幼馴染みに脅されてます

価値観の違い

　調子が良くて、何でもそつなくこなして。それが俺の中の黒崎蛍という男であり、同時に大嫌いな男でもある。
　何でも出来るくせに俺にベタベタしてくるアイツが俺は本当に嫌いだった。
　一度だけ言ったことがある。
「俺、お前のこと嫌い」
　昔は泣き虫だったアイツ。その時も泣くだろうと思っていた。けれどアイツはにこりと笑って、難なく答えた。
「俺も嫌いだよ、あきらのこと」
　俺はそれに何も言えず、ただ驚いた。俺は嫌われていたのか、と。嫌っているのについてくる意味が分からなかった。だから俺についてくるなと言った。
　その日から、アイツは俺についてこなくなった。ベタベタしなくなった。必要最低限しか話さなくなった。
　それが何だか、ほんの少しだけ寂しいと思った。

　嫌いになったのは、アイツが女を取っ替えひっかえし出してから。彼女がいるくせに平気で堂々と浮気し出したのは、高校に入ってからだろうか。茶髪でピアスも開けて、チャラチャラして。
　女子から泣かれても怒られても、
「じゃあ別れる？」
　なんて言葉を平気で投げ掛けて。それが俺には信じられなくて、有り得なくて。
　一度だけ聞いたことがあった。
「なんでお前、浮気ばっかしてんの？そんなことするなら初めから付き合うなよ」
「？　俺、浮気なんかしてないけど？」
「は？」
　何を言ってるんだ、と言いかけて、俺は次の言葉に唖然とする。
「みんな同時に好きだからさ、浮気じゃないよ」
「ーーばっかじゃねぇの？」
　チャラチャラして、ばっかじゃねぇの？
　浮気ばっかして、ばっかじゃねぇの？
　そんな風にバカなことばっかりしてるから、そうやって女に叩かれるんだよ。それでも尚ヘラヘラして、本当に、ばっかじゃねぇの。
「お前、誰かを本気で好きになったことなんかないんだろ」
　そんな俺の捨てるような台詞に、アイツは笑った。
「さぁね？」
　いつもの不敵な笑みを残して、またチャラチャラと女子に話しかけていた。
　俺はいつしか、黒崎を名字で呼ぶようになっていた。
　多分、同類になりたくなかったのだ。