20 / 43
続・元カレに脅されています
すれ違い
しおりを挟む「…また、か…」
いつもなら、大学から帰ってバイトに行って先輩が家にいていっしょに夕飯を食べて、各々の部屋へ戻って寝るのが日課だった。
が、最近、バイトから早く帰っても遅く帰っても、先輩が家にいることはほとんどない。
「…俺、なんかしたっけな…」
もしかしたら自分の顔が見たくないのかも、と少し前までの自分の行動を振り返る。
「えーと、…ストーカーのやつは別に…なぁ、謝ったし、許してもらえた…と、思うし…」
考えるが、思い当たる節はない。
「…んだよ…」
電話しても出ない、メールの返信もない。机の上にラップされた料理と、先に寝ておけという内容のメモ。
何をしているか聞いても答えず、追求しようにも時間が合わないので聞くことも出来ない。
「…はー…」
もう一度携帯を見てみるが、電話のかけ直しはなく、メッセージの既読も付いていなかった。
「…本当、意味不明な人…」
机の上の皿を乱暴に掴み、電子レンジに突っ込む。
「…バーカ…」
これで同居してから何度目になるか分からない、一人の夕食。いつもなら出来るだけ家に居たし、論文があろうがいっしょに食べていた。なのに、理由も言わずに気が付いたら出かけている。
「…他に、好きな人が出来た…とか…ない、よな…?」
浮かんでくる疑問を頭から振り払う。
(誰が何と言おうが、先輩と付き合ってるのは俺なんだからっ……多分……いや、絶対!)
「…寂しいな…」
次会ったら、絶対に問い詰めてやる。
そう思って、四日が経った。
「おかしい……やっぱり、おかしい!」
「おい、倉橋!なに独り言呟いてんだ。さっさと商品整理すんぞ」
「あ、先輩…」
「なに、何かあったの?」
「いえ……別に」
「分かった、恋人とうまくいってねーんだろ」
「……違いますよ」
「あ、図星かよ」
「…だから違いますってば」
「じゃあなんだよ、その間は」
「……はいはい、図星ですよー」
この四日、一度も会ってない。ご飯は作り置きしてくれてるから困ってはいないけれど、理由を追求することはまだ出来ていない。
どうしようかと思った時だった。自動ドアが開き、客が入ってくる音がした。咄嗟に振り返り、笑顔を作る。
「いらっしゃいませー……あ」
入ってきたのは、ストーカー男だった。
(な、んで…)
あの日以来、一度も来ることはなかったし見かけることも、つけられていることもなかったのに。
「…タバコ、七番の…ください」
「あ…はい」
急いでカウンターに戻り、レジを打つ。すると、男が声をかけてきた。
「…あの、今日、何時に終わります?」
「え?…あの、俺ですか…?」
「うん」
何のつもりで聞いてきてるのかは分からないが、答えていいのかどうかが分からない。とっさに圭介の方を見るが、こちらに気付く気配はない。
「あの、…えー…っと…」
「終わった時、話したいことがあるんだ」
「いや、その…」
「十分!…いや、五分でいい。この前、怖がらせてしまったことも含めて謝りたいんだ」
「!」
この前、とは…あの日、ばったり来なくなる直前の日の事だろう。
「…あの、でも俺…」
「少し、伝えたいことがあるだけなんだ。…君を怖がらせるつもりじゃなかった」
しっかりと目を見て告げてくるその男に、俺は断り切ることができなかった。
「…九時過ぎると思います。もしかしたら、もっと遅くなるかもしれませんし」
「俺なら大丈夫、君に合わせるよ」
「いや、でも…」
「君が大丈夫なら、別にこの後じゃなくても日を改めて、昼でも大丈夫だし!」
「え…」
「別にどうこうしようってわけじゃないから!あの、これ!」
後ろがつっかえてきたのを見たのか、いそいそとポケットから名刺を出す。
「連絡先、載ってるから!いつでも…かけて来てくれたら、出るから!」
「…は、い…」
「あの、じゃあ…ごめんね、また来るよ」
そう言って、シールの貼られたタバコを持って早足でコンビニから出て行く。
「…どうしようかな…」
終わった後、悠に連絡したがやはり電話も出なかった。かと言って、メールでストーカーしてきた奴に会うなんて言えば、後でモメることは明白だ。
けれど、ここで連絡せず理由も聞かずに、毎日尋ねられても困る。それに…なにか理由があったからなのかもしれない。もしも相手が自分に好意を持っていたとしたら、逃げるのは一番最低な行為だと思う。
「……っ……あの、もしもし……コンビニでバイトしている、倉橋ですが」
意を決して、電話をかけた。
「明日のお昼なら、学校終わってから時間があるんですけれど」
相手が当たり前のように承諾してきたのは言うまでもない。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる