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おはようございます
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「え?」
「ですから、奥様がお目覚めになったんです!」
メイドがよろよろとしながら駆け込んできた部屋でくつろいでいたランディとリカルドは、まさか、と笑おうとしたがメイドのボロボロっぷりに本当なのか…?と訝しげな顔になった。
「あの人、起きたんですか? 父さん、でも眠り香もあわせて焚いてたんじゃ……?」
「生かして世話ができる程度には焚いていた」
「お香が切れたんですかね?」
「……もう一度焚くか」
そう言ってリカルドに続いて立ち上がったランディだったが、扉がけ破られたことで思わず身構えてしまった。
「なんだ!?」
「あらどうも、とりあえずの旦那様」
とりあえず、という単語にリカルドはぎょっとする。
これまでのミスティアは決してそんなことは言わなかったし、ランディを産むまでは確かに彼女のことも愛していたのだが、後継ぎができてからは愛する対象をほんの少し変えただけ。
だから、そんな風に言われることがとんでもなく心外だった。
「まて、ミスティア」
「待ちませんわ。まずはおはようございます、そして離縁してくれます?」
「……は!?」
ゆがんだ形とはいえ、ミスティアのことはしっかり愛しているのに、とリカルドは愕然とする。
さらに、そんなことを母親が言うなんて、とランディも愕然としていた。
「え、おかあさま」
「人のことをいらないとか言い切った子供なんて、我が子だと思わないようにしておきましたので悪しからず」
あまりにも当然のことのように言ってしまうと、ミスティアは無表情になる。
わずかに浮かべていた微笑みだったのに、この二人に見せたりなんかするものか、ともう心に決めてしまっているから、情けなんてかけるわけもないのだ。
「精霊たちに聞きました。人体に悪影響しかない眠り香を焚いて私をずっと身動きができないようにしていたこと、それと」
にこ、とミスティアは口元だけ笑みを浮かべる。
目は一切、笑っていない。
「精霊眼をご丁寧に封印してくれるだなんて、なんて馬鹿げたことを」
言い終わるか、というくらいで、ミスティアの周りにふわりと風の精霊たちが現れた。
【コイツらだ】
【ミスティアを母に持ちながら精霊眼の適正も何もない出来損ない】
精霊語で、風の精霊たちはひそひそと話しているが、二人には何やらよくわからない『音』にしか聞こえていないので、困惑している。
「な、なに?」
「なんなんだ?」
「ああ、あなたたちは聞こえないんですっけ。いいですよ、聞かなくて。だめですよ、無駄なことしちゃ」
【いっけなーい】
【ミスティアだけにわかってもらえればいいもんね~】
けたけたと楽しそうに笑ってから、精霊たちは消える直前にわざと人の言葉でこう告げた。
『さっさとミスティアを開放しろ』
悪意しかこもっていない目と、雰囲気。
だが、リカルドからすれば自分はミスティアの夫なのに、という思いがある。
ランディだって、自分は母の息子なのにそこまで言われる筋合いはないと思っている。
だが、ミスティアからすれば、どの面下げてこの馬鹿二人はそんなことを思っているのか、というものだ。
精霊たちから聞いた話は本当なのだろう、と思える。
彼らがあの部屋で焚かれたお香について教えてくれてから、この人たちへの情なんてものはさっくりと消え失せた。自分が産んだ子供であろうとも、親の命を何だと思っているのだろうか。
「……あなた方が私にやったこと、ざっくりと精霊たちから聞きましたので」
「あ……」
さぁ、とリカルドの顔色が悪くなった。
「そんな状況なのにもかかわらず、あなた方は私のことを母とか愛しい妻とか、よくもまあ言えますわね。お顔の皮、どれだけ分厚いのかしら」
心底軽蔑した声でミスティアがそう告げれば、どうしてかランディはショックを受けた顔をしている。
「私、これから実家に帰るので、さっさと離縁いたしましょう。婚姻関係を続けている必要なんかありませんものね」
はー、とつまらなさそうに言って、ミスティアは腕組みをする。
目の前でショックを受けている夫、そして息子を見ても、何の感情も動かなかった。
「ですから、奥様がお目覚めになったんです!」
メイドがよろよろとしながら駆け込んできた部屋でくつろいでいたランディとリカルドは、まさか、と笑おうとしたがメイドのボロボロっぷりに本当なのか…?と訝しげな顔になった。
「あの人、起きたんですか? 父さん、でも眠り香もあわせて焚いてたんじゃ……?」
「生かして世話ができる程度には焚いていた」
「お香が切れたんですかね?」
「……もう一度焚くか」
そう言ってリカルドに続いて立ち上がったランディだったが、扉がけ破られたことで思わず身構えてしまった。
「なんだ!?」
「あらどうも、とりあえずの旦那様」
とりあえず、という単語にリカルドはぎょっとする。
これまでのミスティアは決してそんなことは言わなかったし、ランディを産むまでは確かに彼女のことも愛していたのだが、後継ぎができてからは愛する対象をほんの少し変えただけ。
だから、そんな風に言われることがとんでもなく心外だった。
「まて、ミスティア」
「待ちませんわ。まずはおはようございます、そして離縁してくれます?」
「……は!?」
ゆがんだ形とはいえ、ミスティアのことはしっかり愛しているのに、とリカルドは愕然とする。
さらに、そんなことを母親が言うなんて、とランディも愕然としていた。
「え、おかあさま」
「人のことをいらないとか言い切った子供なんて、我が子だと思わないようにしておきましたので悪しからず」
あまりにも当然のことのように言ってしまうと、ミスティアは無表情になる。
わずかに浮かべていた微笑みだったのに、この二人に見せたりなんかするものか、ともう心に決めてしまっているから、情けなんてかけるわけもないのだ。
「精霊たちに聞きました。人体に悪影響しかない眠り香を焚いて私をずっと身動きができないようにしていたこと、それと」
にこ、とミスティアは口元だけ笑みを浮かべる。
目は一切、笑っていない。
「精霊眼をご丁寧に封印してくれるだなんて、なんて馬鹿げたことを」
言い終わるか、というくらいで、ミスティアの周りにふわりと風の精霊たちが現れた。
【コイツらだ】
【ミスティアを母に持ちながら精霊眼の適正も何もない出来損ない】
精霊語で、風の精霊たちはひそひそと話しているが、二人には何やらよくわからない『音』にしか聞こえていないので、困惑している。
「な、なに?」
「なんなんだ?」
「ああ、あなたたちは聞こえないんですっけ。いいですよ、聞かなくて。だめですよ、無駄なことしちゃ」
【いっけなーい】
【ミスティアだけにわかってもらえればいいもんね~】
けたけたと楽しそうに笑ってから、精霊たちは消える直前にわざと人の言葉でこう告げた。
『さっさとミスティアを開放しろ』
悪意しかこもっていない目と、雰囲気。
だが、リカルドからすれば自分はミスティアの夫なのに、という思いがある。
ランディだって、自分は母の息子なのにそこまで言われる筋合いはないと思っている。
だが、ミスティアからすれば、どの面下げてこの馬鹿二人はそんなことを思っているのか、というものだ。
精霊たちから聞いた話は本当なのだろう、と思える。
彼らがあの部屋で焚かれたお香について教えてくれてから、この人たちへの情なんてものはさっくりと消え失せた。自分が産んだ子供であろうとも、親の命を何だと思っているのだろうか。
「……あなた方が私にやったこと、ざっくりと精霊たちから聞きましたので」
「あ……」
さぁ、とリカルドの顔色が悪くなった。
「そんな状況なのにもかかわらず、あなた方は私のことを母とか愛しい妻とか、よくもまあ言えますわね。お顔の皮、どれだけ分厚いのかしら」
心底軽蔑した声でミスティアがそう告げれば、どうしてかランディはショックを受けた顔をしている。
「私、これから実家に帰るので、さっさと離縁いたしましょう。婚姻関係を続けている必要なんかありませんものね」
はー、とつまらなさそうに言って、ミスティアは腕組みをする。
目の前でショックを受けている夫、そして息子を見ても、何の感情も動かなかった。
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