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何故そのような事を申されるのでしょう
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「ナディス!!待てナディス!!」
ナディスが婚約解消を告げて帰宅した後。
父であるガイアスが国王と話し、ミハエルがナディスに今まで言ったあれこれがさすがに問題視され、『そこまで言うのであれば婚約の継続は困難である』と判断された。そしてナディスの発した言葉であったとはいえ、これまでの言動から鑑みるに双方合意であった、という認識の元に婚約は無事解消された。
ナディスは『これでまず一つ目の杞憂は無くなった』と安心しており、また、婚約解消が成されたことで王宮に向かう必要もなくなり、時間の余裕もだいぶ出来た。
とは言っても、既にやらかしてしまった悪行の数々は消えることはなく、学園に行っても一人ぼっち。むしろ『王太子に見限られた哀れな公爵令嬢』と嘲笑われる始末。仕方ない、と諦めてはいるものの、少しだけ傷付きはした。
所属しているAクラスの人達は表立ってナディスを批判する人は少ないが、向けられる視線に含まれるのは明らかな嘲り。こちらも仕方ない、とため息を吐いて移動教室のため廊下を歩いていると、ミハエルに大声で呼び止められた。
「……何でございましょうか」
「お前のせいでわたしは王太子ではなくなったぞ!」
「はぁ」
「どうしてくれるのだ!」
「どうするもこうするも…」
何を考えているのか意味が分からない。
まず、ナディスの身分を考えれば、分かりそうなのだがどうやら王太子、否。元王太子は分からないし理解もしたくなかったようだ。現に、ものすごい顔でナディスのことを睨み付けている。
「殿下とわたくしが婚約をした際の書状をご確認いただければ、どのような状況であったのかご理解頂けるのではないかと思いますが…」
「そんなものは知らん!」
「えぇ…」
ナディスは己に問うた。どうしてコレが盲目になるほど好きだったのか、と…。
良かれと思い、色々なことを手助けした自覚はある。外交の際の通訳や話題作り、普段の学園生活でもノートを貸したり課題を手助けしたり、と。だがそれで、結果的にミハエルはダメ人間になってしまったようだが、人の好意に胡座をかいていた結果とも言える。日頃から努力を厭う人間がどうして国の長になれるというのか、否、なれぬ。
「ともかく、父上は『王太子となりたくば必要な学問を修めること、もしくはナディスとの婚約を再締結すること』だと仰ったのだ!」
「そうですか、それは大変かと存じますが頑張ってくださいませ」
「………え?」
「それでは失礼致します。わたくし、これから移動教室ですので」
「い、いやお前、わたしのことが好きだっただろう?!だから、あれほどまでに執拗に令嬢に嫌がらせをしたのだろう?!ならば、わたしと再婚約できるのは嬉しいはずだ!」
「いえ…ちっとも」
きょとり、とした、心底不思議そうな顔でナディスが言い切れば、みるみるうちに愕然とした表情へと変貌していく。恋心が無くなればナディス自身は実は大変優秀な令嬢であるのだ。そして、一度捨てたものは二度と拾わない。
捨てた恋心が復活することなどまずありえないが、一度目の人生はその『恋心』が無くならなかったが故にミハエルに執着し続けていただけなのだ。
「なん、な……なん、で…」
「ご身分の高いご令嬢と御婚約されればよろしいのでは?ええと…どなたでしたかしら。あぁ、そうだ。クレベリン家のご令嬢は侯爵令嬢でございます。国王陛下に打診されてみてはいかがでしょうか?」
それでは失礼致します、と続けて踵を返し、歩き始める。
へたり込んだような音が聞こえたが、特に気にすることもなくナディスはそのまま振り返ることもせず歩みを進めていたが、もうすぐで教室に到着するという正にその時、次はロベリアがナディスの前に立ちはだかった。
「貴女、どういうつもりですの?!ミハエル殿下を王太子に戻すための条件に己との再婚約をさせようとするだなんて!」
どいつもこいつも!と絶叫しかけたが、必死に堪える。
そしてきゅ、と微妙極まりない表情をしたナディスに、野次馬根性丸出して廊下を眺めていた全員が、目を丸くした。
「貴女も殿下も、大層お花畑思考であるかとお見受け致します。…というか、何故わたくしが再婚約をする必要が?」
「殿下を愛しているからでしょう?!」
「いいえ、今は見事なほどこれっぽっちも。愛など気色の悪いこと…」
「え」
「人前で口付けをする、体をまさぐり合う、わたくしに対しての罵詈雑言の数々、あとは…えぇと、何があったかしら……。ともかく、そのようなふしだらな真似をなさるご令嬢と殿下、お似合いでは御座いませんこと?」
捨てたものに対して容赦はしない。かつて愛していた相手とはいえ、それはもう既に過去のこと。たとえ数日であっても、だ。だからナディスは容赦などしなかった。
「ねぇ、人の婚約者だった人に対してあれだけベタベタくっついて、しなだれかかって、お互いに愛を囁きあって睦みあって、わたくしを馬鹿にするのは楽しかったでしょう。悔しそうな顔をする度にお二人は笑っておられましたものね」
微笑みを浮かべて告げられる内容、しかも野次馬に聞こえるようによくとおる声で言うものだから、更に野次馬は増えていた。鈴なり、という表現が似合うほど目いっぱいに。
「わたくしは確かに家の力を使って殿下の婚約者になっておりましたが、お役目はきちんとこなしておりましたわ。でもお役御免になりましたし、正式に王家との話し合いの結果、婚約解消に至っております。ロベリア様、貴女に殿下は差し上げますのでどうぞお幸せに。では」
優雅に、そして美しくカーテシーを決めてから目と鼻の先にある教室に入る。
ドタバタガタン!と色々な音が響く中、悠然と着席をしてナディスは授業の準備を始めた。なお、廊下に残っていたミハエルとロベリア、両名とも授業には勿論ながら遅刻をし、課題レポートの追加が課せられたとかなんとかだが、ナディスは気にしなかったし、悪口が自分の耳に入らないところでは密やかにぼっち学園生活を満喫していたのだった。
ナディスが婚約解消を告げて帰宅した後。
父であるガイアスが国王と話し、ミハエルがナディスに今まで言ったあれこれがさすがに問題視され、『そこまで言うのであれば婚約の継続は困難である』と判断された。そしてナディスの発した言葉であったとはいえ、これまでの言動から鑑みるに双方合意であった、という認識の元に婚約は無事解消された。
ナディスは『これでまず一つ目の杞憂は無くなった』と安心しており、また、婚約解消が成されたことで王宮に向かう必要もなくなり、時間の余裕もだいぶ出来た。
とは言っても、既にやらかしてしまった悪行の数々は消えることはなく、学園に行っても一人ぼっち。むしろ『王太子に見限られた哀れな公爵令嬢』と嘲笑われる始末。仕方ない、と諦めてはいるものの、少しだけ傷付きはした。
所属しているAクラスの人達は表立ってナディスを批判する人は少ないが、向けられる視線に含まれるのは明らかな嘲り。こちらも仕方ない、とため息を吐いて移動教室のため廊下を歩いていると、ミハエルに大声で呼び止められた。
「……何でございましょうか」
「お前のせいでわたしは王太子ではなくなったぞ!」
「はぁ」
「どうしてくれるのだ!」
「どうするもこうするも…」
何を考えているのか意味が分からない。
まず、ナディスの身分を考えれば、分かりそうなのだがどうやら王太子、否。元王太子は分からないし理解もしたくなかったようだ。現に、ものすごい顔でナディスのことを睨み付けている。
「殿下とわたくしが婚約をした際の書状をご確認いただければ、どのような状況であったのかご理解頂けるのではないかと思いますが…」
「そんなものは知らん!」
「えぇ…」
ナディスは己に問うた。どうしてコレが盲目になるほど好きだったのか、と…。
良かれと思い、色々なことを手助けした自覚はある。外交の際の通訳や話題作り、普段の学園生活でもノートを貸したり課題を手助けしたり、と。だがそれで、結果的にミハエルはダメ人間になってしまったようだが、人の好意に胡座をかいていた結果とも言える。日頃から努力を厭う人間がどうして国の長になれるというのか、否、なれぬ。
「ともかく、父上は『王太子となりたくば必要な学問を修めること、もしくはナディスとの婚約を再締結すること』だと仰ったのだ!」
「そうですか、それは大変かと存じますが頑張ってくださいませ」
「………え?」
「それでは失礼致します。わたくし、これから移動教室ですので」
「い、いやお前、わたしのことが好きだっただろう?!だから、あれほどまでに執拗に令嬢に嫌がらせをしたのだろう?!ならば、わたしと再婚約できるのは嬉しいはずだ!」
「いえ…ちっとも」
きょとり、とした、心底不思議そうな顔でナディスが言い切れば、みるみるうちに愕然とした表情へと変貌していく。恋心が無くなればナディス自身は実は大変優秀な令嬢であるのだ。そして、一度捨てたものは二度と拾わない。
捨てた恋心が復活することなどまずありえないが、一度目の人生はその『恋心』が無くならなかったが故にミハエルに執着し続けていただけなのだ。
「なん、な……なん、で…」
「ご身分の高いご令嬢と御婚約されればよろしいのでは?ええと…どなたでしたかしら。あぁ、そうだ。クレベリン家のご令嬢は侯爵令嬢でございます。国王陛下に打診されてみてはいかがでしょうか?」
それでは失礼致します、と続けて踵を返し、歩き始める。
へたり込んだような音が聞こえたが、特に気にすることもなくナディスはそのまま振り返ることもせず歩みを進めていたが、もうすぐで教室に到着するという正にその時、次はロベリアがナディスの前に立ちはだかった。
「貴女、どういうつもりですの?!ミハエル殿下を王太子に戻すための条件に己との再婚約をさせようとするだなんて!」
どいつもこいつも!と絶叫しかけたが、必死に堪える。
そしてきゅ、と微妙極まりない表情をしたナディスに、野次馬根性丸出して廊下を眺めていた全員が、目を丸くした。
「貴女も殿下も、大層お花畑思考であるかとお見受け致します。…というか、何故わたくしが再婚約をする必要が?」
「殿下を愛しているからでしょう?!」
「いいえ、今は見事なほどこれっぽっちも。愛など気色の悪いこと…」
「え」
「人前で口付けをする、体をまさぐり合う、わたくしに対しての罵詈雑言の数々、あとは…えぇと、何があったかしら……。ともかく、そのようなふしだらな真似をなさるご令嬢と殿下、お似合いでは御座いませんこと?」
捨てたものに対して容赦はしない。かつて愛していた相手とはいえ、それはもう既に過去のこと。たとえ数日であっても、だ。だからナディスは容赦などしなかった。
「ねぇ、人の婚約者だった人に対してあれだけベタベタくっついて、しなだれかかって、お互いに愛を囁きあって睦みあって、わたくしを馬鹿にするのは楽しかったでしょう。悔しそうな顔をする度にお二人は笑っておられましたものね」
微笑みを浮かべて告げられる内容、しかも野次馬に聞こえるようによくとおる声で言うものだから、更に野次馬は増えていた。鈴なり、という表現が似合うほど目いっぱいに。
「わたくしは確かに家の力を使って殿下の婚約者になっておりましたが、お役目はきちんとこなしておりましたわ。でもお役御免になりましたし、正式に王家との話し合いの結果、婚約解消に至っております。ロベリア様、貴女に殿下は差し上げますのでどうぞお幸せに。では」
優雅に、そして美しくカーテシーを決めてから目と鼻の先にある教室に入る。
ドタバタガタン!と色々な音が響く中、悠然と着席をしてナディスは授業の準備を始めた。なお、廊下に残っていたミハエルとロベリア、両名とも授業には勿論ながら遅刻をし、課題レポートの追加が課せられたとかなんとかだが、ナディスは気にしなかったし、悪口が自分の耳に入らないところでは密やかにぼっち学園生活を満喫していたのだった。
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