上 下
10 / 64

10,王妃様

しおりを挟む


 愛していると言われるのが好き。
 愛されていると思えるのがいい。
 誰かに必要とされていたいし、誰かの支えになりたい。けれどその誰かは、自分だけを見てくれないと嫌だ。そんなことを考えていた、あの頃。


「…陛下?……陛下、起きてください」

 目が覚めると、自分の身体を抱き締めるリヴィウスが隣にいた。驚いたけれど、レイが寝てからリヴィウスがベッドに潜り込んでくるのはいつものことだ。

「ん?…んー…」
「またこちらにいらしていたのですか。もう朝ですよ、政務があるのでは?」
「…レイ…」
「はい?」
「…今日の予定は?」
「部屋で本を読む予定ですが」
「そうか。では夕方、共に出かけよう。街へ視察に行く予定なのだ」

 夕方?なんて思いながら首を傾げると、リヴィウスが笑った。

「言ってなかったか。今日は豊作祭だぞ」
「そうなのですか!?」

 豊作祭とはその名の通り、一年の作物が豊かに育ったことを祝う祭りだ。

「せっかくだ、お前と出掛けたい」
「いいのですか?他の方でなくて…」

 俺だけだと他の側妃にまた睨まれてしまう。

「なんだ、嫌なのか?」

 不機嫌になったリヴィウスに慌てて訂正する。

「いいえ、嬉しいです。楽しみにしています」


 それにしても。リヴィウスは特に気にも止めていないけれど、正妃であるカルラ様の体調が優れないと聞いた。今日あたりに見舞いに行った方がよさそうだ。
 カルラ様は正妃で、他の側妃と違って醜い争いや嫉妬を好まない。Ωとはいえ男のレイに唯一優しくしてくれる妃はカルラ様だけだ。
 いつも王妃として公正を望み、気を配っている。とても優しいカルラ様を尊敬していた。



「カルラ様、失礼致します」

 体調が優れないと言っているにも関わらず押し掛けたレイに嫌な顔を一つすることなく、笑顔で迎えてくれた。

「レイ」
「カルラ様。体調が優れないと聞きました。大丈夫ですか?」

 礼儀ではカルラを王妃様と呼ぶべきなのだろうけれど、カルラがそれを好まない。親しくするためにも名前で呼ぶようにと言ってきたのだ。

「ありがとう。王妃として、自分の体調管理もならないなんて…私、駄目ね」
「そんな…」
「レイ、最近はどうかしら。他の側妃に何か言われてない?大丈夫?」

 こんな時でも人への気遣いを忘れないカルラが好きだ。もちろん、敬愛の意味で。

「はい。全てカルラ様のおかげです」
「よかった。あなたのことを一番心配していたの。…陛下は?お元気かしら?」

 こんなにいい人なのに、リヴィウスはカルラの元へは行かない。何故自分だけが愛されるのかよく分からない。こんなに心も綺麗で、見惚れるような美貌も兼ね揃えた人なのに。

「はい、お元気です」
「そう…よかった。…レイ、陛下を支えて差し上げて頂戴ね。陛下の心にいらっしゃるのは貴方一人なのよ」
「そんなこと…」
「私に何かあったら、貴方が陛下を支えてね」

 そんなこと。

「カルラ様、そんなことを仰らないでください。まるで、……」

 死に行く遺言のようではないか。何かあったら、なんて。なにもないに決まっているのに。

 けれどそれを言ってはいけないような気がして。

「はいー……」

 その返事をすることしか出来なかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Ωの皇妃

永峯 祥司
BL
転生者の男は皇后となる運命を背負った。しかし、その運命は「転移者」の少女によって狂い始める──一度狂った歯車は、もう止められない。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

可愛い悪役令息(攻)はアリですか?~恥を知った元我儘令息は、超恥ずかしがり屋さんの陰キャイケメンに生まれ変わりました~

狼蝶
BL
――『恥を知れ!』 婚約者にそう言い放たれた瞬間に、前世の自分が超恥ずかしがり屋だった記憶を思い出した公爵家次男、リツカ・クラネット8歳。 小姓にはいびり倒したことで怯えられているし、実の弟からは馬鹿にされ見下される日々。婚約者には嫌われていて、専属家庭教師にも未来を諦められている。 おまけに自身の腹を摘まむと大量のお肉・・・。 「よしっ、ダイエットしよう!」と決意しても、人前でダイエットをするのが恥ずかしい! そんな『恥』を知った元悪役令息っぽい少年リツカが、彼を嫌っていた者たちを悩殺させてゆく(予定)のお話。

処理中です...