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第十三章 互いの思いを一つに
しおりを挟む俺は前野と別れて病院を去ったあと、今度は佐藤のもとに行こうと足を向けた。
あの状態ならばきっと佐藤は外に出掛けたくないないのだろう。多分家にいるんだろうなと思った。
俺は二人のこの過去と今現在に首を突っこんでいいのかいろいろ考えてはいたが首を突っこまざるを得ないと思った。
二人にちゃんとお互いの思いを話してほしいし、簡単には解決できない話かもしれないけどこんなにお互いのことを思っているのにすれ違っている二人をずっと見ていて耐えられなかった。
俺はずっと今まで違和感があった。
この二人はこんなにも仲がいいのに、違和感がある。そう思った。
ずっと見ていて思っていたことだった。
なんかあるとは分かってはいたが、そう簡単には首を突っこんでいいものではないと思った。
でも、二人とどんどん関わっていくにつれてもっと仲良くなりたいし二人のことをもっと知りたいし、二人にもっと奥まで知って欲しかった。
だから自分から首を突っこむことにした。
もし嫌な思いをさせてしまったのなら二人の前から立ち去るつもりでいる。
けれど、今までの二人の話し方を見ていると本当はお互いにいろいろ話したそうにしているのに話せないような感じだった。
だから二人にもっと奥まで話してほしいと思った。
そう決意して俺は前野のところにも向かったし、これからまた佐藤の家に行こうと足を運んでいる最中だった。
もう少しで佐藤の家に着く。
まあ、いきなり本題に入ったら佐藤もなかなか言い出せずにいるかもしれないから、俺は途中のケーキ屋さんで佐藤の好きな栗が一粒上に載っているモンブランを買って来ていた。
ピンポーン
とチャイムをならした。少ししてから、佐藤が出た。
(はい。どちらさまでしょうか。)
おっさすが佐藤。応対がしっかりしている。
(日暮だけど、今いいかー)
といつものように声をかけてみる。
(あっ日暮か。大丈夫だけど。)
(じゃあ開けてくれ)
(今開ける。)
と言われてしばらくたった後、扉が開いた。
「おう。ケーキ買ってきたぞー。」
「・・・・。いきなりだな。」
「まあまあ」
と俺はちょっと疑わしそうにこっちを見てくる佐藤を部屋に急かした。
「じゃーん。佐藤の好きな栗一粒入ってるモンブランだぞー」
と子供に言い聞かせるように言った。
「いきなりすぎる。日暮なんか考えてる?怪しい。」
と言ってきた。さすが佐藤、勘が鋭い。
まあのらりくらりかわそうと、
「そこでたまたまケーキ屋さんがあったから、買ってきただけだよ。いらないなら俺が食っちゃおーっと」
と佐藤に言うと、表情では絶対他の人では分からないだろうが、慌てたように
「いらないなんて言ってない。」
と言い、ケーキを冷蔵庫に大切そうにしまっていた。
俺は思わず笑ってしまったが、佐藤はそれには気づかない。
そういうところが子供っぽいというのに本人はそれには気づいていないからだ。
まあ、それはよしとして少しずつ話を本題に入れるようにしようといろいろと他愛もない話から始めた。
「昨日、俺がいなくなってから大丈夫だったか。」
「うん。起きたら日暮がいなかったからちょっと焦ったけど、帰ったのかって思って、普通にいつも通りだった。」
「そっか。ならよかった。いろいろ疲れてそうだったからちゃんと佐藤が眠ったのを確認してから帰ったんだぞ。」
「そっか。布団もかけてくれてありがとう。風邪引かなくて済んだ。」
「おう。それはよかった。」
「今日は何してたの。」
といきなり佐藤から質問きたからこれには驚いた。
すぐにどういう風に返していいか分からなかったので戸惑っていると、
「前野のところ?」
と以外にも佐藤の口から前野の名前が出てきた。
聞かれてしまえば答えないわけにもいかないので、正直に話すことにした。
「そう。前野のところにお見舞いに行ってきたよ。」
「そっか・・・・・。前野は・・大丈夫だった?」
と体の心配とあとは今までの多分ギクシャクしていたことも言っているのだろう。
「まあ、大丈夫だったよ。」
と普通に答えたら、
「そっか。それならよかった。」
と全然良くないような顔をした。
きっと今までの積み重ねというかもやもやがあるのだろう。俺が佐藤の立場だったら絶対にそうだからだ。
「なあ、佐藤。俺、お前に話したいことがある。」
「・・・・・。何」
きっと佐藤が俺がこれから言おうとしていることを分かっているのだろう。
佐藤の表情は少しこわばっているようだった。
けど、どこかで話したそうなそぶりを見せている佐藤の様子もあった。
そんな佐藤の様子を見ながら俺は話し始めた。
「実は・・・。前野から全部聞いたんだ。佐藤と前野の昔のこと・・。今まで俺、二人の間に何かがあるとずっと思っててでも雰囲気でなかなか聞き出せなかったんだ。
けど、これ以上ひどくなる感じがしたし、俺はもっと二人のことを知りたいんだ。
だから、踏み込んだんだ。嫌だって思うかもしれないけど二人にもっと奥まで話し合ってほしいし、お互いのことを
分かってほしいんだ。」
佐藤は話し出した俺に、なんとも言えないような顔をしていた。
佐藤は、
「・・・・・・・。そっか。日暮は僕のことをそんなふうに思ってくれてたんだ。
ありがとう・・・・・・・・・・・。」
佐藤は何かを言おうと言葉を選んでいるようだった。
きっと今までのことを考えているのだろう。俺は佐藤が言葉を発するのを待っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕も・・今までいろいろ考えてて悩んでて・・・本当はこのままじゃだめだとは分かってたんだけど、こ、怖くて怖くてなかなか踏み出せなかった。前野に嫌われているから・・。
だから話すのが怖かった・・・・。」
と少しずつ俺に話してくれた。
俺は否定したかったけど、佐藤が思っていることを全部聞こうと思って黙って話を聞いていた。
そして佐藤は深呼吸をした後、少しずつ話した。
「小さい頃、僕と前野は出会ったんだ。
最初から前野はこんな地味な僕に話しかけてくれて、仲良くしてくれたし、話しやすかった。
とてもいい親友をもったなって僕は心の底からそう思ったんだ。
でも、僕は感情をだすのがうまくなくて嬉しくても悲しくても、周りからは僕がどんなことを考えているのかどんな表情なのかが全然分からなかったんだ。
それは僕の周りだけの話じゃなくて、家族も僕の感情は全く分からなかったんだ。
何を思っても不気味がられて、もっと喜怒哀楽をだせとそういうふうに怒られてきた。
そんなことを小さいころから親に言われても意味が分からなかった。
僕はちゃんと感情をだしていると思ってた。でもそうじゃないんだとだんだんと気づいてきたんだ。
周りの反応がそれを示していたから・・・。
でも、前野は違った。僕の家族よりも全然僕のことを分かってくれている。
理解してくれたんだ。表情だって分かってくれる。
そのぐらい、前野は僕のことをよく見てくれていた。
だから、僕は前野の前では本当にいろいろ感情も表情も気にせずいつも通りだせていた。
でも僕のこの感情や表情をうまく出せないせいで、家族の僕に対する態度がどんどんヒートアップしていったんだ。
表向きでは仲の良い家族だったと思う。でも、裏では僕に対して親はすごく冷たい態度だった。
それが毎日のように続いて・・・
そして、事件が起こったんだ。
たまたま前野と遊ぶ約束をしていて、前野はきっと僕の家の近くに来ていたんだろう。
多分、親が僕を怒っている声を聞いたんだと思う。
前野のことだからきっととても心配してくれたんだろう。
前野が家に入ってきて僕のお母さんとお父さんに怒った。
とくにお母さんに・・。僕の知らないところでお母さんと何かを約束していたようだった。
僕は前野がそんなことをしていたなんて知らなかったけど、これ以上前野に被害をうけてほしくなくて今まで怒ったことなかったんだけどその日は怒った。
なにしてんだよって・・・。余計な事しないでって・・・。
僕は本当はそんなこと言いたくはなかったんだけどどうしても前野を守るためにはそういうしかなかったんだ。
そうしないと前野を守ることが絶対にできないって思ったから。
小さいながら親には敵わないって分かってたんだ。
それに僕は親から暴力を受けていたんだ。それをいつも前野から必死に隠してた。
前野は鈍いから全然感づくとかしなくてそれはそれでありがたかったんだけど、僕が怒って前野に掴み掛ったとき、前野は僕を止めようとしてたまたま服が捲れてしまったんだ。
そしたら、たまたま殴られた痣を見られてしまって前野にばれた。
それを悟った前野は小さいながらも僕をなんとか助けようと家から出ようとしてくれたんだ。
でもそんなの親が許すはずもないから僕たちを追いかけてきた。
最終的には逃げられないと思ったけど、前野が僕を助けるために前野の親に電話をかけたり、呼んでくるっていって僕の家を後にして一生懸命走っているのが見えたけど、僕の親は児童相談所や警察を呼ばれるのが嫌だったんだろう。当たり前だ。
見つかったら警察いきだから。
僕を無理やり家から連れ出したんだ。
僕は頑張って前野が来るのを待とうと思って必死に抵抗したんだけどやっぱり子供の僕には親の力に敵うわけもなくすぐに家から連れ出されて・・・。
親も、もちろん逃げるために必死になって僕を引っ張って、必要最低限なものをもって車に乗った・・・・・。
そのあとのことは僕には分からない。
それから前野には一度も会ってないし、あの家にも帰ってない・。
どうなってるかも分からない状態だ。
僕の親はもしかしたら後から荷物を持って行ってたりしたのかもしれないけど・・・。
子供の僕にはそこまで詳しいことは分からない。
僕はとにかくその頃はとにかく必死だったんだ。生きることに・・・。
本当はお母さんにもお父さんにも笑っていてほしかった。
けど、僕のせいで怒らせてばかりいるから悲しかった。
それにそのことで前野を巻き込む羽目になってしまったからずっと後悔しているんだ。
なんであの時巻き込んでしまったんだろう。
もっとこうなる前に何かすべきだったんじゃないかって・・・・・・・・・。
確かに、あの時は小さい頃だったしそんなすごいことなんてできるわけもないけど、大人になった今でもやっぱり後悔ばかりなんだ。
前野にまた会うまではずっと思ってた。今でもずっとそうに思ってる。
けど、社会人になって前野が昔のあいつだとは思わなかったんだ。
前野のアルバムを見るまでは・・・・・・でも前野は昔のことを僕に聞いてこないんだ。
ただ忘れてるだけかもしれない。でも、アルバムを持ってて名前も同一人物で・・・・
たまに違和感に思うことがあるんだ。会話の中で・・・・。
初めて作ったりした料理のこととか普段の会話をしている際中とか・・・。
なんかしら前野の発言に疑問を持つ時が多々あったんだ。
だから、それでようやく僕の中の違和感に糸が繋がった。
前野は僕の事を覚えているって・・・。
でも、何も聞いてこない。普通に接している。だから前野は昔の事なんか思い出したくもないんだって。
僕のことなんか忘れたように初めて会った人のように接しようとしてるんだって思ったんだ。
僕が悪いんだけど、それが分かった瞬間悲しくなって、昔のことを一気に思い出して・・・・。
僕はこれから前野にどうやって向き合っていけばいいのか分からない。
本当は昔の時の事を聞いてみたい自分もいるけど、もう話すことさえできないんじゃないかって・・・。
もう、話さないほうが前野の為になるんじゃないかって・・・・。
昔の事を謝りたい。どう思っていたのかも知りたい。
けど、僕の中の恐怖が心を蝕むんだ。
もう、前野にはなんて顔をしていいか分からないんだ・・・・。」
僕は一通り話し終えるとふーっと息を吐いた。
今まで隠してきたことが全部吐き出されたからだ。
でも、吐き出した今でもまだ前野と話し合ったわけではないから、まだ安心してもいないし怖いままだ。
でも、日暮のやさしさのおかげで話すことができた。
「ありがとう。」と僕は日暮にお礼を言った。
日暮はなんで?というような疑問の顔を見せたがそれが日暮らしいというかなんというか・・・。
そんな日暮の対応に僕は少し笑ってしまった。
それに余計に救われるのだった。
日暮は僕の話を聞いているときはじっと僕のほうを真剣に見ていたが、話し終えると、何かを考えているようで部屋をゆっくりと歩き始めた。
「そうか・・・。そうだったんだな・・。」
「うん。」
日暮は僕にゆっくり近づくと、とても優しく僕を抱きしめてくれた。
日暮のあたたかさが僕の心にまで伝わるようだった。
今までため込んできた僕の何かが溢れ出てくるようで、とても泣きたくなった。
いや、もう泣いていたんだ。
日暮は僕の頭をなで、安心させるようにポンポンと頭を優しくたたいた。
その行動に僕はまた涙を流す。
そして何分だったのだろうか・・・。
時間は分からないがだいぶ時間がたったと思う。
だけど、日暮はそんなことも気にせずずっと僕を抱きしめていてくれた。
これが人の優しさなのだろう。
いや、違うか・・
これは人の優しさではなく日暮だからこその優しさなのであろう。
僕が落ち着いて離れたら日暮もそれに気づいて離れた。
日暮がいきなり両手をパンっと叩いた。
「じゃ、飯食いに行こうぜ!」
といつもの日暮らしく僕を誘った。
きっと僕の事を思ってくれているのだろう。いつも通りに接してくれた。
「うん。」
と僕もいつもの自分らしく、そして今までよりも明るい返事をした。
電車を乗り継ぎ、横浜につくと、
「ここ行ってみたかったんだよな。」と日暮が指をさすそこには、
とてもおしゃれなカフェがあった。
「おおー。」と僕。
「いいところだろー。いつも見かけるたびにいいなあって思ってたんだよなー。」
まっ入ろうぜと日暮はそのおしゃれなカフェの中に入っていく。
外見も中もまるでおとぎ話にでてきそうなカフェだった。
こういうの笹倉さんが好きそうで連れて行きたいなと思った。
僕は日暮のおかげでそんな何気ないことまで考えられるようになっていた。
店内に入るとかわいい制服だがとても清楚な店員さんが、
「いらっしゃいませー。何名様でしょうか。」
と声をかけてきた。
「二名で。」
「こちらへどうぞ。いらっしゃいませー。」
歩いていくといろいろなところに工夫がされており、お客さんの目にすぐ入るようなところにまた行きたいと思わせるかわいいものがたくさん置いてあった。
かわいらしい花や小人さんなどが飾られてあった。
僕たちは席につくと、メニューを見た。
結構いろいろ種類が豊富だった。男の人からも女の人からも人気なのだろうと思った。
僕は、和定食にした。
日暮は中華だった。なんかこんなかわいい店なのに食べ物の種類はいろいろってちょっと意外だった。
これがギャップというものなのだろうか。
注文してから十分くらいで料理がでてきた。
「ごゆっくりどうぞー」と店員さんのすばらしい笑顔の対応とのこと。僕は驚いた。いいところに来たな。
「「いただきます。」」
僕の和定食は、カレイの西京焼き、和風サラダステーキ、きんぴら、たくあん、ご飯、お味噌汁、ほうじ茶だった。
どれも美味しそうでこの木のプレートに全部まとめられているというところがとてもよかった。
僕も家でこの木のプレートに盛り付けようかなと思ったほどだ。
日暮のはチャーハン、エビチリ、バンバンジー、サンラータン、杏仁豆腐、ウーロン茶だった。そっちも美味しそうだった。
「おっうまっ初めて来たけどまたここ来よーぜ。うまいわー。」
「そうだね。僕もここ気に入った。また来たいな。」
「じゃあ、またここ来よーぜ。決まりなっ今度は三人で!」
その三人でという言葉を聞いたとき、僕はちょっと怖くなってしまった。
でも、ここまで日暮がしてくれたし僕はまた昔みたいに前野と仲良くなりたかった。
頑張ろうと意気込んでご飯を掻き込んだら、咽せてしまった。
日暮が慌ててほうじ茶を渡してくれた。
日暮のおかげで僕はちゃんと前野と話をしてそれがどんな結果だったとしても頑張ろうと思えるようになった。
ちゃんと向き合わないと分からないことだってあるし、前野ともっと仲良くなって、もっとしゃべりたいと思った。
本当にいい友達をもった。
僕たちはカフェをあとにして、家に帰った。
日暮は一言だけ僕にこう言った。
「佐藤と前野の絆を信じろ。」
ただそれだけだった。
早く前野に会いに行きなとかそんなせかすような言葉はなく僕のことも前野のことも考えていてくれる言葉だった。
その言葉は僕たちのことを信じているというようにも聞こえた。
きっとそれは本当で僕が考えた言葉じゃなく、日暮のその気持ちが言葉に篭ったのだろうと思った。
「ありがとう。日暮。」
と僕はもう背中が小さくなって見えなくなりそうな日暮に感謝を述べた。
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