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精霊王

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【ほうほう、我が愛し子が】
【そうなんです~】

 きゃっきゃと嬉しそうに報告している風の精霊と、報告を聞いているとある人。

【王、ミスティアに祝福をあげて~?】
【そうだよ、ミスティアすっごく良い子!】

 まるでおじいちゃんにnおねだりをするかのように、精霊たちは『王』と呼ぶ存在におねだりをする。

【そうだな……愛し子の存在は感知していた。そなたらがそこまで大好きで、愛おしんでいるならば我は祝福でも何でもしてやろう】
【やーーったーー!!】

 王の声に精霊たちの目が輝く。
 善は急げー! とか、ミスティアに伝えに行こうー! とかはしゃぎながら、精霊たちはふっと姿を消した。
 精霊界から人間界に一気に向かったのだろう、と精霊王は微笑む。

 しかし、愛し子の存在は何となく分かっていたものの、途中でかき消えそうになったことがある。

 はて、これはどうしたことかと思っていたら、また最近復活したらしい。
 ああそうか、愛し子は生きていたのか、良かった。
 そう思ったのだが、どうにもこうにも妙な感覚がぬぐえない。

【我も行くか】

 よっこらせ、と年寄りくさい掛け声とともに精霊王は立ち上がった。

【あげられるのは風の祝福になろうが……愛し子は何をどうやったとしても可愛い。だが、妙な思考を持っているならば祝福は出来ん。……にしても精霊たちがあそこまではしゃぐとは】

 はっはっは、と笑ってふっと精霊王も姿を消した。
 向かった先は、ミスティアが避難、もとい帰った先であるサイフォス家。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【ミスティアー!!】
【ミスティア元気!? ミスティアあそぼ!】

 勝手知ったる何とやら、精霊たちは精霊界からミスティアの部屋に現れる。

【あれ……ミスティア?】
【なんか……部屋暗い?】

 あれ、あれ、と精霊たちは不安そうに部屋の中を飛んでいたが、ハッと気づいて慌ててそちらへ飛んでいく。

【ミスティア!?】

 ベットで横たわり、ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返しているミスティアが、彼らの視界に入った。
 どうしてだ、と思っていたが、そういえばミスティアが倒れていたような……と精霊たちは淡々し始める。

【どうしよう、どうしよう】
【ミスティア、元気ない】

 めそ、と表情を曇らせた精霊たちだったが、とある精霊がぽつりと無感情に呟く。

【あいつらの、せいかなぁ】

 ざわ、と一気に精霊たちが殺気を放つ。

 そうだ、あいつらのせいでミスティアは精霊との交流が出来なくなっていた。
 一時的とはいえ、自分たちの声が全くミスティアに届かず、いつも楽しく会話していたというのに存在すら感知してくれなくなったときの寂しさがすごかった。

 それの原因は、まだ何もダメージを受けていない。何も償いをしていない。

「…………あれ、精霊ちゃんたち…………?」

 もういっそ殺してやろうか、と思ったところで、ふっとミスティアが目を覚ました。

【……ミスティア!?】

「どうしたの、みんなして……そんなに怖いお顔で」

 弱弱しい声だが、しっかりと自分たちを見てくれている。今は殺気とかとりあえず仕舞え!と全員一致で慌ててミスティアのところへ飛んでいく。

「あらあら……あまえ、っこ……うぶっ」

【ミスティアーー!!】

 なお、普段ミスティアにくっついているのは多くても精霊三人とかその程度。
 今は精霊界から来た面々もいるせいで、何と総勢十人超え。しかも全員何故か頭部に集中している。

「精霊ちゃんたち、あの、頭は、あの」

【あっつ!】
【ミスティアあつい!】

「熱があるので、ちょーっと声を……」

【あわわ】

 揃って『しー!』と黙ろうね!のジェスチャーをしている精霊たちは可愛いのだが、ミスティアはそこまで言って、またへにょりとダウンしてしまう。

【~~~!】

 ミスティア! と叫びたいが叫べない。
 どうしよう、どうしようと精霊たちがオロオロしていると、ふわりと大きな気配を感じる。そちらを見れば、彼らの王たる存在がひょっこりと姿を現しているではないか。

【王ー!】
【ミスティアがー!】

 そう言いながらあわあわとミスティアの方を指させば、ふむ、と考えてから精霊王はミスティアの額に手を当てる。熱いな、と呟いてから負担にならない程度の微風を吹かせつつ、風の温度を少し下げる。

「……きもち、い……」

 発熱していることで、熱くてつらかったのだな、と苦笑いをする精霊王に、精霊たちはおずおずと声をかけた。

【ミスティア、大丈夫?】
【大丈夫だ。だが、そなたらはうるさいので我と帰るぞ】
【あー】

 やーだー!とじたばたする精霊たちだが、愛し子の体調が一番大事。
 素直に精霊界に連行される精霊たちはミスティアが早く元気になりますように、と祈りを捧げる。その祈りと、冷風でほんの少しでもましになったのか、ミスティアの顔色は遥かに良くなっていた。

【愛し子よ、早く治るよう。また来る】

 しばらくの間、冷風が残るように細工をしてから精霊王たちは元の世界に一旦帰った。

 その数日後、ミスティアはぱっちりと目を覚ますこととなる。
 寝込む前からいうと、とんでもなく良くなっていることに加えて体がとてつもなく軽い。

「…………あれ?」

 体を起こせばごきごきと嫌な音が鳴るが、それ以外の異常と言えば空腹くらい。

「とってもスッキリしてる……?」

 部屋でミスティアは、一人呟いた。
 その直後、泣きはらしたステラを始め、使用人たちまで揃ってミスティアの部屋になだれ込んでくることとなったのだが、それはまた別の話である。
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