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第一章

一つの夢

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俺の名前は高野昌隆(こうのまさたか)
都内の高校に通うごく普通の高校3年生である。3年生ともなれば進路のことを真剣に考えなければならい時期なのである。だがしかし、それはやりたいことがある人たちが目標に向かって一生懸命に努力しているもしくは有名大学に合格して自慢したい人もいるかもしれない。どちらにしても「夢」があることは素晴らしいことだと思うからその行き着く先がなんであれ否定はするつもりはないかといって特段肯定するわけでもなく結果自分が楽しく生きているならいいと思う。周りの人に迷惑を掛けないが前提となる。
俺はというと生憎そのどちらにも該当せず特にやりたいことがない派の人間である。よく聞く話は高校卒業して大学なり専門学校へ入学して資格を取得して新卒で就きたい仕事である程度の年数働いてみるものの年を重ねる毎に価値観が変わっていきある程度の資金が貯まったら大人になってから再び大学や専門学校へ入学し別の仕事へ就くための勉強を始めることも少なくないのだとか、
だから今この最後の1年間が正念場だとは正直思わないし思いたくもない。それはある意味自分自身の将来に自ら「呪い」をかけているようなものであるからである。
要するにその時々で幸せと感じることは変動していくため無理して一本に絞り込む必要はないということである。そして時には人の意見に耳を傾けてみることも大切だと思える。案外自分自身以上に客観的に見られると得意不得意や好きなこと等よく把握している人が身近にいる可能性があるということである。人は1人で生きていくことはできずそれは物理的なことだけではなく「夢」を追い求めていくためのヒントともなり得るということである。
カッコつけて色々と語ってみたがこの世には「夢」がそこらじゅうに転がっているのが真実であると考えられる。なら俺にとっての「夢」とはいったい何なのだろうかこんなに思慮深く色々考える割に自分自身に関しては案外興味がないのかもしれない。そんな人は案外世の中多いのかもしれない。
5月半ばの平日。昼食を終えずっと頭の中でそんなことを考えていると「昌隆!サッカーやろうぜ!」親友の中山大樹(なかやまだいき)からのいつも通りの誘いであった。それを上の空で「へーい」と返事しグラウンドへ出た。
夢、夢、夢、
頭の中でずっと「夢」に対する思考がよぎりサッカーどころではなく注意力が散漫となりうっかり転けてしまったのである。
「昌隆何やってんだよー、大丈夫か?お前今日変だぞ?あ、変なのはいつものことだけど今日はいつにも増して変だぞ?」
「もうツッコむのも面倒だよ、少し考え事してただけだよ。悪いけど気分優れないから俺帰るから午後の授業ノート取って後で写真で送っておいて~、じゃあな」
そう言い残し俺はそそくさと教室に戻り荷物をまとめ学校を後にした。
普段は人混みが苦手で学校が終わったらまっすぐ家に帰りお気に入りの漫画を読めながらゴロゴロするのが日課であるが今日はわざわざ早退した訳だから何か普段と違う行動をしてみようと考えた。せっかくだから渋谷にでも行こうとふと思いぶらりと寄ってみることにした。久々に来てみたが圧倒的な都会オーラに慣れていない俺は一瞬吐き気を催した。しかしそれに耐えながら周りを見渡してみるとハチ公前では地下アイドルらしきグループの女性たちがライブのチラシを配っていたり、YouTuberが人混みの中撮影していたりとまさに「夢」追いかける人たちの想いが交差するさながら「夢の出発点」と言ったところだろうか。
この環境に慣れて馴染むことができれば俺も晴れて陽キャの仲間入りとなり今以上に人生を謳歌できるようになるのかもしれない。そう思いつつも別に脚光を浴びたいわけではないしと反発する自分もいるのである。そう思いながら駅前を見渡しながら歩いているとふとある物が気になった。それは駅から少し離れた場所にある古びた居酒屋であった。見るからに老舗感が漂っており一元さんお断りな様子が垣間見える。
普段は毎月親から小遣いをもらっているから特別お金には困っていないけれどこういう賑やかな街並みに佇む強者感のあるお店を見ていてもたってもいられず入り口の前まで来てみたがまだ14時なため店はやっておらず準備中の札が掛かっていた。試しに引き戸に手をかけ開けてみようとするとあっさり空いてしまった。すると厨房で仕込みをしている店主らしき人物と若い女の子の2人がおり女の子の方がこちらを見てキョトンとしていたが店主は動じずに仕込みを続けながら「バイトなら雇わねぇよ」と一言残した。後に続くように女の子が「そういうことなので申し訳ありませんがお帰りくださいませ。仕込みの準備の邪魔になってしまいますので」と追い討ちをかけてきた。コレは店の外見通り頑固な人たちだ。一筋縄では行きそうにないなと店を出た後本気で考え込んでいた。あれ?俺は今何を必死に考えている?まさかこの居酒屋で働くことを本気で考えているのか?何故?理由をいくら探っても到底出てきそうにない。人は些細なことで簡単に火がつくことはあるものであるがここまで意味の分からないやる気は初めての体験である。とりあえず今日のところは帰って少し整理しようと思った。現状考えられるのはきっと常に慌ただしく行き交う街並みで疲れた心身を癒すためにこの店に通う常連がいるのだろうと。そういう人情深い話は実は大好きなのである。そうと決まればやるべきことは一つ、徹底的に調べ上げ来たるべき決戦に備えることである。その過程で本当に固執しても後悔はないかも探っていく必要は大いにあるがそんなことで躊躇っているほどこの気持ちを抑える余裕は正直なかった。だからこそ今できることを全力でやるだけである。
そうこの物語は俺が一つの「夢」を追い求めるための物語である。
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