上 下
100 / 132
最終章

100 妹(仮)が可愛すぎる件 ※流雨(兄(仮))視点

しおりを挟む
 紗彩に浮気を心配する視線で見られ、居心地が悪い思いをする流雨だが、流雨が東京でモテたことは事実で、それを紗彩が知っているので、何とも言い訳しづらい。紗彩も過去の事を追及するわけではなく、これからの流雨が紗彩以外に目を向けないか心配しているのだ。紗彩しか興味はないのだと、これから行動で示すしかない。

 紗彩が過去のことを気にするのは分かるのだ。流雨だって、紗彩が前世で夫がいたと聞いて、内心動揺した。紗彩が夫だった第四皇子を気にしていないのならいいのだが、時間を逆行させてしまうなんて、第四皇子を不幸にしてしまったと紗彩は気にしている。

 現世では顔を見られて一目惚れされないよう紗彩は顔を隠し、今まで第四皇子と接触もほとんどないとは聞いたけれど、だからこそ心配だった。前世では夫の事が好きだったと聞き、もし再び対面することがあれば、紗彩は流雨よりも第四皇子を取るのではないだろうか。

 そんな不安と嫉妬から、つい紗彩に前世での夫を愛称呼びをしないで欲しいと言ってしまった。現世ではほぼ面識がないのに、いまだ第四皇子をそう呼ぶ紗彩が、本当は今でも第四皇子と一緒になりたいと思っているのではないかと、愛称呼びを聞いていたくなかった。

 紗彩は目に涙を浮かべながら言った。

「あと少しで赤ちゃんが生まれるはずだったの。最初は嫌がっていたけれど、第四皇子は少しずつ赤ちゃんが生まれるのを楽しみにしてくれていた。もう少し私が死ぬのが遅かったら、せめて赤ちゃんが生まれていたら、第四皇子も時間の巻き戻しをしなかったんじゃないかって。私が第四皇子の腕を離してしまったから、私が悪いの」

 どう考えても悪いのは、紗彩を殺した第一皇妃だし、時間の巻き戻しをした第四皇子だ。なのに、今まで後悔し、思い出すことが多かったのだろう。紗彩はいつも自分を責める。

 しかし第四皇子が時間を巻き戻してまで、紗彩を生き返らせたいと思った気持ちは分かるのだ。もう二度と愛した人に会えないのは、気が狂うことだろう。自分が使える技を使えば再び会えるかもしれないとなれば、流雨だって同じ事をしてしまうかもしれない。

 しかし、それは絶対しないでと紗彩が言うし、約束してしまったから、流雨は同じことはしない。それよりも、そんな状態にならないように力を注ぐ。

「前世ではね、ルーウェンは作った敵に報復にあって亡くなったの。それがいつだったか思い出せなくて。るー君、くれぐれも気を付けてね」
「うん、気を付けるよ」

 現世で本当のルーウェンが死んで魂がルーウェンの体から抜けた日のことを、紗彩は言っているわけではないのだろう。ルーウェンは、自ら作った敵から報復される機会が多かったに違いない。それのどこかで前世では死ぬことになったのだろうが、現世では流雨が対策をしている。簡単には死んでやったりはしない。

 その後、紗彩は東京に一度戻り、帝国に戻ってきた。紗彩の母は、婚約のために今度戻ってきてくれることになった。流雨も父であるリンケルト公爵と話は進めていて、今のところ順調である。

 そんな東京から戻ってきた紗彩が、不安そうな顔で口を開いた。

「るー君は、まだ私が好きだよね?」
「まだ? もちろん好きだよ」
「お兄様が、るー君は東京にいるときから、私が好きだったって言ってた」
「ああ、うん、そうだね。紗彩は小さいころから可愛かったから。俺昔から、紗彩が好きだって言ってたでしょう?」
「それは、シスコンの意味で好きなんだと思ってたの……」
「まあ、そういう意味もあったけれど」

 流雨が紗彩の額にキスすると、紗彩は顔を朱色に染め、恥ずかしそうにした。うん、可愛い。

「……あの、ごめんね、るー君。私、大きくなっちゃったから……」
「……? 何がごめん?」
「もう小さくないから。でも、ずっと好きでいてね?」
「………………ちょっと待って、まさか俺が紗彩を好きなのは、小さかったからって、そう思ってる?」
「るー君に小さいころから可愛がってもらっていたけれど、よく私の小さいころの写真見てるって言ってるし、小さいころから可愛いって言うし、小さい頃の私の方が好きなのかと」
「そんなわけないでしょ!? 俺、ロリコンじゃないから! そりゃあ、小さいころの紗彩もめちゃくちゃ可愛いけれど、今の紗彩も可愛いし、すごく好きだからね!?」
「……本当? 今が好きのピークじゃ……」
「何言ってるの! 年々好きが増すばかりで、来年や再来年は今よりもっと紗彩が好きだから!」

 間違いない、断言できる。まったく、紗彩を不安にさせているのは誰なんだ。俺なのか? 今までも可愛がると紗彩の反応が可愛いから率先して可愛がっていたけれど、今後不安に思う隙がないくらい愛情を注ごうと思う。

 それにしても、結婚するとなってからの紗彩が、今まで以上に甘えたで可愛い。やはり今までは流雨から離れなければと遠慮していたのだろう。流雨に抱き付くのに遠慮がなくなって、紗彩の視線から「好きです」と言っているような光線が飛んでくる。

 紗彩は帝国でモテないと言っているが、紗彩は日本では間違いなく可愛い。そんな紗彩が東京に帰るとなると、紗彩を狙う男がいるのではないかと不安だった。紗彩は自分が可愛いことを信じていないようで、東京に一緒に帰れない流雨が心配すると、紗彩は笑い飛ばす。

「るー君、心配しすぎだよ! 私って、そんなにモテないって言っているのに」
「それは紗彩の思い込みだよ。紗彩はすごく可愛いんだからね。もし街でナンパでもされたらどうするの?」
「ナンパ? ナンパなら、されたことあるよ」
「やっぱり! ほら、危ないじゃないか!」
「ナンパって商売なんでしょう? お兄様が、最近のナンパは物を売りつける商売がメインになっているって言っていたの。男の人に声を掛けられたら帝国語で返せばいいっていうから、そうしてるよ。皆すぐに諦めてさよならしてくれる」
「…………」

 先に実海棠が対策済だった。しかも商売がメインとか適当な話を紗彩は信じている。さすが実海棠。
 しかし、なぜこうも紗彩は自己評価が低いのか。紗彩が席を外している時にユリウスに聞いてみた。

「分かりません。姉様は小さいころから自分は可愛くないと言っていました」
「……これは、また前世で何かあったんだな」

 小さいころからということは、間違いないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

王妃の手習い

桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。 真の婚約者は既に内定している。 近い将来、オフィーリアは候補から外される。 ❇妄想の産物につき史実と100%異なります。 ❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。 ❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

隣国王を本気にさせる方法~誘拐未遂4回目の王女は、他国執着王子から逃げ切ります~

猪本夜
恋愛
プーマ王国のゲスな王子に執着されている王女レティツィア(17歳)は、未遂なものの、何度も王子に誘拐されかけている。 王子の執着と誘拐が怖くてビクビクと大人しく過ごす日々だが、それでも両親と三人の兄たちに溺愛され、甘えつつ甘やかされる日々を送っていた。 そんなある日、レティツィアに海の向こうの隣国アシュワールドの王オスカー(23歳)から婚約者候補の打診が舞い込み――。 愛してくれる両親と兄たちから離れたくないレティツィアは、隣国王オスカーと結婚する気はなく、オスカーに嫌われようと画策する。作戦名はその名も『この子はナイな』作戦。 そして隣国王オスカーも結婚に前向きではない。 風変わりなレティツィアに戸惑うオスカーだが、だんだんとレティツィアの魅力にはまっていく。一方、レティツィアもオスカーのことが気になりだし――。 レティツィアは隣国執着王子から逃げ切ることができるのか。 ※小説家になろう様でも投稿中

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~

イトカワジンカイ
恋愛
(あれって…もしや断罪イベントだった?) グランディアス王国の貴族令嬢で王子の婚約者だったアドリアーヌは、国外追放になり敵国に送られる馬車の中で不意に前世の記憶を思い出した。 「あー、小説とかでよく似たパターンがあったような」 そう、これは前世でプレイした乙女ゲームの世界。だが、元社畜だった社畜パワーを活かしアドリアーヌは逆にこの世界を満喫することを決意する。 (これで憧れのスローライフが楽しめる。ターシャ・デューダのような自給自足ののんびり生活をするぞ!) と公爵令嬢という貴族社会から離れた”平穏な暮らし”を夢見ながら敵国での生活をはじめるのだが、そこはアドリアーヌが断罪されたゲームの続編の世界だった。 続編の世界でも断罪されることを思い出したアドリアーヌだったが、悲しいかな攻略対象たちと必然のように関わることになってしまう。 さぁ…アドリアーヌは2度目の断罪イベントを受けることなく、平穏な暮らしを取り戻すことができるのか!? 「あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?」 ※ファンタジーなので細かいご都合設定は多めに見てください(´・ω・`) ※小説家になろう、ノベルバにも掲載

処理中です...