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22 彼女のやりたいこと
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花火をした日から十日ほどが過ぎ、十月に入っていた。
二学期の中間試験が始まり、午前中で試験が終わると、午後から『桜ヶ丘珈琲』で試験勉強をする日々を過ごしている。試験中は絵を描くことを封印している。
彼女は一日おき、もしくは二日おきに『桜ヶ丘珈琲』に来て、僕の隣で絵を描く。そんな彼女に勉強の休憩と称して会話する。
「最近、どこかに行きたいとか、何かやりたいとかないの?」
「ええ? コウ君、どうしたの急に」
これやりたい、あそこに行きたいと言っていた彼女が、まったく言わなくなった。彼女に付き合うのは面倒と思うけれど、何も言われないとそれはそれで心配になる。
「試験中は行けないけど、試験が終わったら行きたいところに付き合ってもいいよ」
「え~、コウ君が急に積極的~」
彼女はテーブルに置いた食べかけのドーナツを一口食べながら、うーんと唸る。
「やりたいことはコウ君とやっちゃったしなぁ。今年の夏は本当に楽しかったから。それに、去年東京にいる時、色々やりつくしてるし。あ、友達とだよ、元彼とではないよ。遊園地とか買い物とかカラオケとか他にも色々アクティブに動いてたんだけど、今考えてみれば、私はそういうのってそんなに好きなタイプじゃなかったなぁって。去年は友達多くて、みんなで楽しく騒いだけど、私は元々大人しいタイプというか地味というか。今はこうやって絵を描くのが楽しい」
「地味で悪かったな」
「もう、コウ君のことじゃないよ~。私の性格が地味ってこと。でも、絵を描くのは派手じゃないけど楽しいからいいじゃない。――私ね、コウ君の描く絵が好き。私が生き生きしてるもん。お兄さんも優しさが伝わって来る」
彼女はスマホを取り出し、これまで僕が送った絵の画像を見た。
「コウ君と一緒に花火を見ている絵、天体観測をしている絵、お兄さんも一緒にキャンプファイヤーをしている絵、お兄さんも一緒に何かのパーティーをしている絵。写真とは違って、コウ君の絵の中で私はやったことがないキャンプファイヤーを楽しめるし、やったことのないことも挑戦できてる。絵ってすごいよ。コウ君は漫画家になれると思う。イラストレーターとかもいいね」
漫画を描いてみたい気持ちはあった。兄を主人公にいろんな職種につかせてみたり、『もしも』で想像して兄を描きたい。
「そして、私はアシスタントをする」
「俺の?」
「そうだよ~。ほら、私も毎日絵の練習してるじゃない」
お絵描き帳をトントンと指で叩いた。
「なんて、妄想だけどね」
あはは、と彼女は笑う。彼女には、そうできる未来はない。
「とにかく、今は毎日絵を描くのが楽しいよ。コウ君の絵を見るのもね。だから、また絵を描いたら送ってね」
「うん」
「それにしても、お兄さんとは会ったことがないけど、もし道端で会ったらお兄さんの顔を見分けられる気がする。それくらい絵を見てるよね」
「……天国で会ったら、兄ちゃんと仲良くしてよ」
「うーん、私は地獄に行くからなぁ。きっとお兄さんには会えないよ。『死ぬまでに悪行の限りを尽くすぞ、オー!』」
「まだそれ言ってたんだ……。サヤの悪行くらいじゃ、地獄行きは無理でしょ」
「あー、私を舐めちゃいけねぇ! これまでたくさんの悪行を行って来た悪人……」
「はいはい」
「でも、単純に鬼って雷柄のパンツをはいてるのか見てみたい」
「あれは作り話でしょ」
「わかんないでしょー。もしかしたらハートのパンツかもしれないもん」
「それはそれで見たくないけど」
「それか、髑髏のマーク……」
最後は鬼のパンツの話になってしまった。なのになぜかその後、激論になった。
結局、彼女は行きたいところもやりたいことも無いとのこと。僕は、彼女のやりたそうなことを推測できず、彼女の事をあまり知らない事実に気づいた。
彼女と出会って、まだ三ヶ月と少し。彼女とは頻繁に一緒にいるからか、出会ってからまだそれだけしか経っていないのかと驚く。
彼女は絵を描くのが楽しいと言っているので、これまで通り『桜ヶ丘珈琲』に三日に一度ほどやってくる彼女と絵を描いて過ごす。
そんな穏やかな日々が一ヶ月ほど続いた十一月のはじめ、彼女は突然『桜ヶ丘珈琲』に来なくなった。
二学期の中間試験が始まり、午前中で試験が終わると、午後から『桜ヶ丘珈琲』で試験勉強をする日々を過ごしている。試験中は絵を描くことを封印している。
彼女は一日おき、もしくは二日おきに『桜ヶ丘珈琲』に来て、僕の隣で絵を描く。そんな彼女に勉強の休憩と称して会話する。
「最近、どこかに行きたいとか、何かやりたいとかないの?」
「ええ? コウ君、どうしたの急に」
これやりたい、あそこに行きたいと言っていた彼女が、まったく言わなくなった。彼女に付き合うのは面倒と思うけれど、何も言われないとそれはそれで心配になる。
「試験中は行けないけど、試験が終わったら行きたいところに付き合ってもいいよ」
「え~、コウ君が急に積極的~」
彼女はテーブルに置いた食べかけのドーナツを一口食べながら、うーんと唸る。
「やりたいことはコウ君とやっちゃったしなぁ。今年の夏は本当に楽しかったから。それに、去年東京にいる時、色々やりつくしてるし。あ、友達とだよ、元彼とではないよ。遊園地とか買い物とかカラオケとか他にも色々アクティブに動いてたんだけど、今考えてみれば、私はそういうのってそんなに好きなタイプじゃなかったなぁって。去年は友達多くて、みんなで楽しく騒いだけど、私は元々大人しいタイプというか地味というか。今はこうやって絵を描くのが楽しい」
「地味で悪かったな」
「もう、コウ君のことじゃないよ~。私の性格が地味ってこと。でも、絵を描くのは派手じゃないけど楽しいからいいじゃない。――私ね、コウ君の描く絵が好き。私が生き生きしてるもん。お兄さんも優しさが伝わって来る」
彼女はスマホを取り出し、これまで僕が送った絵の画像を見た。
「コウ君と一緒に花火を見ている絵、天体観測をしている絵、お兄さんも一緒にキャンプファイヤーをしている絵、お兄さんも一緒に何かのパーティーをしている絵。写真とは違って、コウ君の絵の中で私はやったことがないキャンプファイヤーを楽しめるし、やったことのないことも挑戦できてる。絵ってすごいよ。コウ君は漫画家になれると思う。イラストレーターとかもいいね」
漫画を描いてみたい気持ちはあった。兄を主人公にいろんな職種につかせてみたり、『もしも』で想像して兄を描きたい。
「そして、私はアシスタントをする」
「俺の?」
「そうだよ~。ほら、私も毎日絵の練習してるじゃない」
お絵描き帳をトントンと指で叩いた。
「なんて、妄想だけどね」
あはは、と彼女は笑う。彼女には、そうできる未来はない。
「とにかく、今は毎日絵を描くのが楽しいよ。コウ君の絵を見るのもね。だから、また絵を描いたら送ってね」
「うん」
「それにしても、お兄さんとは会ったことがないけど、もし道端で会ったらお兄さんの顔を見分けられる気がする。それくらい絵を見てるよね」
「……天国で会ったら、兄ちゃんと仲良くしてよ」
「うーん、私は地獄に行くからなぁ。きっとお兄さんには会えないよ。『死ぬまでに悪行の限りを尽くすぞ、オー!』」
「まだそれ言ってたんだ……。サヤの悪行くらいじゃ、地獄行きは無理でしょ」
「あー、私を舐めちゃいけねぇ! これまでたくさんの悪行を行って来た悪人……」
「はいはい」
「でも、単純に鬼って雷柄のパンツをはいてるのか見てみたい」
「あれは作り話でしょ」
「わかんないでしょー。もしかしたらハートのパンツかもしれないもん」
「それはそれで見たくないけど」
「それか、髑髏のマーク……」
最後は鬼のパンツの話になってしまった。なのになぜかその後、激論になった。
結局、彼女は行きたいところもやりたいことも無いとのこと。僕は、彼女のやりたそうなことを推測できず、彼女の事をあまり知らない事実に気づいた。
彼女と出会って、まだ三ヶ月と少し。彼女とは頻繁に一緒にいるからか、出会ってからまだそれだけしか経っていないのかと驚く。
彼女は絵を描くのが楽しいと言っているので、これまで通り『桜ヶ丘珈琲』に三日に一度ほどやってくる彼女と絵を描いて過ごす。
そんな穏やかな日々が一ヶ月ほど続いた十一月のはじめ、彼女は突然『桜ヶ丘珈琲』に来なくなった。
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