元カレに脅されてます

榎本 ぬこ

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続・元カレに脅されています

やっぱり

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「あの、すみません…結局、奢ってもらっちゃって」
「いいよ、俺が連れて行った店なんだし」
 一緒に夕食を食べたはいいものの、俺の財布にはギリギリ牛丼一杯分の金額しかなかったのだ。店に入った時から、高級感溢れるその場所に踏み込むのはややぎこちなかったのだが、メニューに金額が書いていなかったため、適当に頼んでしまったのだ。
「おいしかったです、ご馳走様でした」
 後で払う、と伝えたが、やんわりと断られてしまった。
「…あ…」
 携帯を見て、悠からいくつものメールや着信が入っていることに気がつく。
「…彼氏くん、かな?」
「えっ…あ、えっと…」
「見てたら分かるよ、微妙に嬉しそうな顔をしてるから」
 複雑な笑いを浮かべて、自分の方を見てくる。
(…やっぱり、このままじゃダメだ)
 奢ってもらっておいて都合がいいかもしれないけれど。これ以上、期待させて苦しめたくない。それに…きっと、この気持ちが誰かに移ることなんて、絶対にないから。
「…あの、話があるんです」
「ん?」
「俺、中学の時に付き合ってた人が居ました」
「え…」
「でも、その人と色々あって、すれ違いまくって別れたんです」
「!…その人って…」
「今の…俺の、恋人です。五年経っても、別れてから何人の人と付き合っても…あの人のこと、忘れられた試しは一度もありませんでした」
「恭弥くん、俺はー…」
「俺が好きなのは、今もこれからも……あの人だけなんです。だから…ごめんなさい。これで会うの、最後にしてください」
「…傍にいるだけでいいんだ。なんなら、話し相手ってだけでもいい。無理にこっちを向いてくれとは言わないからー…」
「気持ちに応えられないから、あやふやな事はしたくないんです。それに…俺がされて嫌な事は、俺もしないって決めてます。俺は恋人が…告白した人と一緒に居たら、絶対に嫌です。気持ちに応える応えられないじゃなくて、俺が嫌なんです」
 言い切ったその時だった。
「恭弥」
「え…せ、先輩!?なんでっ…」
「…どーも、俺の恋人がお世話になりまして」
「っ……彼氏くん、か」
「…佐野さん、ごめんなさい」
「もーいいよ。…ははっ、そんなに惚気られたら対抗する気さえ失せたよ。…アドレス消すね」
「あの!」
「…ん?」
「気持ちは、本当に嬉しかったです。…ありがとうございました」
「…ま、その男に飽きたら俺のとこにおいで?」
「え?」
「あれ?名刺、見なかったの?」
「えっ…と…?」
「…佐野財閥、佐野商事の社長って書いてた」
 ボソリと悠が呟く。
「え…っと……え!?」
「なんだ、知らなかったのか」
 笑いながら、腕にはめた時計を見て急に険しい顔になる。
「ごめんね、そろそろ行かないと……ま、とりあえず。俺はいつでも大歓迎だからねー」
 ヒラヒラと手を振って去っていく姿に、唖然となる。
「…あ、えっと…」
 佐野の姿が見えなくなり、ようやく我にかえる。
「…なんで…ここに」
「お前のこと見たって、連絡入ったから来てみたら…あの男と一緒だったからな。後つけてたんだよ」
「声かけてくれれば…」
「人と一緒にいるのに、そんな分別弁えないこと出来るわけねーだろ」
「…探してくれてたんですか」
「当たり前だろ。…まぁ、その…俺も悪かったなって」
「あ…の、俺も…その、ごめんなさい…」
「…前日に言うのも気ぃ引けるんだけどさ。明日、なんの日か覚えてるか?」
「え?明日…って、なんかありました…?」
「ほらな、忘れてるだろ。…明日、お前の誕生日だろ」
「え……あっ!」
「だから、一緒に…俺の稼いだお金で、旅行に行きたかったんだよ」
「…っ…」
(どうしよ…嬉しすぎて、顔がにやける…っ…)
「ま、アレだ。サプライズ?的なのしたかったんだけどさ。…ごめんな、紛わらしくて」
「…俺こそ…ごめんなさいっ…」
「…帰るか」
 顔を上げないのは、きっと俺の顔はありえないほど赤面しているから。
「恭弥?」
「…」
 うまく言葉が出ないから…少しだけ、自分から手を握ったりしてみて。
「!…ほんっと、かわいいことするよな…」
 少しの間だけ、素直になる。
「…先……悠さん」
「!…ん?」
「…大好きです」
「…俺もだよ」
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