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一方その頃ミスティアは
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かちゃ、と食器を置くミスティア。
寝込んでいた割に普通に食欲はあるし、思っていたより何事もなく食事も出来ている。
もしかしたら、消化にいい柔らかいものを中心にした方が……と料理人が配慮して、あれこれ出してみたのだが食べ終わったミスティアはひと言。
「……あの、もう少し食べたいのだけれど……」
と、とても申し訳なさそうに告げた。
あれ、と皆が首を傾げている中、ペイスグリルやステラはまじまじとミスティアを観察していた。
「普通の回復ではございませんわよね、これって……」
「恐らく、何者かがミスティアに力を与えたんだろう、寝込んでいる時に何かがやってきた気配があった」
あっという間にミスティアの熱を下げ、体調もすっかり回復させるくらいに力の強い存在。
間違いなく人ではないことは確かなのだが、それでは何か、というとよく分からない、というのが現状であった。
「……まさか……」
ステラは一つの仮説に行き当たるが、そんなわけない、と否定をした。
「……ステラ?」
「いいえ……わたくしの気のせいだと、思いたいといいますか……」
難しい顔をしているステラを覗き込んだペイスグリルだが、妹が少しずつ食事をまた取っているところを見て、ほっとひと息ついた。
「今は、置いておこう。しかし……」
「えぇ……」
ミスティアが、野菜を煮込んで味付けし、まだ具材は胃に負担がかかるだろうと思われたから上澄みだけを入れてきたスープを飲んだときの反応。
『……おいしい』
一口飲んで、ぽと、と涙を零したのだ。
「仮にも伯爵家だよな、嫁ぎ先は」
「無理矢理に結ばれた婚姻関係だとしても……」
まともなものを食べていないかのような反応に、ミスティアの周りを飛んでいる精霊達は良かった、良かった、と皆喜んでいた。
あまり聞きたくはないけれど、と思ったからステラはこっそり精霊に聞いたところ……。
【ミスティア、人間以下の扱いされてた】
聞きたくなかった答えに、思わず夫妻はため息をついた。
それを使用人達に伝えると、彼らはぎゅっと歯を食いしばってから無理やりながらに笑みを浮かべたのだ。
『だったら、ミスティア様にはこれから幸せを取り戻してもらえば良いんですよ!』
料理長の力強い言葉に、全員が頷いた。
出戻りに対する風当たりはとても強いことに変わりは無い。だが、ミスティアには他の人にない特技とも言えるものがある。
まず、精霊がいうところの『愛し子』という存在であること。
これを活かせば、恐らく各所にある属性ごとの神殿の神子として受け入れてもらえるだろうし、ミスティアにとって最善の環境になるはずだ。
それを伝えると、間違いなく精霊達は早く来い!とはしゃぎ回るだろうからまだ伝えていない。いいや、もし知っているとするならば、彼らの主が気を使ってくれているのかもしれない。
しかし今、そんなことを考えるよりも、喜ぶべきはミスティアの回復。
「あんな家に嫁がせるんじゃなかったな……」
「もし、嫁いでいなかったら……ミスティアちゃんは、精霊の神子としてもっともっと活躍していたかもしれません。……今からでも遅くありませんわ! ただ、ミスティアちゃんの意思を確認しないと、ですわよ」
「あぁ」
回復したミスティアの今後も、家族からすればとても大切なもの。
もうあんな家に関わらせない。
ランディが息子だとはいえ、あれを引き取って育てる、と言われたら家族総出で反対するだろう。
一番優先すべきはミスティアの健康、メンタルにおいても、体の面でも、だ。
「ミスティア」
「はい?」
「何かやりたいことはあるか?」
「やりたい、こと……」
兄に問われ、ミスティアは目をぱちくり、とさせる。
やりたいこと、と言われても思い付かない。
嫁ぎ先ではやりたいことがあるか、だなんて聞かれたことは無かったし、ミスティアの役割として与えられていたのは跡取りを産むための『母』としてのものだけ。
あとは、実家からの資金援助。
ある程度それらが終わった、と彼らに判断されてからは邪魔者扱いしかされてこなかった。
「(やりたいこと、って……何かしら……)」
「……ミスティアちゃん……」
真剣な顔で考え込んでしまったミスティアを、ステラは不安そうに見つめる。
でも、答えは急かしたりなんかしない。
「……ねぇ、ミスティアちゃん」
「ステラ姉さま」
体調を考慮してベッドにいたまま食事をとっていたミスティアに、ステラはそっと膝をついて寄り添った。
「お散歩、しない?」
「散歩……ですか」
「庭園のお花が、とても綺麗に咲いているの。空気の入れ替えはしているけれど、外の空気も吸わなくちゃ!」
明るく提案してくれた内容に、ミスティアは微笑んで頷いた。
「(……どれくらいぶりだろう、意見をきかれる、だなんて……)」
あたたかさに、胸がいっぱいになると同時にミスティアは何故だか思いきり泣きたい気持ちまでも、溢れていたのだった。
寝込んでいた割に普通に食欲はあるし、思っていたより何事もなく食事も出来ている。
もしかしたら、消化にいい柔らかいものを中心にした方が……と料理人が配慮して、あれこれ出してみたのだが食べ終わったミスティアはひと言。
「……あの、もう少し食べたいのだけれど……」
と、とても申し訳なさそうに告げた。
あれ、と皆が首を傾げている中、ペイスグリルやステラはまじまじとミスティアを観察していた。
「普通の回復ではございませんわよね、これって……」
「恐らく、何者かがミスティアに力を与えたんだろう、寝込んでいる時に何かがやってきた気配があった」
あっという間にミスティアの熱を下げ、体調もすっかり回復させるくらいに力の強い存在。
間違いなく人ではないことは確かなのだが、それでは何か、というとよく分からない、というのが現状であった。
「……まさか……」
ステラは一つの仮説に行き当たるが、そんなわけない、と否定をした。
「……ステラ?」
「いいえ……わたくしの気のせいだと、思いたいといいますか……」
難しい顔をしているステラを覗き込んだペイスグリルだが、妹が少しずつ食事をまた取っているところを見て、ほっとひと息ついた。
「今は、置いておこう。しかし……」
「えぇ……」
ミスティアが、野菜を煮込んで味付けし、まだ具材は胃に負担がかかるだろうと思われたから上澄みだけを入れてきたスープを飲んだときの反応。
『……おいしい』
一口飲んで、ぽと、と涙を零したのだ。
「仮にも伯爵家だよな、嫁ぎ先は」
「無理矢理に結ばれた婚姻関係だとしても……」
まともなものを食べていないかのような反応に、ミスティアの周りを飛んでいる精霊達は良かった、良かった、と皆喜んでいた。
あまり聞きたくはないけれど、と思ったからステラはこっそり精霊に聞いたところ……。
【ミスティア、人間以下の扱いされてた】
聞きたくなかった答えに、思わず夫妻はため息をついた。
それを使用人達に伝えると、彼らはぎゅっと歯を食いしばってから無理やりながらに笑みを浮かべたのだ。
『だったら、ミスティア様にはこれから幸せを取り戻してもらえば良いんですよ!』
料理長の力強い言葉に、全員が頷いた。
出戻りに対する風当たりはとても強いことに変わりは無い。だが、ミスティアには他の人にない特技とも言えるものがある。
まず、精霊がいうところの『愛し子』という存在であること。
これを活かせば、恐らく各所にある属性ごとの神殿の神子として受け入れてもらえるだろうし、ミスティアにとって最善の環境になるはずだ。
それを伝えると、間違いなく精霊達は早く来い!とはしゃぎ回るだろうからまだ伝えていない。いいや、もし知っているとするならば、彼らの主が気を使ってくれているのかもしれない。
しかし今、そんなことを考えるよりも、喜ぶべきはミスティアの回復。
「あんな家に嫁がせるんじゃなかったな……」
「もし、嫁いでいなかったら……ミスティアちゃんは、精霊の神子としてもっともっと活躍していたかもしれません。……今からでも遅くありませんわ! ただ、ミスティアちゃんの意思を確認しないと、ですわよ」
「あぁ」
回復したミスティアの今後も、家族からすればとても大切なもの。
もうあんな家に関わらせない。
ランディが息子だとはいえ、あれを引き取って育てる、と言われたら家族総出で反対するだろう。
一番優先すべきはミスティアの健康、メンタルにおいても、体の面でも、だ。
「ミスティア」
「はい?」
「何かやりたいことはあるか?」
「やりたい、こと……」
兄に問われ、ミスティアは目をぱちくり、とさせる。
やりたいこと、と言われても思い付かない。
嫁ぎ先ではやりたいことがあるか、だなんて聞かれたことは無かったし、ミスティアの役割として与えられていたのは跡取りを産むための『母』としてのものだけ。
あとは、実家からの資金援助。
ある程度それらが終わった、と彼らに判断されてからは邪魔者扱いしかされてこなかった。
「(やりたいこと、って……何かしら……)」
「……ミスティアちゃん……」
真剣な顔で考え込んでしまったミスティアを、ステラは不安そうに見つめる。
でも、答えは急かしたりなんかしない。
「……ねぇ、ミスティアちゃん」
「ステラ姉さま」
体調を考慮してベッドにいたまま食事をとっていたミスティアに、ステラはそっと膝をついて寄り添った。
「お散歩、しない?」
「散歩……ですか」
「庭園のお花が、とても綺麗に咲いているの。空気の入れ替えはしているけれど、外の空気も吸わなくちゃ!」
明るく提案してくれた内容に、ミスティアは微笑んで頷いた。
「(……どれくらいぶりだろう、意見をきかれる、だなんて……)」
あたたかさに、胸がいっぱいになると同時にミスティアは何故だか思いきり泣きたい気持ちまでも、溢れていたのだった。
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