりの激痛に、思わず意識を失っていた。どうやらもう終わったようで、あんなにも重かった腹はすっかりと元のペタンコに戻っている。
パッと部屋を見渡すけれど、リヴィウスはいない。さすがに出産時には部屋を変えてもらったけれど、ここから抜け出す気力もなければ理由もない。大人しくベッドの上に寝転がる。
「陛下は」
「先程までいらしていました。レイ様をもう少し休ませておくようにご命令が」
「…子供は」
それは一番恐れていたことであり、もしかしてーーもしも、亡くなった宰相が恐れていたことが現実になってしまったら。
そんなレイの恐怖とは裏腹に、医女は満面の笑みで答えた。
「おめでとうございます!御子様は王子様でございます!陛下もとても喜ばれ、今は御子様のお部屋へいらしています!」
男児。男。血の気が引いていくのが感じた。
レイはΩ、リヴィウスは当たり前のことながらαだ。もしも王子として生まれた息子が、Ωだったなら。あらゆる針の筵にされ、レイが受けてきた嫌がらせなど非にもならないだろう。αだったならば、王位継承は明らかで。そうなってしまえば何の後ろ盾もない王子を、誰が守るというのだろう。
それよりも、その診断が出る以前の話だ。王子と分かれば命を狙う者は必ず現れる。
「レイ様!?どうかなさいましたか!?」
「…あ、いや…」
考えることは沢山ある。けれど今は疲れすぎた。
「…少し、休みたいので…」
「承知しました。では、私たちはお下がり致しております」
「うん…」
どうすればいい?何を考えればいい?
俺は、何を選べばいいんだ。
「レイ」
嬉しそうな顔をするリヴィウスがまだ顔もしわくちゃな王子を抱きかかえて目の前に連れてくる。
「…かわいい」
生まれてから実に二十四時間以上経っているのだが、仕方ない。泥のように眠ってしまっていたのだから。
「レイ、ありがとう」
「え?」
「俺を父にしてくれて、ありがとう」
「…陛下」
この時間を大切にしたい。いつまでもこうして、我が子と三人で。
「なんだ?」
「……俺は、Ωです。この国では最も最下層とされ、蔑まれるのが当たり前な存在です」
「レイ、それは…」
「こんな俺を迎えてくれただけでも、俺は陛下に感謝してもし足りないんです。ずっと考えていました。この子が女だったら、きっとそこまで考えたりはしなかったけれど」
もう逃げることは許されない。
そしてこれはきっと、自分のためでもある。
「俺は、この世界が嫌いでした。好きでΩに生まれたわけじゃないのに、貶されて。けれど今は違います。Ωとして生まれたから、貴方の側にいることが許された。Ωとして生まれたから、貴方の子供を産めた」
けれどあと十年。その間に王妃の座は誰かに渡さなければならなくて。それが側室の中から選ばれてしまえば、この子供の命は当たり前に危うくなる。
「貴方に迷惑をかけるかもしれない。それでも、いいですか?」
「どういうことだ?」
「王妃として、貴方の隣にいて、自分の手で、この子を守っても、いいですか?」
有力貴族からは批判の声が殺到するかもしれない。リヴィウスにも迷惑をかけるかもしれない。
それでも、俺は。
「もしこの子がαでも、Ωでも、βでも。命の危険を感じたり、今の俺たちのように、蔑みの目を向けられたりしないような、そんな世の中にしたいんです」
「…辛いのはきっと、お前だ」
「覚悟の上です」
「……王妃になれば、絶対に俺はお前を離したりしない」
「元からそのおつもりでしょう?」
「確かに前代未聞のことだ。けれど、だから俺がやってみせる。この国に前例がないのなら、今作ればいい。後世のためにも」
「…はい」
「これだけは約束しろ。お前は俺を絶対的に頼れ。王妃としての政務がある。それでも無理なら音を上げろ」
「はい」
「それから、王妃になっても、王妃になってからはより一層、俺だけを見て、俺だけを愛せ」
「はいはい。分かっておりますよ」
本当にもう、俺は。
こんな馬鹿な俺でも受け入れてくれる人がいるだろうか。
いないなら努力するしかない。
ようやく、心から守りたい、本当に大切なものが出来たのだから。
42
お気に入りに追加
927
あなたにおすすめの小説
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
可愛い悪役令息(攻)はアリですか?~恥を知った元我儘令息は、超恥ずかしがり屋さんの陰キャイケメンに生まれ変わりました~
狼蝶
BL
――『恥を知れ!』
婚約者にそう言い放たれた瞬間に、前世の自分が超恥ずかしがり屋だった記憶を思い出した公爵家次男、リツカ・クラネット8歳。
小姓にはいびり倒したことで怯えられているし、実の弟からは馬鹿にされ見下される日々。婚約者には嫌われていて、専属家庭教師にも未来を諦められている。
おまけに自身の腹を摘まむと大量のお肉・・・。
「よしっ、ダイエットしよう!」と決意しても、人前でダイエットをするのが恥ずかしい!
そんな『恥』を知った元悪役令息っぽい少年リツカが、彼を嫌っていた者たちを悩殺させてゆく(予定)のお話。
【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる