感情表明

落合 優帆

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第十五章  合致

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 僕は今日朝起きると、普段は絶対朝から作らない食べないようなものを作った。

それは、ずばりカツ丼だった。

まあ本当は昨日の夕飯に食べて今日に備えたほうがいいわけなのだが・・・・

昨日は日暮と美味しい夕飯を食べられたからそれでよし。

だから、慌てて朝早起きをしてカツ丼を作っているというわけだ。


僕は朝早く起きるのが苦手なわけでもないし、料理をするのが好きなので全然苦にならない。



ご飯をおいしく炊ける炊飯器で炊いて、肉はしっかりとたたき、塩コショウをして、小麦粉をつけて溶き卵に絡ませて、最後にパン粉をしっかりつける。



こういう肉厚なお肉を揚げるときは温度にしっかりと注意をして、はしを油につけたり、パン粉を少し油に入れて温度を確かめたり、そういうのが大事なところである。


よしっいい温度だ。

僕はもうすでに美味しそうなカツを油の中に投入する。


ジュワーッ


入れた瞬間に中の水分が音を立ててパチパチとはじけている。

この時もしっかりと火の具合を見て、裏に返すかなどよく見極める。

あとは、揚げる鍋などの深さにもよるのでそれにも注意が必要である。

僕は、料理をしているときが一番わくわくする。

いろんな調味料、調理方法、材料、いろんな未知なものばかりだ。ちょっと違う材料を入れるだけで香りも味も変わってしまう。

僕はそれに魅了されてしまう。だから僕は料理が好きなんだ。

それに一番は食べてくれた人の笑顔を見るのが一番好きなんだ。


おいしそうに食べてくれている人を見て大満足になる。


このタイミングでひっくり返そう。

ひっくり返して様子をみてその繰り返しだ。

美味しそう。涎が出てきてしまいそうだ。



パチッパチッと油のはねる音がなくなってきて水分がなくなってきた証拠だ。

よし、もういいだろう。

これであとは卵を閉じてタレをかければ完成だ!



「いただきます。」

僕は目の前のとんかつを眺め我ながらよくできたと思った。

一口、口に入れた瞬間サクッと衣の音が部屋中に響いた。

ジュワーッと広がるお肉のうまみが僕をカツ丼の世界に連れて行ってくれそうだった。

これで僕の今日の気合は入った。あとは前野に会うだけだ。

不安だけど、それでも僕を勇気づけてくれた日暮とこのカツ丼に報いなければならない。と僕はそう思った。



「ごちそうさまでした」


全部完食した僕は、片づけに入った。


あとは準備して戸締りをしてごみを捨てて病院へ行こう。




僕は全部準備し終えると、前野の入院している病院へ足を運んだ。




歩きながら考えていることはひたすら前野の過去と現在、そして今まで僕と話していた前野の態度だった。


どんなに思い返してみても、昔も今も変わらなかった。

いつも僕に優しくしてくれて、どんな時でもふざけて笑って・・・。

そんな前野のことが僕は本当に好きなのだ。

分かり合いたい。不安だけど、怖いけど、でもそれでも向き合いたい。

そのように思わせてくれたのは日暮だった。

その思いにも応えたい。そして、自分の気持ちとも向き合いたい。

今までのことを話したい。そう思った。怖いけど、今の僕の気持ちが自分に一番正直なのだ。


自分に正直な自分が好きなのだ。と思う。そのほうが今の僕に合っていると思う。



そう思い、一歩一歩前に足を踏み出しながら病院へ向かう。

交差点を曲がり、まっすぐ歩いていると目の前に見えてくるのは前野がいる大きい病院だった。

いつもと同じ佇まいなはずなのだが、今日の僕はいつもと同じに見えなかった。

緊張しているせいだろうか。前野の病室に近づくにつれて僕はだんだんと不安が戻っていた。

緊張と不安が混じると、怖い。それは誰にとってもそうであろう。

けど、今の僕にはその小さな緊張や不安でさえも日暮のおかげで勇気に代わるものだった。


少しずつ歩いて行って、前野の病室にたどり着いた。前野と札には書かれている。

着いた。ここだ・・・。前野はいるかな・・。

病室の中から前野の声が聞こえてくる。元気そうな声だ。よかった。それを聞けただけでも安心だ。


よしっ一歩をふみだすんだ僕。

そう自分に勇気づけて一歩踏み出した・・・。



僕は病室に入った。前野がいろんな人達と話してたが、僕が病室に入ったと分かると、前野はこっちを見て驚いたような顔をしていた。



「ひ、弘樹。」

と一言呟いただけだった。

僕はなんという顔をしていいかは分からなかったが、とりあえずは多分ちゃんと決意を表していたような顔だったと思う。

そのぐらい僕は前野に対して、話し合う覚悟をもっていたのだった。




僕は前野にだんだん近づいていき、こう言った。

「前野・・・。ちょっと顔かして・・・。」と。

別に喧嘩するわけでもないし、怒るとかではないのだけど、

前野はそんな僕にちょっと僕にびくびくしながらついてきた。

こんな前野見たことないかも・・・。前野も多分日暮と会話をしていろいろ不安になっているのだろう。




僕と同じだった。

けど、今日僕は前野としっかりと決着をつけたいと思っていたから来た。



僕は緊張しながらも前野に話しかけようと口を開いた。

前野も僕に何かを言いたそうにしていたがここは僕から話しかけようと思った。


前野も僕に近づいてきて、息を吸って吐いて呼吸を整えていた。


「前野・・・。」
「弘樹・・・。」


「「ごめん!」なさい!」

とお互いに思い切り頭を深々と下げたせいで頭をガツンとぶつけてしまった。



「「痛っー」」


と頭を抱える僕ら。お互いに顔を見合わせて笑ってしまった。



これだから・・・・
前野は・・・
弘樹は・・・

やめられないよな。



「お互いに思っていることを話し合おう。今までのこと今のこと、今の気持ち。これからのこと。」

「うん。僕も同じことを前野に言おうと思ってた。」

お互いに顔を近づけて笑っていられるくらいになった。

「実は日暮に心配されて・・・。」

「僕も・・・・。」

と僕たちは顔を見合わせて笑ってしまった。

「ほんと日暮はおせっかいやさんだなー。とかいっても俺たちのことをしっかりと考えてくれているってことは分かってるけどな。」

「そうだね。僕も日暮にいろいろ心配されて決心がついたんだ。だから普段の僕よりも勇気がある。日暮のおかげで・・。」

「日暮には感謝しないとだなー。」

「うん・・・。」



前野は病室から出ながら外にでようか。


病院だけど外にカフェがあるしそこで話そう。と言った。僕は頷いて付いて行った。



「ご注文は何になさいますか?」とお姉さん。

「ホットコーヒー二つで。」と前野。

「かしこまりました。」と愛想のよいスマイルでお姉さんは去っていった。


「単刀直入に聞く。弘樹は俺のことを覚えているか?」



「うん。最初は気付いていなかったけど、多分途中からはもしかしたらって気づいていたんだと思う。

でも気づかないふりをしてた。過去の自分から逃げるために・・・。

前野に似てる人だなって同姓同名なんてそこら中にいくらでもいると思って前野だときっと思わないことにしたんだ・・・。

ごめん・・・。」


それを聞くと前野は・・・・ふっーっと息をついた。


「そっか・・・・。そうか。そうだよな。でも良かった。俺のことを嫌いだから気づいてるけど忘れてるふりとかじゃないんだよな。」


僕は一瞬意味が分からなかったが、前野が僕が前野のことを嫌っていると思っていたのかとそういう思いをさせてしまったのかと思った。



「当たり前だよ。嫌いだったら一緒に最初からいなかった。

むしろ、前野に似てるやつだなと思ったから一緒にいたいと思ったんだ。

そこは分かってほしい。そんな風に思わせちゃってごめん。」

と僕は心から前野に誤った。それを見た前野は、

「そんな・・謝る必要なんてないよ。俺がそういう風に勝手に思っていただけだから。」

「いや・・・。僕がそういう風に思わせちゃったからだ・・・。」

と僕は深く反省をした。


「でもそうじゃないことが分かったんだから俺はそれだけで嬉しい。」

と前野は言ってくれた。

僕も疑問と不安に思っていたことを前野にぶつけてみた。


「前野は僕のこと嫌いじゃなかったの?僕って分かっててきっと近づいたんだよね。

それでも、昔のことを言ってこなかったのは僕のことを嫌っていて恨んでいたからじゃないの?」


僕は怖くて恐る恐る顔をあげると、前野は驚いた顔をしていた。

なぜ?というような顔だ。僕はなんか変なことを言ったのだろうか。



「弘樹・・・・。お前はばかかっ。そんなことあるわけないだろ。

俺は過去のことでお前を救えなかった・・・・。嫌われても恨まれてもしょうがないことをしてしまったんだ。

弘樹にお母さんとお父さんには言わないでと言われていたのに俺は何かできないかと思って・・・

お前に内緒でお前のお母さんに仲直りしてって言っちゃったんだ。

それをお前のお母さんはお前が俺に告げ口したと思ったんだろう。

火に油を注いでしまったんだ。

今思えば、本当になんであんなことをしてしまったんだろうって思う。

でも当時の俺は弘樹をなんとか笑顔にさせたくて、それにお前のお母さんとお父さんのことをちゃんと分かっていなかった。

だから、ちゃんと話せば分かってくれる人達だと思っていたんだ。

そのせいで、俺がいない間に弘樹はもっと親に怒られて嫌な思いをして虐待も、もっとされて・・・・


あの時、俺がもっと早く大人を呼び出せていたら・・・。

そしたら弘樹の運命はきっと今、変わっていたと思う。

きっともっといい人生になって、いい人たちに出会えて毎日の生活を楽しく過ごせたと思うんだ。

俺はずっと小さいころから、あの瞬間からそのことを悔やんでいた。

だから、お前に嫌われても憎まれてもいい。

お前の傍で昔の俺とはバレずに過ごす。

生活をもっと豊かにもっとお前のことを分かってくれる人がいてくれるように周りで支えようって決めたんだ。

傍から見ればただのストーカーにも見られてしまうかもしれない。

弘樹にもし、俺だってバレてもっと嫌いになられたとしても、それでも俺はお前からバレないようにきっと周りでなんとかお前を笑顔にしようって決めてた。

それぐらいあの日から俺はお前のことばかり考えていた。

それはもうお前のことが親友としてダチとして好きだったんだよ。だから、嫌いになるわけないだろ!」



と前野は声を荒げながら僕に言った。



 カフェの人達が僕らを見ていた。

でも、そんなこと今の僕にはどうでもよかった。

前野の発した一言一言が僕の胸の塚を溶かしていくようだった。

今までどんなに後悔してきたことか・・・。あの時、なんで、どうしてって。

きっとあいつは、前野は、僕のことを恨んでるだろうって・・。

でも、違ったんだ・・。前野は、前野は。昔と変わらない。優しい前野のままだった。


こんなにも前野は僕のことをあの頃から想っていてくれたんだ。





その思いを知った瞬間に僕は、今までの緊張感と不安だった心が溶けていった。




いつの間にか、きていたホットコーヒーは冷め、お客さんも少なくなっていた。



ポタッ ポタッとテーブルに雫が落ちてきた。雨でも降ってきたのだろうか。

空を見ると雨は降っていない・・・。

いや、これは僕の涙なのか・・・。

理解するのに時間がかかった。

前野はそんな僕を見ておろおろしている。きっと自分が泣かせたと思っているのだろう。

まあ、確かにそれはあっている。違う意味でだが・・・・・。



「ごめん・・・。泣くつもりなかったんだけど・・・。」

「お、おう。ごめんな。俺が声を荒げちゃったからか?」

「いや、違う・・・・。嬉しかったんだ。違うことが僕にとってはとてもうれしかったんだ。」


僕は涙を拭いた。



やっぱり話さないと分からないこともある。向き合うことって大事なんだ・・・・。


「・・・。違うこと?」

「うん。僕は今まで、過去の前野にも今の前野にも心の中で謝ってばっかりだったんだ。

あんなことに巻き込んでしまって、僕を助けようとしてくれたのに・・・・。

怖い思いをさせてしまって・・・・。だから、僕は前野にずっと嫌われているのかと思っていたんだ。

そして、恨まれているのだと思っていたんだ。

だから、前野の口からそれが本当だとしても向き合おうって決めてたのに、僕が思っていたことと違ったから

それがとても嬉しかったんだ。

・・・・・・・・・・・だから、ありがとう。」



前野は僕の言葉を聞くと、驚き、息を吐いて、安心して、笑った。



「なんだ。俺達、同じようなこと思っていたんだな。

それが怖くてお互い今まで隠してた・・・・。

俺達はお互いにお互いのことを想っていたんだな。」


と前野は豪快に笑いだした・・・・。



僕もつられて笑ってしまった。


けど、泣き笑いだ・・・・。



そんな僕らの様子を見た店員さんが、


「ホットコーヒー淹れなおしますね。」


と先程よりもっと笑顔な顔で僕たちに話しかけてきた。




僕たちはお互いに顔を見合わせて、頷いた。





もちろん満面の笑顔で・・・・。










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