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元カレを思い出せません
「よろしくお願いします」
しおりを挟む退院の日、恭弥の両親が来ていた。
悠とはタイミングが合わなかっただけで、父の方は何度も来ていたらしい。
一言挨拶をしておこうと、恭弥に先に受付をすませるように促す。
「…初めまして、恭弥君のお父さん…ですよね。ご挨拶が遅れてすみません、恭弥君と一緒に暮らしている桜木悠と申します」
「…初めまして、桜木君。いつも恭弥がお世話になってます」
恭弥に似て、物腰の柔らかそうな人だった。
「恭弥とは中学の時からの付き合いだとか……ずっと仲良くしていただいて」
「こちらこそ…。…今回は無理言って、恭弥をこちらに戻す形になってしまって申し訳ありませんでした」
ペコリと頭を下げると、やんわりと顔を上げるように言われた。
「いや、こちらこそ礼を言うべきだ。恭弥のことをよろしく」
「はい。………あの」
この際だから言っておこうと切り出す。
「ん?」
「また改めて、お会いしたいです。その時に話したいことがあるので」
「…僕に?」
「はい、それから…恭弥のお母さんにも、ちゃんと言いたいことがあって、」
今は言えないけれど。そう言おうとして、恭弥の母親の言葉に目を剥く。
「それは、恭弥と付き合っているってことかしら?」
「………なんで」
動揺した。これ以上ないほど。
「…ごめんなさいね、恭弥と話しているのを聞いてしまって」
「……そう…ですか…」
どうする。なんて言えばいい。想定外だ。言葉を紡げ、早く、早く…
「…恭弥とお付き合いしています」
ようやく出た言葉は、それだった。
「また改めて、ご挨拶に伺うつもりです。申し訳ございません」
なんて言われるだろう。どうしよう。
けれど悩んでいたのは悠だけで、恭弥の親はとっくに答えを出していた。
「恭弥が選んだのだから、私たちが口を出すことではないって思ってます。それに何と無く、分かっていました」
「…え…」
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笑って言った恭弥の母親を見て、あぁ、と思う。
この人の笑い方は恭弥とそっくりだ。安心する、裏のない笑顔。
「…はい、必ず伺います。ありがとうございますっ…!」
優しい気遣いに、また頭を下げた。
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