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嫁はいない、使用人もいない、ズタボロな家で
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「何なのですか……」
ちょっと出かけて帰宅したセレスティンが見た、ある意味惨劇。
今まで働いてくれていた使用人はいない。
何故かほぼ全員が新顔になっているうえに、執事長がセレスティンを見た途端に発した言葉も気になる。
「大奥様、これまでお世話になりました」
「……は?」
まるで、根性の別れのようなセリフを何故、今ここで。
ぎょっと目を丸くするセレスティンと、セレスティンの専属執事とその他使用人は、ポカンとすることしかできなかった。
どうしてこんな事態になっているのか、しかしそんなことよりももう一つ気になることが。
「……あの嫁は結局どこにいるの?」
「ミスティア様は、ご実家に帰られました」
「はぁ!?」
嫁いだからには、実家はないものと思えと言われてきたセレスティンにとって、ミスティアが実家に帰るということはあり得ない行動だった。
ミスティアの帰る先など、ここしかないのに、と愕然としているセレスティンに対して執事長はさらに追い打ちをかけてきた。
「実家、ですって……?」
セレスティンの持っている扇が、みし、と嫌な音を立てた。
ぎちぎちと強く握ったせいか、妙な形へと変形している扇が、今にもへし折れそうになっている。
「あのバカ嫁……! 何を身勝手なことを!」
「大奥様、ですが……此度、当家の使用人がいなくなったのは、大奥様の入れ知恵も原因しております」
「はぁ? 何が悪いというのですか。決して何も悪いことなんて」
「ミスティア様の装飾品の盗難についてです」
「…………ああ」
そういえば、そんなこともあったな、とセレスティンは鼻で笑った。
嫁の持ち物はこの家のものなのだから、何をしようと問題ない。だって自分もそういわれたのだから、ミスティアにだって同じことをしてやろう、そんな単純な思考回路だったのだ。
しかし、それこそが悲劇を生んだ。
「大奥様、冷静にお考えくださいね。それは、単なる窃盗です」
自分の考えが理解できているといわんばかりに、執事長は先回りで告げる。
セレスティンの怒りに触れようとも、もう関係なくなるのだから言えることは言っておかないといけない。それが、執事長としての最後の仕事になるだろう。
「何を言っているの、あの子たちは盗っただけでしょう?」
「……売り払ったそうです」
「あら、そう」
たかがそれくらい、と思ったセレスティンだったが、すぐにはっとして執事長へと振り返った。
「まって、……噓でしょう?」
「大奥様がこう言ったのでしょう? 『家族なんだから、何をしてもいい』とか」
「言った、けれど」
まさか本当に売り払うなんて、と続けたセレスティンだったが、雇い主が言えばある意味絶対、とでも思っていた彼らは疑うことなく売り払った。
その結果、彼らは揃ってとても大切な体の一部を失うという事態になってしまったわけなのだが。
「彼らは……どうしたの」
「ご存じでしょう? 『使用人としての罰』を受けましたので、働けないと出ていきました」
「そ、んな……!」
「ああ、大奥様! お気を確かに!」
罰の内容を知っているだけに、セレスティンはふらりとよろめいて、その場にへたり込んでしまった。
それをやった人の名前を聞いて、わなわなと震え始めるが、結局は実家頼みでしかこちらへ復讐できないんだ、と思ってしまったために、セレスティンは笑い始める。
感情が何とも忙しいお人だ、と執事長はこっそりため息を吐いていたが、どうやらそれには気づいていないセレスティンは、にた、と笑みを深める。
「まぁいいわ、こちらからもちょっとやり返さなければね」
「大奥様……それは……」
「母上……」
「おばあさま……」
ふらふらと歩いてきたリカルドとランディは、セレスティンの顔を見ても力なく笑うだけだった。
それを見て、セレスティンは涙を目にためて慌てて二人へと駆け寄った。
「まぁまぁ二人とも、そんなに憔悴して……!」
「……手紙を送っておりましたが、一体どこで何をしていたのですか!」
「ちょ、ちょっとリカルド、何もそんなに怒らなくても……」
顔を見るなり怒鳴りつけてくる我が子に、セレスティンは不満そうな顔で言うが、ランディまでもがセレスティンに対して怒鳴りつけてきたのだ。
「おばあさまのせいだ!」
「ちょ、ちょっとランディちゃん!?」
ぼろぼろと涙をこぼしている孫を見て、セレスティンは慌てて駆け寄って抱きしめようとするが、その手を思いきり払われてしまった。
「ランディちゃん……!?」
「嘘つき! 母様、役立たずなんかじゃないじゃないか!」
ずっと母は役立たず、と言われ続け、それを信じ切ってしまっていたランディは、己がやらかしたことをい今更ながら悔いている、らしい。
それを信じられない、と見つめるセレスティンの間で、すでに溝が深くできていることを、セレスティンだけが今はまだ気づいていかなったのだ。
ちょっと出かけて帰宅したセレスティンが見た、ある意味惨劇。
今まで働いてくれていた使用人はいない。
何故かほぼ全員が新顔になっているうえに、執事長がセレスティンを見た途端に発した言葉も気になる。
「大奥様、これまでお世話になりました」
「……は?」
まるで、根性の別れのようなセリフを何故、今ここで。
ぎょっと目を丸くするセレスティンと、セレスティンの専属執事とその他使用人は、ポカンとすることしかできなかった。
どうしてこんな事態になっているのか、しかしそんなことよりももう一つ気になることが。
「……あの嫁は結局どこにいるの?」
「ミスティア様は、ご実家に帰られました」
「はぁ!?」
嫁いだからには、実家はないものと思えと言われてきたセレスティンにとって、ミスティアが実家に帰るということはあり得ない行動だった。
ミスティアの帰る先など、ここしかないのに、と愕然としているセレスティンに対して執事長はさらに追い打ちをかけてきた。
「実家、ですって……?」
セレスティンの持っている扇が、みし、と嫌な音を立てた。
ぎちぎちと強く握ったせいか、妙な形へと変形している扇が、今にもへし折れそうになっている。
「あのバカ嫁……! 何を身勝手なことを!」
「大奥様、ですが……此度、当家の使用人がいなくなったのは、大奥様の入れ知恵も原因しております」
「はぁ? 何が悪いというのですか。決して何も悪いことなんて」
「ミスティア様の装飾品の盗難についてです」
「…………ああ」
そういえば、そんなこともあったな、とセレスティンは鼻で笑った。
嫁の持ち物はこの家のものなのだから、何をしようと問題ない。だって自分もそういわれたのだから、ミスティアにだって同じことをしてやろう、そんな単純な思考回路だったのだ。
しかし、それこそが悲劇を生んだ。
「大奥様、冷静にお考えくださいね。それは、単なる窃盗です」
自分の考えが理解できているといわんばかりに、執事長は先回りで告げる。
セレスティンの怒りに触れようとも、もう関係なくなるのだから言えることは言っておかないといけない。それが、執事長としての最後の仕事になるだろう。
「何を言っているの、あの子たちは盗っただけでしょう?」
「……売り払ったそうです」
「あら、そう」
たかがそれくらい、と思ったセレスティンだったが、すぐにはっとして執事長へと振り返った。
「まって、……噓でしょう?」
「大奥様がこう言ったのでしょう? 『家族なんだから、何をしてもいい』とか」
「言った、けれど」
まさか本当に売り払うなんて、と続けたセレスティンだったが、雇い主が言えばある意味絶対、とでも思っていた彼らは疑うことなく売り払った。
その結果、彼らは揃ってとても大切な体の一部を失うという事態になってしまったわけなのだが。
「彼らは……どうしたの」
「ご存じでしょう? 『使用人としての罰』を受けましたので、働けないと出ていきました」
「そ、んな……!」
「ああ、大奥様! お気を確かに!」
罰の内容を知っているだけに、セレスティンはふらりとよろめいて、その場にへたり込んでしまった。
それをやった人の名前を聞いて、わなわなと震え始めるが、結局は実家頼みでしかこちらへ復讐できないんだ、と思ってしまったために、セレスティンは笑い始める。
感情が何とも忙しいお人だ、と執事長はこっそりため息を吐いていたが、どうやらそれには気づいていないセレスティンは、にた、と笑みを深める。
「まぁいいわ、こちらからもちょっとやり返さなければね」
「大奥様……それは……」
「母上……」
「おばあさま……」
ふらふらと歩いてきたリカルドとランディは、セレスティンの顔を見ても力なく笑うだけだった。
それを見て、セレスティンは涙を目にためて慌てて二人へと駆け寄った。
「まぁまぁ二人とも、そんなに憔悴して……!」
「……手紙を送っておりましたが、一体どこで何をしていたのですか!」
「ちょ、ちょっとリカルド、何もそんなに怒らなくても……」
顔を見るなり怒鳴りつけてくる我が子に、セレスティンは不満そうな顔で言うが、ランディまでもがセレスティンに対して怒鳴りつけてきたのだ。
「おばあさまのせいだ!」
「ちょ、ちょっとランディちゃん!?」
ぼろぼろと涙をこぼしている孫を見て、セレスティンは慌てて駆け寄って抱きしめようとするが、その手を思いきり払われてしまった。
「ランディちゃん……!?」
「嘘つき! 母様、役立たずなんかじゃないじゃないか!」
ずっと母は役立たず、と言われ続け、それを信じ切ってしまっていたランディは、己がやらかしたことをい今更ながら悔いている、らしい。
それを信じられない、と見つめるセレスティンの間で、すでに溝が深くできていることを、セレスティンだけが今はまだ気づいていかなったのだ。
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