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第1章

58 兄(仮)は妹(仮)を教育中?

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 日曜日、朝から流雨が家の地下駐車場に迎えに来た車に乗り、流雨の実家へ向かった。流雨の母は数年前に再婚し、流雨には雷という現在四歳の年齢の離れた弟がいる。

 流雨の実家は都内のマンションで、マンションに到着すると、雷が走って抱き付いてきた。

「紗彩ちゃん!」
「雷くん!」

 四歳で可愛い盛りである。雷とは年に数回は会うのだが、時々しか会えないのに、いつも会うと大歓迎してくれて、とっても可愛いのだ。

 実は昔、雷が生まれると聞いた時、流雨に弟ができると聞いて、嬉しかったけれど少し気分が落ちた時がある。本物の弟ができたら、妹もどきの私は、きっと流雨に忘れられてしまうと思ったのだ。しかしそんな嫉妬の感情は杞憂だった。流雨は今も私を可愛がってくれるし、私ってなんて馬鹿だったのだろうと思う。

 雷は生まれた時からすごく可愛くて、私は雷が大好きである。
 雷と流雨と会話しながら、四歳は何でもストレートに話をしてくれるから、面白いと思いながら会話する。

「僕ね、紗彩ちゃん大好きなの!」
「わーい、私も雷くんが大好きだよ」
「本当!? じゃあ、僕たち、愛し合ってるってことだよね!」
「そうだね!」

 雷に告白されました。ありがとうありがとう、素直に嬉しいし、なにより可愛すぎです。きっと今の私の顔はデレデレしている。

「じゃあ、紗彩ちゃん、今度僕と結婚してくれる?」
「えー嬉しい! もちろん、い」

 いいよ、と言おうとして、流雨が私の口をふさいだ。どうした?
 流雨はにこっと笑いながら、口を開く。笑ってるよね? なんだか、ちょっと怖い笑顔である。

「雷、前に、さやか先生とリカちゃんと結婚するって言ってなかった?」
「うん! さやか先生とリカちゃんも僕と結婚してくれるって!」
「結婚する人はね、一人だけなんだ。全員とは結婚できないんだよ」
「どうして? みんないいって言ったのに?」
「みんないいって言っても、結婚できるのは一人だけなんだよ。役所が重婚は受理してくれないから」
「……? じゅうこん?」

 流雨の言葉が難しすぎて、雷が首を傾けた。四歳にそんな難しい説明をしなくてもいいのに。

「とにかく、雷が一番好きな人としか結婚できないんだ。だから、今は雷が一番好きな人を考えなくちゃね。紗彩に結婚を申し込むのは、その後だよ」
「えー……」
「さやか先生とリカちゃんは、どっちが好きなの?」
「……リカちゃ、……さやか先生かな」

 雷は真剣に悩んでいる。そして流雨はやっと私の口をふさいだ手を退けた。私は流雨の耳に手を近づけ、こっそりと耳打ちした。

「別に、まだ小さいから、そんな厳密に決めさせなくても……」
「今から教えておかないと、勘違いさせるのは良くないから」
「そ、そうだね?」

 なんだか流雨の笑顔に圧があるので、これ以上言うのを止めた。今から弟が遊び人になるかもしれないと、危惧しているのだろうか。まあ、雷は愛らしい顔をしているので、将来モテそうではある。

 まだ真剣に悩んでいる雷は、私との結婚話は忘れてしまったようである。それからも雷と流雨と話を楽しんでいたけれど、昼前に流雨の実家をお暇した。車で街に向かう。

「今日は買い物だったよね。荷物持ちは俺がやるから、昼食も一緒にどうかな」
「いいの? 荷物重いよ?」
「大丈夫だよ。紗彩と一緒にいられる時間のほうが大事だから」

 流雨の言葉に甘えて、買い物の荷物持ちをお願いすることにしたので、流雨とランチに向かう。中華料理を楽しみ、それから買い物へ。

 買い物は、帝国のみんなにお土産がメインだ。第三皇子ヴェルナーに納品する用のお菓子などは、すでに私の会社の部下である水野にリストを渡しているので、そちらで対応してくれている。たくさんのお土産を購入すると、私は家の地下駐車場まで送ってもらった。そして大量のお土産を駐車場に置いたままにしている台車に乗せる。

「るー君、今日はありがとう。また次帰ったときに会いましょう」
「うん」

 流雨が私を抱きしめてくれる。次回まで、この温もりとはサヨナラである。流雨が私を離すと口を開いた。

「またキスが欲しいな」
「え!? 今日の朝にしたよね?」

 頬にする、習慣的なキス。朝に会った時に、今日の分をしたのに。

「紗彩がいなくなると寂しいから。ダメ?」

 なんで、そんな子犬のような目で見るんだ。ダメなんて、言えない雰囲気である。まあ、恥ずかしいだけで、ダメなわけではないけれど。私は少しだけ考えるフリをしつつ、答えは決まってるのだ。「ダメじゃないよ」と言って、流雨の頬にキスをする。

「るー君も、してくれる?」

 視線を流雨に合わせられず、そう口に出す。そしてちらっと流雨を見ると、流雨は少し驚いた顔をして、その後笑った。

「もちろん」

 流雨に頬にキスを貰う。くすぐったくて、嬉しくて、そして恥ずかしい。

「ま、またね、るー君」
「うん、また」

 私は恥ずかしいのを誤魔化すように挨拶し、荷物と一緒に家に帰るのだった。
 そしてその後、私は帝国に帰国した。
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