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自覚

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レティシエリーゼとラクシスが共にお茶会をするようになり、はや数ヶ月が経過していた。
少しだけ心に余裕の出来たレティシエリーゼは、以前よりも穏やかな気持ちでアルティアスに接することが出来ていた。
だが、それは別にアルティアスを許したとか、彼に興味を持ったからではない。

心に余裕をもたらしてくれる存在がいるから。

アルティアス自身は何かを勘違いしているらしい。
最近、レティシエリーゼが優しいからと。
ようやく気を許してくれたと、護衛騎士に機嫌よく零していたそうだが、それは全く違うのに。

国王、王妃に諌められ、ようやく護衛騎士もアルティアスを諌めるようになってきたが、時すでに遅しである事には気付いていない。

もっと早い時期に諌め、婚約者への対応をきちんとしたものへと導かねばならなかったのに、していなかった。
王子とはいえ人。女性に対しての対応は様々な人に聞いて、反省もしているだろう、と思い込んでいたのが一番の原因。


今日も今日とて、アルティアスとの茶会は早々に終わらせ、レティシエリーゼは双子の兄とラクシスの待つ四阿へと歩いていった。
その四阿は王妃が直轄して管理している区画にあるため、王族とはいえ容易に立ち入ることができない特別な場所にある。
立ち入り許可は限られた人にしか与えられていないから、レティシエリーゼは遠慮なく歩みを進めた。

「レティ姉様」

もうすっかり聞き馴染んだ声に、少しだけレティシエリーゼは表情を緩める。

「おたませ致しました。お兄様、ラクシス殿下」

護衛騎士、ならびに王族付きのメイド達。
ここにいるのは三人きりではない。
何か文句を言われてもレティシエリーゼは身内とお茶をしていると言えるし、サイラスは将来のためにラクシスとお茶を嗜んでいると言える。
ラクシスは有力貴族の二人と歳が近いので交流を深めていると言える。
やましい事など、何も無い。

あったとしても、見せない。

今のラクシスはもう、あの頃の我慢ばかりしていたラクシスではないのだ。

王太子教育をほぼ終えた。

兄達が普通の時間をかけて行ったそれを、ラクシスは寝る時間も、食事の時間も、趣味の時間も、何もかもを捨て去り、言葉通り全てをかけてやりきったと言える。

レティシエリーゼが腰を下ろすと、柔らかな表情の双子の兄と、ラクシスが迎えてくれた。

ようやくレティシエリーゼは気を抜けると息を吐き、メイドから紅茶を注いでもらい一口。
アールグレイの芳醇な香りが広がり、次いで味もじわりと広がる。
きっとこれはストレートだけでなくミルクティーにしても美味しいのだろう、と提案しようと顔を上げた先に見えたのは、ラクシスの服を染めた、赤。

「…………え?」
「あ」
「…ん?」

ぽたぽた、と流れてくる鼻血を冷静にナプキンで拭い、ラクシスは平然としているが、レティシエリーゼは顔面蒼白になっていた。

「あ、……っ」
「レティ、落ち着きなさい。王太子妃教育は何のために受けている?」

冷静に双子の兄に諭され、ようやく気付きゆっくりと深呼吸をした。
駆け寄ってきたメイドたちによって、ラクシスの鼻血は押さえられている。

「ごめんね、レティ姉様。…あはは、あー…止まらない」
「…ラクシス、さま…!」

ここまで取り乱したレティシエリーゼを見たことがあるのだろうか、とサイラスはぼんやりと考える。

完璧令嬢としてのレティシエリーゼも好ましくはあるが、双子の兄としては、こうやって人間らしい一面を見られるのはすごく嬉しい。

だから、思わずにはいられないのだ。

このまま2人が結ばれますように、と。
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